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*華麗なる姉妹の特別なジジョウ*  作者: 六軒さくみ(咲海)


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女神の一撃1



─────  国民的美少女コンテスト



 なるものがあったとしたら、ディナル公国のご令嬢たるキャルローラ様は、それに参加することはほぼ不可能な立場ではあるものの、誰もがこのキャルローラ様が間違いなくグランプリを取ると言うであろう人物である。


 容姿、才能、家柄と教養などに至るまでどれをとっても非の打ち所のない少女である。 

 そのキャルローラ様にはキラという愛称があり、こちらはごく一部の人間しか知らない愛称で、こちらの名前から連想されるのは凛々しく、雄々しく、猛々しくである。


 そして、一方で。


 マルス・ローダリールという人物は、幼年時代から一貫して女性からの人気を集めていた人物で、颯爽として好青年であることは間違いがない。

 物腰も柔らかで人当たりもよく、真面目故に頑固で融通の利かない部分も存在するが、一般的に見てもお婿さん候補の筆頭である。

 そのマルスにはひとつだけ親友のエドですらも手を焼く部分がある。

 実はとんでもなく負けん気が強いということである。


 突然、現れた白い機体のパイロットが、それこそ寝ても覚めても夢うつつと思い焦がれていた、キャルローラ公女だと知ったときの衝撃は、心臓も止まるほどであった。

 逆にその衝撃から冷めてしまえば今度はともでもない敵愾心が頭をもたげてきた。

 苦労に苦労を重ね(正確にはそんなに苦労ではなかったが)軍人になり、やっとのことで動かした新型機を、自分達よりも年下のキラは微笑みながら動かしてしまっているのだ。



 これに敵愾心を燃やさず、いつ燃やす! 



 その一方では、あのキャルローラ嬢が、あの、たおやかに美しく絵本の何かに存在していたご令嬢が、戦闘機に乗っていたことに対する言いようのない感情はこの際、きっぱりと封印した。


 絵本の中のお姫様は、

 絵本の中だからの、お姫様なのだ。


 現実に、そのような人物がいるはずがないのだからと。

 それでも忘れられないのが恋心であり一目惚れなのだ。

 だから、この時のマルスの機嫌が手のつけようもないほどに悪いのは至極当然のことであった。

 つい先日と似たような黒いブリザートが吹き荒れていて、その原因がまたブリザードを起こしていることは、他のクルー達に伝わり、空き時間といえどこの娯楽室の地を踏もうとする猛者は存在していなかった。


 賢い人間というのは嵐の夜に家を出ようとか、ブリザートのまっただ中、山に登ろる愚かしい事はしない。

 そんなことをするのは命知らずではなく、身を隠さなければならない犯罪者だけである。


 ところが世の中には命知らずや、無謀者は存在している。

 この二つに当てはまらなくても、その場の空気を読めない天然記念物的な人間が存在する。

 それがリィで、彼は何事もなかったかのような顔でメタトロンから渡ってきて、マルス達に会いに来た。

 冷静に考えればあのキラの兄なのだから、この程度で動揺したり驚いたりと、何か特別な感情が(すでに人としてはいかがなものかという感じもするが)、わき起こるはずもないのだ。



 アヴァロンの乗務員用娯楽室の扉を開けて目的の人物がいるのを確認すると相手が座っている前の席に腰をかける。



「おいマルス、随分と不機嫌だな」

「ほっといてくれ!」


 あれだけのことがあったにもかかわらず、ケロリと事も無げに明るく言うリィにマルスが低い声で切り替えす。

 そんな失礼な態度に動じることもなく、リィはにこやかに笑うだけだ。

 一般的な観点から言えば不敬罪に当たるが、リィはそんなことを気にする性分でもないことは、マルスも十分に理解しているから、素のそして友として遠慮なくつきあえている。



「キラ、すっごい妹だろ?」


 マルスの不機嫌の原因が自分の妹に一因があると気がついたリィがやはり事も無げに明るく告げる。

 キラには常日頃から「お兄様は空気が読めないことに関しては天下一ですわ、誰にでも真似できることではございません」と言われているが、実はヘンな洞察力が備わっている。


「お前がその姿で男だというのもある意味すごいと思うがな。正式発表で始めて知ったぞ、お前が男だと」


 リィが腰掛けるのと同時にマルスの隣に陣取っていたエドの声には、知らされていなかったことに対する微かな怨み節が含まれていて、リィがほんの少し苦笑いするが、それも本当に僅かな時間で、すぐににこやかに笑う。

