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麗しきカーディナルフェルの家の事情1

 

 ディナル公国の宇宙港は、今、通常の三倍以上の人間であふれかえっていた。



 なぜならば、ディナル公国の至高の双子花とも、二宝玉とも呼ばれる、双子姫の姉であるキャルローラ公姫が、コクーンに親善に出かけていた父カルロ公と妹姫サラディーラ公姫の出迎えに来ていたからだ。

 立ち姿すらも美しく漂わせる雰囲気は清楚で可憐なキャルローラ嬢は、まさにディナルの宝石と呼ばれるにふさわしい佇まいを見せていた。

 青みかがった絹糸の髪は、天井のライトに輝きを反射させ、淡いブルーのワンピースは一見シンプルであるのに、その持ち得る髪の色と彼女の持つ清廉さのおかげで、どんな華美なドレスよりも美しくみえる。

 大きな式典でしか姿を現さない深窓のご令嬢たるキャルローラ嬢の姿を一目見ようと、宇宙港は通常の三倍以上の人間であふれかえっていたという訳だ。


「サラ、お父様、お帰りなさいませ」


 キラの発した声を一語一句、聞き逃してはなるものかとばかりに、あれだけ騒がしかったその場が急に静かになる。

 その中でキラは、前方から歩いてくる父とサラを見つけ艶やかな口唇をほんのすこし上げ、朗らかな微笑みを浮かべてサラと、そして父に抱きついた。

 絵になる姿を写真に取ろうと、一斉にフラッシュがたかれ光の洪水が出来上がる。


「あの戦闘機、デュオンですか? お父様。帰ったら詳しくお聞かせくださませ」


 それはそれは大層冷たく低い声で、双子姫に見とれて熱狂している民衆に聞こえないのが幸いで、父はもう一度、キラを抱きしめると両方の頬にキスを送る。


「私にも詳しいことはわからん。だが認識番号は国連だった。番号はサラが覚えている」

「ありがとう、お父様」

「あまり危険ことしてくれるな、キラ」


 キラは父から離れると、今まで以上の微笑みを浮かべて、再びサラに抱きついた。


「サラは確認できた?」

「番号は覚えているから、あとで覗いてあげる」

「ありがとうサラ、大好きよ」


 そんな会話をこの三人が交わしているなど知らないディナルの民衆達は、この親子に見とれて熱狂的な拍手を送った。




「泳いでくるわ、後はよろしくね、サラ」


 サラの両の頬に可愛らしくキスを残し、キラは開け放されたベランダからバルコニーへ向かう。

 月明かりはバルコニーにも届いていて一見すれば絵になる光景だが、キラの言い残した意味を正確に理解しているサラには、とても複雑だ。

 つい数時間前に熱狂的な賛美と拍手に包まれていたキャルローラ嬢は、サラの言うところの悪戯娘に戻り実態を知っている乳母や侍女すらをも落胆させた。

 もちろん、サラもほんのすこしだけ落胆したが、それは笑顔で隠した。


 国民の知る深窓のご令嬢、暁の姫君は、この邸を一歩出ない限り、滅多にお目にかかれない本当に貴重な存在で、至高の花とはよく言ったものだと、二人の姉が呟いていたのを思い出す。


 一度、カルロが家でも演技をしてくれと真剣な表情でキラに懇願した時、キラは一瞬で全ての者を虜に出来る微笑みを浮かべ


「顔面神経痛で死んじゃうわ、それともお父様は、笑うだけの馬鹿な娘がお好みですか」


 と言い放ち、父を落ち込ませた。

 さすがに来賓が自宅に居るときだけは深窓の令嬢を演技する。

 その理由をサラに聞かれたキラは笑って「私だって公私の区別くらいわかるのよサラ。演技って大事よねぇ。やっぱり女は二面性が大切だしね」と冗談なのか、本気なのか区別の付かない言葉を言ったのだ。

 

 公私の区別は理解できる。


 それは自分たちの立場では当然の義務だから。だけど、二面性は関係ないんじゃないの、というサラの考えは、その場限りで封印された。────


 相手はキラだ。


 何を言ったところで、キラの論理が優先されるのだから。ただ、キラのその演技力と使い分けにサラはある種の感動と尊敬を覚える。だけど間違えてはいけない。

 何度も言うがキラはキラだ。

 どんなに演技をしていても、どんなにお嬢様の仮面をつけていたとしても、キラの全身から発散される「生」というエネルギーはもの凄いのだ。

 そして瞳に宿る光はその「生命力」の強さ


 理想の宝珠の姫として、可憐で淑やかで、清楚で慎ましくをキラは演じている。

 それに見合うだけの容姿を持ち、神に祝福された娘とまで言われている。

 けれど、キラを良く知る人間なら清楚可憐なキラより、鮮やかで逞しく色々な意味で艶やかなキラの方が好きだと言う。

 だから、双子だと言うことを差し引いたとしてもサラはキラが心から大事で誰よりも大切なのだが、ただ一ついや、二ついや、あげればきりがないのだが、どうしても納得出来ないことが存在する。


 これもその一つだ。

 バルコニーから消えてゆくキラの背中に、あえてその言葉を投げつけることもなく、投げつけたところで、キラがサラの言うことを素直に聞いてくれるとも思わないので、言葉の代わりにサラはため息をついた。



(キラ、それは泳ぐじゃなくて、飛び込むでしょ?)



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