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*華麗なる姉妹の特別なジジョウ*  作者: 六軒さくみ(咲海)


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女神の一撃2



「一応は上級アカデミーの出身なんでしょ? もっと体術を身につけたら? 情けないわね」



 男一人を軽々と背負い投げしてキラがのたまった。



 投げ飛ばされただけでもかなりの屈辱なのに、相手がその場から一歩も動いていないことがもっと屈辱でそして体中を敗北感が駆け抜ける。

 そしてなによりも、同じ相手に投げ飛ばされるのがこれで4回目だと思うと、悔しさと相手に対する敵愾心と競争心が頭を擡げてくる。

 だから、反撃しようと咄嗟に起きあがって構えて相手を見据えてみれば、見据えられた相手のキラは、キャルローラとしての表情になり変わっていた。


 そこには先ほどまで小憎らしい程に自分を揶揄する色をした瞳のキラではなく、万人の誰もが明けの空を閉じこめた宝石と噂する柔らかな色をしたキャルローラ嬢で、その変わり身の速さに目眩を覚えた。

 いやすでに目眩を催して一瞬だけ暗転したくらいだ。

 だが、とにかく一矢、一言報いなければと、それだけで意識を呼び戻すと、ついマルスは負け犬ばりの台詞を繰り出してしまった。


「投げ飛ばしたのはお前だろ!」

「そうよ、あんな所に出入りしているなんて、ワタクシのお見合い相手は、女性に不自由されているのかしら。それとも、嘆かわしいほどの遊び人なのかしら」


 マルスが痛いところをつかれて言葉を失う。

 あげくあの時父に言われたのと同じ台詞を言われて今度は、ふつふつと怒りがわき上がってきた。

 その怒りを抑えるのに必死なマルスを見て、リィが「不憫だ」と呟いた声にサラが乾いた笑い声を漏らした。


 ちょっと時間を遡る。



 キラに「お見合い相手の方とお話がしたいですわ」と上目遣いに、ごく上品かつ丁寧な口調で頼まれて、リィは最初、友の気持ちを考えて断ろうかと思った。


 だが、隠していてもいつかはキラの本性がばれてしまうのだし、ショックを与えるならじわじわと与えるよりも、まとめて不幸を知った方がいいだろうと思い直し、マルスを呼びに行った。

 但し、キラには「あんまり虐めるな、程ほどにしておけよ」と、釘を打つことを忘れなかった。

 打ったところでぬかに釘、馬の耳に念仏の如くキラには無駄であろうとは思っていたが、それでも一応は友のために釘を打つことに、念仏を唱えることにしたのだが、そのリィの良心と友に対する思いやりにキラがくすりと笑った。



「私の伴侶となる方の教育をしてもよいと、ルイスやセレス様からお墨付きを頂いておりますのよ」


 にこやか且つ可憐に微笑みながら返されて、思わず絶句し「なんだって!」と叫び声を上げてしまったくらいだ。


「生殺与奪の権利を与えるなんて何を考えているんだよ、ガブリエル10世も、マルスの父親も」

「お兄様、よろしいのですか?」


 微笑む瞳で「そのようなこと言ってもいいのか? 責任持てよ、この馬鹿兄」と案に語っていたキラは、これ以上はないほどに甘く柔らかな微笑みを浮かべていた。

 ただ、瞳の奥にだけ灯された熾烈な色を見て、リィは背中に悪寒が走るのを止めることを出来なかった。

 面と向かってキラと喧嘩をしたどころで、口げんかに始まって体力や実力行使にいたるまで何一つ勝てないと認識しているから、兄としてはこの上なく情けないことだが、賢くもそれ以上は口を噤むことにした。


 人間誰だって自分の身が可愛い。



 友情よりも、何よりも、自分の命がまずは最優先事項だ。

 生き残るためにはなんらかの犠牲が必要ならば、今ここで差し出せるモノは友情しかない。

 親友マルスの顔を思い浮かべて「許せ、友よ」と謝罪しつつ「アンタレスのご慈悲を」と珍しく神頼みをし、リィはマルスを訪ねてメタトロンからアヴァロンに移動した。




「妹に会ってくれないか?」


 どこか遠慮がちに、だけど言いにくそうに言い出したリィは、このときもまだ心の名でマルスに謝罪していたが、とにかく自分が助かるためには新たなる獲物が必要なのだから、と必死に自分の良心やら迫り来る罪悪感と戦っていた。

 本来、人を騙すとか、顔色をうかがうであるとか、その場の空気を読むという類のことが苦手で、あげくスキルのないリィは嘘の付けない質である。

 だから、リィの様子からマルスは何かを悟っていたようだが「行かない」と切り捨てる事はせず、軽く息を吐いてから「俺も逢いたいと思っていた」と、半分諦めの境地で呟いた。


 逢いたいのは何も口から出た出任せでも、強烈な印象を残したお見合い相手に対する社交辞令ではなく、本心から逢いたいと思っていたのだ。

 大切な婚約者だから逢いたいのではなく、自分が恋いこがれた相手だからでもなく、確かめたいことがあるから他ならない。


 あの時、あの場所で。

 自分の耳に飛び込んできたあの声は、確かにあの時の彼女の声だった。


 あの時、あの場所で。

 自分の鼻に残ったあの甘やかな薫りは、確かに彼女の漂わせていたものだ。



 そして、なによりあの彼女に逢ってみたいと思ったのだ。



 飾りも何もかも取っ払った彼女に。

 


 まさか、部屋に一足入れるなり、投げ飛ばされるとは思わずにいた。



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