 家では自分が一番常識人であると自負しているリィは、キラに関する一連の出来事で驚愕したり、驚いたりはいつものことで(最近では逆に期待している辺りは、すでに一般の常識からはかけ離れた存在であるのだが)、その自分が味わい続けていた気持ちを、目の前にいる親友達が味わっているのだから、これほど楽しいことはない。


 人は誰しも、自分に降りかからない出来事ならば、笑ってすますことが出来るし、他人の不幸は密の味なのだ。

 そして人様のプライベートをのぞき見ることに、背徳の喜びを感じるものだ。

 だから今のリィは何を言われても、どんな態度をとられてもちっとも、痛くも痒くもそして癪に触ることもない。


「わりぃ、まあ家庭の事情って奴だ」

「お前が実は男。長女であった人物も男。あの双子の片割れも男。しかも片方は戦闘機に乗って出てくるんだから、お前達の家はどうなっている」

「だから、家庭の事情って奴」


 どこの世界に男を女ととして育て、そして絵に描いたようなお姫様が、戦闘機に乗っているような家庭の事情が存在するのか、大いに疑問を感じるところである。

 約24年間も世界を欺き通してきたその家庭の事情。

 よくもばれなかったものだと、そちらにも感心するやら呆れるやらで、ルノはリィに視線を投げてとばした後、肩をすくめた。

 エドやマルスに比べれば、ルノはまだ受けた襲撃は少なかったものの、なにか理不尽さを感じるのは致し方ない。


「マルスの機嫌が悪いのは、やっぱり、それが原因か?」

「ほっといてくれ!」


 再び自分に質問を向けられて、むくれたままマルスは視線を外す。

 その姿がとても将来を期待されてエリートからはかけ離れていて、リィは失礼だとは思ったが笑ってしまった。

 笑い声にさらにムッとしたマルスにお構いなしに、リィはくすくすと笑い続ける。

 リィの傍にはマルスのような素直な反応を示す人物がいないから、とても新鮮なのだ。

 兄は腹にいちもつを抱えつつも、いつもと変わらず笑える人間で、あげくあのディナルの跡取りなのだからそれなりにしたたかで計算高い人物だし、年相応の顔など弟の自分すらも見たこともない。


 下のキラとサラに至っては言わずもがなで、リィに言わせれば自分の妹と弟ではあるが人外生物だ。

 キラとサラのふくれっ面など見たこともなければ想像もつかない。


「そりゃさ、一目惚れした相手が戦闘機で駆けつけりゃ驚くっしょ。あげく自分よりも戦闘が上手とくれば、男としてもエリートとしても凹むって」


 マルスがルノを未だかつてないほどの怒りを込めて睨み付けるのと、リィがこれまた未だかつてないほど驚いて瞠目するのとはほぼ同時だった。


「…………今、一目惚れって言ったか?」

「ああ」

「よけいなことは言うな、エド」


 自分のことは棚に上げてエドが大きく頷く。

 確かにエドもキャルローラ嬢に惹かれていたのは事実だが、マルスのような熱に浮かされ夢うつつな状態になど陥っていない。

 どちらかといえば、アイドルに熱を上げていた程度のもので、それなりに現実を見ている。


 キラに一目惚れなどという人間は、今まで星の数ほど見てきたから今さら驚くようなことかと思い直したリィが、ため息とともに、マルスを見やれば剣呑な瞳が今度はエドに向いていた。

