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不機嫌な勇者見習い3

 こんなときに不謹慎ではあるが、ルイスのこの時の心境は、息子のこんな表情は滅多に拝めない、という密やかな意地悪心だ。


 それほどの衝撃的事実で寝耳に水。

 青天の霹靂だったのだ。


 マルスはルイスから見ても優等生であり親の言いつけをよく守り容姿端麗。

 優等生である事を一度として強要したことなどはないが、出来が悪いよりは良いに越したことはないと親ならば誰だって思うはずだ。

 親の言いつけを護るというのは、表面上はと付け足しされる。

 多分にマイルが半ばその親である立場と、マルスが抗いようもない庇護下である現状を盾にとっていたことは無視だ。

 容姿については、こればかりは両親に感謝して当然である。

 なんといっても若い頃は水も滴るいい男(雨男として有名だったことは息子には秘密だ)と言われたルイスと月の女神とまで言われ賞賛されたディアナとの子供なのだから。


 で、今、ルイスがなんでこれほど心の中で狂喜しているかといえば、目の前に立つマルスの間抜け顔を間近で見られたという出来事だった。

 狭量な心の持ち主とののしられようと、だ。

 いい気分に浸れていたのは、わずか一分強ではあったのだが。



「ディナル公国は宗教市国ではないのですか?」


 当然の答えだと、その場にいた大人三名は強く頷く。

 誰だってにわかには信じがたい事実なのだから。

 地球生活者および宇宙生活者の約70パーセント近い人間達が崇拝している「アンタレス」は、人の心のよりどころであり、一番浸透している宗教だ。


 歴史は古く旧世紀時代には別名で崇拝されていたとも言う。

 事の真意が確かめられないのは過去の大地震と、進んだ科学のしっぺ返しで壊滅的な打撃を受け、その歴史の殆どが地球上から姿を消しているからだ。


 現在の人々の圧倒的な神として君臨するアンタレス。


 語源はアレスに抵抗するモノという神話からだ。

 アレスとは軍神であり粗暴な神で、このアレスに盾突き、平和を勝ち取った人々のことをアンタレスと言った。

 偶然にも宇宙生活者の礎を築き地球を救い「人類の最大の敵にして、人類最大の理解者」であった人物の名も「アンタレス」と言った。


 第1コクーンにある宗教本国アンタレスは、まさしく「天の神」そのアンタレスの地球にあるのが宗教市国ディナル公国である。

 本国アンタレスは一般の人間達が訪れることは出来ず、入国を許されているのはアンタレスに終身を通して仕えることを約束した者達だけで、一般の人々が礼拝に訪れるのは、地球にあるこのディナル公国だ。

 ディナル公国を収めているのは、ディナル公と呼ばれる「カーティナルフェル」一族で、代々アンタレスの護衛を担当している。

 性質上、戦争に手を貸したりはしないが、安全を守るために軍事力を有しているのも有名な話しではある。

 だが、その軍事力にしても、ミサイルを有しているとか、何か強大な核を有しているとかは聞いたことはなく、ディナル公国周辺の海域の護衛と、宇宙にあるアンタレス本国の護衛と警備を担当しているくらいだ。


 そのディナル公国が、高い技術力を有しているだけでなく高水準の軍事技術を要している事を知れば誰だって驚く。

 ましてやそのディナルがコクーンに対して軍事目的の技術を提供しようとしている。

 驚かないのは絶対に無理だ。

 一度としてそれを行使したところを見たこともなければ、聞いたこともない。

 高い軍事力がある程度の抑止力を持つ事は当然で、だからこそ月は地球からの独立を勝ち得たのだし、抑止力たる役目の軍事力はさらけ出してこそ、その役目を果たす。逆に考えれば地球に国に置き、中立を有しているディナルがコクーンに軍事技術の提供をすると言うことは、アンタレスや地球側とのバランスを崩すことにもなりかねない。


「まあ、いずれ色々と話しをすることも出来る。だが、今のお前達には不必要な事だ」


 半ば呆然自失となっていたマルスとエドを現実に戻したのは議長の言葉だ。

 その言葉には子供は口出すなとか、下っ端が知らなくてもいいことだとかのニュアンスが多分に含まれていてマルスとエドはカチンときたのはご愛敬だ。


「お前達も今、コクーンが置かれている状況は理解できているか?」


 国防総帥の低い声にマルスとエドが頷く。

 若いがエリートと呼ばれ群青の制服を着ているのだから、頭の回転は悪くないし、先を見る目にだって恵まれている。

 その上、親はコクーンの中枢の人間なのだから当然、知りもしないくてもいいことまで知り得ている。


 現在、地球とコクーンの関係は緊迫状態が続いている。

 そのせいでマルスとエドは配属早々から戦闘に明け暮れている。

 命の危機を感じた戦闘はまた、数数えるほどではあるが、小競り合い程度で済んでいるのは一重に外交努力の成果だ。

 それを思うとマルスは複雑なのだが。

 但し、いつ爆発するか分からない危険は毎日孕んでいる。

 それでも戦争をコクーン側から仕掛けることは絶対に出来ない。地球との軍力の差は歴然で物量も違いすぎる。

 地球の一部の国からの援助でまかなえているものも多く、戦争になれば、そうした国々の立場もある。

 戦争をするにしても「やりましょう」「そうしましょう」と簡単にはいかない。

 だが、ディナル公国に技術力を要請するという事は、地球との技術と軍力のその差を埋めるため、ディナルが私有している技術力は不可欠だから協力を仰ぐと言う。


 つまり「やりましょう」という意味の外ならない。


 今まで漠然としてでしか感じていなかった戦争が今、マルスの直ぐそこで呼吸を始めている。

 その現実と事実に呆然とする。



(そんな状況下で息子を軍人にするか、この馬鹿オヤジ)



 コクーンを愛していることに変わりはない。

 自分の生まれ故郷だし、宇宙生活者としての立場も理解している。

 地球のしていることを許せるのとかと、問われたら許せないと思う。

 だけど戦争は別物な気がするのだ。確かに地球の横暴さは鼻につく。

 

 憎いとか滅ぼしたいとかの感情を持ったことはないから納得出来ないのだ。

 だが、確かにこのままではコクーンに未来がないのも事実で、その解決方法が戦争しかないことが何故だか哀しいと思う。


 もっとも、戦場に出されてしまって攻撃されてしまえば、死にたくない。

 マルスにだって理想と現実の違いは分かっている。


「お前達に、民間人としてディナルに向かって欲しい。ディナル公は国連での立場がある、ましてや私は表だって動けない。お前達二人にディナルに赴き、私達のコクーンの総意の親書を渡してきて欲しいのだ」



 こうして、突然、マルスとエドの地球行きが決定した。



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