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振られることから始まる恋もある

それは高校二年生になったばかりの、ある春の日。


「み、みちる……! ぼ、僕とつきあってください!」


「…ちょっと考えさせて」


 ……放課後の教室。

 僕は【大橋みちる】を呼び出して告白した。しかし、勇気を出した一世一代の告白は見事に砕け散った。

 彼女とは幼馴染みだ。

 家が近くで、小さな頃からよく遊んでいた。


 みちるは容姿端麗で、勉強、スポーツ…なんでも出来た。それに比べて僕は落ち着きがなくうるさい。振られるのも当然だった


「………あはは…じゃ、じゃあまた明日…」


みちるは空気の重さに耐えかねて早々に帰っていった。


「ああああ! どうしよう! 絶対引かれた! 嫌われたよぉぉぉ! 明日からどう接すればいいんだぁぁぁ!」


「…ウルセェェェ! 教室で叫ぶんじゃねぇ! そんなんだからフラれるなんだよ!」


「だ、誰!? 嘘だ、まだ教室に誰か残ってたのか…?」


周りを見渡すが、誰もいない。


「ここだよここ、オメーの肩」


「…え?…うわあああ! 小さいおっさんがぁぁ!」


「だからウルセェんだよ! こっちは二日酔いで頭イテェんだからよ…あと俺はおっさんじゃねぇ。恋のキューピット、妖精だ」


知らないおっさんにおもっくそキレ散らかされた。酷い……。

 こっちは傷心してるっていうのに……。


 落ち込んでいる僕をよそに、妖精と名乗るおっさんは僕の肩であぐらをかいている。


「…あとさ、お前…もっと筋肉つけろよ。こっちは毎回肩からずり落ちそうになってんだよエブリデイロッククライムだよ!」


「いや知るかぁぁぁ! てかいつまで僕の肩に乗ってんの!?」


 「だからデカい声出すなって! 頭イテェ…で、お前これからどうすんだよ」


「どうすんだって言われても…今まで通り普通に接するとか…」


「ハァー…はいマイナス100点。一回フラれたくらいで諦めてんじゃねーよ。いいか、まずは相手のことを徹底的に調べろ。まずはそれからだ。はい質問。お前はみちるがどんな男がタイプか知っているか」


 「……知らない」


「はい出ました即死ワード。0点。恋は情報戦だ、バカ。まず相手がどういうやつか知る。ターゲット名:大桑みちる。特徴:万能。弱点:たぶんある。好きな男のタイプ:――お前は知らない。だから負けた」


おっさん妖精は、どこから出したのか掌サイズのホワイトボードを肩の上に立てた。ヨレヨレの背広、赤ら顔、ちぎれかけの羽。マジックでキュッと書く。


「作戦名、オペレーション・ミチル。まずは相手がどんなやつか知ることだ。幼馴染なんだろ。あいつがいつもやっている癖や弱点くらい知っているだろ。」

「……えと、確かみちるは…髪型はいつもポニーテールで髪を結び直す癖がある!」


「はいゴミ。次の情報」


「えと…みちるは完璧に見えて実は天然!」


「はいそこ! 良い情報持ってるじゃねーか。そこに必ず隙がある。人間ってのはな、完璧なやつほど誰かの助けを必要としてんだよ」


「いいか、“正面から、誠実に、でも賢く”。それが俺の流儀だ」


ちょうど帰り支度の女子グループが教室前を通る。「みちる、明日の図書委員さー」「うん、終わったら購買のメロンパン行こ」――耳に刺さる単語。


「チャンスだ。まずは“好きな男のタイプ”の手掛かりを取れ。お前、幼馴染の権限で自然に聞ける友達いるだろ」


「い、いるけど……勇気が……」


「勇気は筋肉だ。鍛えれば出る。ほら行け。合言葉は“ついでに聞く”。主語はでかくするな、質問は小さく。『最近さ、みちるってどんな人好きだって言ってた?』これだけ」


背中を押され、僕は半ば転がるように廊下へ。幼馴染つながりのクラスメイト、佐伯に声をかけた。


「あの、さ、佐伯。みちるって、えっと、その……どんな人が好きって、聞いたこと……」


「え? んー……この前ね、『一緒にいて静かで落ち着く人がいい』って言ってたよ。あと『約束守る人』」


胸がズキッとする。“うるさい僕”に刺さりすぎるワードだ。


肩の上で妖精が鼻で笑った。「聞こえたか? “静かで落ち着く”“約束守る”。お前に足りないものが、明確に出たな」


「ぐ、ぐうの音も出ない……てゆうか僕の肩にいるおっさん見えなかったのか?」


「おっさんじゃねぇ! 妖精だ!…俺の姿はお前以外には見えない。それより…いいじゃねぇか。課題が見えたら、やることは一つ。“静かにする練習”と“約束を積む”。まず明日、図書委員の終わる時間に合わせて――『メロンパン奢る約束』を取り付けろ」


「奢るって……そんなの都合よく――」


「メロンパン。これが入口だ。入口で全力を出すな、入口で“誠実さ”を見せろ。遅刻するな、声を張るな、準備しておけ。いいか、勝負は準備で八割決まる」


おっさん妖精は小さく指を鳴らした。僕の机の中から、なぜか新品のメロンパンが一つ転がり出る。


「……これ、どこから」


「今買ってきたんだよ。期限は明日。お前が時間通りに、静かに差し出せるかのテストだ」


僕はパンを見つめ、拳を握った。

世界の終わりみたいだった胸の痛みが、少しだけ、作戦の鼓動に混ざる。


「――やる。明日、ちゃんと渡す。時間も、約束も、守る」


「よし、合格“マイナス100点”から“マイナス70点”に昇格だ。オペレーション・ミチル。今日はここまで。明日、絶対渡せよ」

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