 なんとなくヤバイ感じの空気を珍しく読みとったリィが、話題を変えようと頭をひねるが、所詮は空気の読めない人間の発言である、これもまた爆弾を投下した。


「そういえばさマルス。お前のお見合いするんだって?」

「その話はしたくない」


 その一言にエドとルノが「うわっ」と派手に渋面を作ったが、やはりリィにはまったく通用しない。

 そうなるとルノもエドも今この場に居合わせてしまったこの世の不幸を呪いつつ、もうどうにでもなれという半ヤケ状態になり、開き直る事しかできない。


「なんだよ、どうした?」

「ほっといてくれ」

「マルスのお見合い相手は、よりにもよってデュオンの血筋らしい」

「よりにもよって! あのデュオンだぞ!」


 と、怒鳴ってからマルスは自分の発言が不適切だと気が付く。

 自分の目の前に座っているリィもそのデュオンの血筋なのだ。

 頭に血が上りブリザートを背負いつつ、不機嫌オーラを発して憮然としているマルスも自分の友は大切だし、その複雑な思いも理解しているから、急にバツが悪くなる。


「……わるいリィ」

「いや、いいけど。私だって本家は嫌いだし、お前の事を知らない仲でもないしな……だけど、どうするんだ、逢う前に断れるのか? 相手はデュオンなんだろ?」

「問題はそこだよな、このご時世だし。人身御供になれって言われても仕方ないよな」


 まるで他人事のように話されて、実際ルノとリィにすれば他人事だから当然の反応ではあるが、自分の目の前でなされた会話にカチンとくる。


「だから尚更腹が立つんだ! 簡単に断れないし、父上は勝手に決めて、あげく絶対に破談は許さないとか言ってる。俺は父上の道具じゃないぞ」

「で、相手の女の名前は? こう見えても私もデュオンの人間だからな、名前くらいは聞いたことがあるかもしれないぞ。そもそもデュオンに女は少ないしな」  


 自分の本家を馬鹿にされているにも関わらず、こちらも他人事のようなリィを見て、エドは密かに「やっぱり訳のわからん家庭だ」と呟きつつ、ため息をつく。


「………相手の名前……知らない」


 マルスの言葉に素っ頓狂な声を上げるリィを見て、マルスが益々、憮然とした顔をする。


「はぁ? おいおい、マルス」

「父上から話を持ち出されて、デュオンの一族だって聞いて、そのまま飛び出したから、本当に知らないんだ、あ……ただ、相手の名前は聞かなかったけど、月で生まれて地球で育ったって。暁の姫と呼ばれる令嬢だとかなんとか」


 ルイスに話を持ち出されたことを思い出してしまったのか、マルスの背中には一度は消えかけたブリザードが発生している。

 それをあまり気にならないリィはマルスが言った相手の特徴を考えて、考えているうちに今度はリィの表情が固まっていく。


「デュオンの一族で、マルスに年が近くて、月生まれの……地球……育ち……そんなのは……」

「思い当たるのがいるのか、リィ?」


 マルスもリィの表情が気になったのか、はたまた思い当たった相手が気になるのか背負っていたすべての負をかなぐり捨てて、リィを見つめる。

 見つめられたリィは視線を彷徨わせつつ、そしてどこか遠くに心を馳せている。


「あ、いや……あ、でも……まあ、な……まあアレだ。容姿はいいぞ。それこそ深窓の令嬢。暁の姫君って言われてるくらいだし。微笑みは春の日差し、その瞳は暁の空を閉じこめた宝石。たおやかで美しく、立ってる姿は一枚の絵のよう気品高く、歩く姿は優雅で可憐って言われてるからな。囁く声は玲瓏な響きで人の心を惹きつけるってな」

「それはまたすごい形容だな? 人間か?」


 形容を聞いてエドが怪訝な瞳で、それこそ何か危なげな者を見つめる瞳で聞き返してくる。


「当たり前だろ、ただ国ではそう言われてるの」

「だけどデュオンの人間なんだろう?」

「そりゃ、まあ、マルスの言うとおりデュオンと言えばデュオンだが、あいつはそれを心底嫌って、自分の血筋も疎んでるからな……」

「あいつ? やっぱり知っているのか?」

「ああ、知ってるなんてものじゃないぞ……」


 そこまで言ってすからリィはおもむろに立ち上がると、マルスと向かい合い、その両肩に両手をおくと心底労るように心底同情して、心底不憫だと瞳を向ける。


「マルスお前、苦労するぞ。……てかすまない、私は励ますことくらいしかできない。つーかお前、死ぬなよ」

「なんだよ、それ!」

「で、結局の所、誰なんだよ、それは?」


 マルスのとまどいから発せられた大声を遮るように、問いただしたルノの声は、この日最大の恐怖を運んできた。




「キャルローラ・シオン・カーディナルフェル。ディナル公国第一公女、アンタレスにおいては聖姫ジャスティティアのわたしよ、何かご不満でも?」




 あまりの恐怖と衝撃に誰も声を出せないでいると、その場にリィの静かな声がやたらと大きく響き渡った。



「マルス、私は本当にすまないとしか言えない……」 

「リィお兄様」

「キラどうした? お前まだ着替えてなかったのか?」

「着替えたいのは山々なんだけど服がないの。お兄様、調達してくださらない?」

「お前、さっきまで来ていた服は?」

「あちらに置いてきましたの」


 と、マルス、エド、ルノなど眼中にはない、またはここに存在していない、まるで空気のような存在とでもいうように、固まり続けているその三人の事などまったく気にせず、進められていくキラとリィの会話は至って穏やかだった。

 マルスに対して放たれた「私があなたのお見合い相手よ、何か文句が御座いますの?」という解毒剤すらも存在していない毒矢は、マルスの心臓に命中したばかりでなく、素早く体をむしばんで、今や息も絶え絶えな状態だ。


 どこを探しても戦闘機に乗る深窓のご令嬢なんて聞いたこともなければ、存在自体見たことがない。

 ましてやその少女は絶世のといっても過言ではない美しい容姿を持っているのだ。

 何かが激しく間違っているはずなのに、言葉が出ない。

 そもそも自分のお見合い相手がディナルの公女であるのかが理解出来ないマルスである。


 カーディナルフェル家といえば、マルスにとっては母の事件に関与している憎きデュオン家の系譜ではあるが、デュオン家とは袂を分かち今は唯一対抗する事の出来る家柄である。

 代々アンタレスの護衛を司り、地球においてもその重要たる地位を持つ。

 ましてや今はデュオンと真っ向から敵対しコクーン独立のために力を貸そうとしているその一族の、ご令嬢たる人物キャルローラ・シオン・カーディナルフェル。


 アンタレスでは当代でたった一人にしか与えられないとされる聖姫の称号と、ジャスティティアの祝福名を与えられ、ディナル公国の長たるカルロ公のたった一人の娘として、女性でありながら、地位も名誉もすべてを得ている少女である。

 本来ならばどこぞの国の皇太子であるとか、アンタレスに連なる重要人物の一族にであるとか、家柄に地位や名誉といった金箔を塗りたくった家に政略結婚をさせられてもおかしくない(マルスとの婚約も十分政略結婚のひとつだが)、その人物が一介の軍人のお見合い相手。

 確かにマルスの父親は地位も名誉もある人間だが、マルス自身はこれから華々しい未来が待ち受けているかもしれない。

 が、あまくでも「かも」のつく立場なのに、なぜにそんな大物の令嬢とお見合いしなければならないのか。


 考えても考えても、どんなに考えても答えは見えない。



 ルノとエドに関しては何か聞いてはいけない事、見てはいけないこと、この世の出来事ではないモノを知ってしまったと言わんばかりの表情を浮かべている。

 それこそ自分たちはいつから目をあけたまま夢を見るなんぞという特技をいつ身につけたのかと、思ってみたところで心当たりはないから、やはり目の前の、そして自分の耳で聞いた出来事が真実であると思い当たると、二の句が継げないまま、目の前で繰り広げられている兄妹のほほえましい会話を見つめている。


「調達って、おいおいキラ。サラのドレス借りたらいいだろう……てかお前、着替えは」

「あの状況下で服を積んでいる暇なんてあると思いますのお兄様? こちらにいらっしゃるときにお兄様が持ってきて下さると期待しておりましたのに」

「あ、わりぃ。そうだよな」

「ですからお兄様。責任持って、調達してきてくださいな」


 との一言で、リィはキラが着る服を調達することになったのだが、なぜに自分が調達係にならなければいけないのかという疑問が一瞬だけ頭を擡げてきたが、キラの理論に抵抗したところで勝ち目はないのは、リィの体に染みついているので、それ以上の言及は避けて頷いた。 

 

 そして、そのまま凍り付いている三人などアンタレスの聖堂にある彫刻と一つとでもいうように、気にもとめずに二人連れ添って出て行くに至って、やっとのこで人間に戻ることが出来たのである。




 忘却の彼方に葬り去るには新しすぎる戦艦アトラスを混乱の坩堝に陥れたディナル公女捕獲事件を知っている人間にとっては、あの時、あの格納庫で、万年氷すらも一瞬にして溶かしてしまいそうな、微笑みを浮かべたその人物が、あろうことか戦闘機に乗って降りてきて「ごきげんよう、またお会いしましたわね」等と手を振ってにこやかに告げたのだから腰を抜かすな、驚くな悲鳴を上げるな、と言われても所詮は無理な話であった。


 重要な事は広まりにくいが、人の噂はそれこそ光の早さで知れ渡るのが人間社会というもので、ここが戦艦の中であろうとも、人間がいる以上はそこに小さな社会があってしかるべきで、その噂はあっという間に広まった。

 そしてそれを囁きあっている最中に、可憐な容姿に不釣り合いなパイロットスーツのキラと遭遇し、次から次へと銅像と化していくのを目撃して、リィは気の毒だと呟きながらも「着るものを調達せよ」とのキラに厳命を厳守するために、メタトロンに一度戻っていった。


 リィが戻ってきたとき、銅像と化していた人間達はやっと息をすることを思い出していたにもかかわらず今度は、着替えたキラの姿を見て、また固まってしまった。


 メタトロンであろうが、アヴァロンであろうが振る舞いたいように振る舞うキラのその態度にリィは感動を覚えた。

 アンタレスの白い軍服に着替えたキラ様が、サラを伴ってその姿で出向いたのは、アヴァロンの艦長であり、艦隊のすべての権限を任せられているロザラインのいる艦橋だった。


 キラから「着替えたらそっちに行くわね」と言われていたので、艦橋に現れたキラとサラを見て腰を抜かす程の驚きではなかったのだが、跳び上がるほどに驚いたのはロザラインではなく艦橋にいた他のクルー達だ。

 悲鳴を上げなかったことは賞賛に値する。

 そしてここでも、やはりキラとサラは、他のクルーなど空気ような扱いで会話を続けていくのだ。


「いい艦ね、ロザライン」

「キラ様とサラ様のおかげです。総帥も喜んでおられました」

「ロザラインを艦長にするなんて、以外とタヌキかもしれないわ。で、ニコルにはもう逢ったの?」

「いえ、任務中ですから」


 ロザラインが立ち上がるとその艦長席に座ってキラが足を組む。

 普通の人間が行ったなら不遜とも受け取られる態度も、キラが行うと大変、様になっていたから、ロザラインはくすりと笑みを浮かべてしまった。


「相変わらず堅いわね、ローザ。夫婦そっくり。あなたもニコルも禿げるわよ」

「ニコルが禿げる前に、お父様が禿げそうだけどね」


 作業をしていたキラの隣に立っているサラがくすくすと笑いながらつぶやく。

 その笑顔は花のようで、これのどこが男なのだと首をかしげずにはいられない。

 私服のままであることも手伝って、とにかく二人が並んでいると一種異様な光景で、それをビクビクと、何か妖しいものを見つめる瞳で艦橋にいた他のクルー達が盗み見ている。


「ごめんね、もう少し早く来る予定だったのよ。初期設定に手間取って。サラがデータを書き換えているから、今度はこちらからガーディアンを出せるはずよ。ただ専用のオペレーターが一人必要だから、それはローザに任せるわ。誰か紹介して」


 キラが生け贄を求めてロザラインに視線を向けると、彼女は苦笑しながらも「あとでご紹介させていただきます」と告げ、その言葉を聞いた艦橋のスタッフ達が、自分のことではありませんようにと、心の中で祈っていたのはまた別の話ではある。

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