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*華麗なる姉妹の特別なジジョウ*  作者: 六軒さくみ(咲海)


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勝利も女神に微笑む2


 ──────ジャスティティアが出撃するほんの数分前。




「艦長! 緊急入電です!」


 通信係が緊迫した声を張り上げつつ振り返るのと、艦長席に座っていたロザラインの直通回線が鳴ったのはほぼ同時だった。


 最新鋭の戦艦内の、それもとびきり最新鋭の計器で埋め尽くされた艦の頭脳部内は現在、混乱状態にあった。

 それも無理からぬことで、次から次へともたらされる戦況と状況をただ見守っていたマルス達も多少の諦めはあったのだが、ここまで酷いと、声を張り上げて落ち着けと叫びそうになる。

 それをぐっと堪えているのはマルスたちの目の前にいる艦長が、苛立ちを必死に押さえ込みつつ、各クルーの正常化にあたりながら、教官さながらの的確さで訂正と助言を与えているからだ。


 怒鳴ることはいつでも出来るが、この状況下においてはまず落ち着くことが先決で、そして今後の事を考えれば、今、対処し身につけなければ、次はないのだ。

 それも、今日この艦が堕ちなければ、ではあるが。


 数日前、緊急招集で休暇を繰り上げたマルス達は、軍司令部の命令に従って出向いた軍事コクーンで、新しく赴任してきた新艦長の指揮下に入ること、新造戦艦である高速移動戦闘艦アヴァロンへの転属を命令された。

 アトラスで感情的な艦長に頭を痛め、辟易していたマルス達には新しい艦長は願ってもない、それこそ諸手をあげて万歳三唱をしたい話ではあったのたが、その新しい艦長の名前がロザラインと聞かされて、一瞬で背中が凍りつき胸が痛んだ。


 ロザラインはマルス達が上級アカデミーに在籍していた際、鬼と呼ばれた教官で、別名「氷点下の女」と呼ばれていた女傑であった。

 それこそ、黒い手袋に長いムチをもって現れてもおかしくないほどの人物だ。

 だが、その手腕や経歴に何ら不満を呈することも出来ないのは事実で、そしてナヴァールよりも断然、比べようもないほどに、優れた人格者であることも知っているので、個人的な感情はこの際、封印することにした。


 ロザライン・アービィングは鬼教官として名を馳せた人物ではあるが、当年とって36歳のまだ女真っ盛りの見た目も申し分のない女性である。

 美人かと問われれば美人でないが、あふれ出る知性と行動力が十分に魅力的であり、そしてなによりも生き生きとしていた。

 乱暴な言葉を使うでももなく、どちらかといえば物腰柔らかな女性だが、コクーン共同防衛組織軍始まって以来の初の女性士官候補生として初の女性大佐なのだ。

 そして初の女性艦長にもなった。


 ロザラインの落ち着いた対応と、的確な指導で艦橋には少しずつではあるが、落ち着きさを取り戻している。

 数日前にこの艦に移動になったばかりのクルー達は、艦に馴れる時間もなく、最前線に送り込まれてしまった事もあるので、仕方のない部分もあったのだが。


 これではいつ艦が堕ちてしまうか、気が気でないことも確かで「艦長、出撃許可をください」と、マルス達が船橋に姿を見せたときは、恐慌まっただ中でありながらもロザラインは「敬礼は?」と一言言い放った。

 その後、マルス達に視線を向けることもなく、次から、次へと持ち上がる問題に没頭していて、後ろで立っているエリート3名の事など眼中にない様子だった。


「艦長! 出撃許可をください」と再度、エドが声を張り上げたのだが、その声に一瞥をしただけで今度は「静かになさい」と窘められるにいたって、口を噤む他なかった。

 曲がりなにもエースパイロットを自負していたマルス達には、理不尽この上ない対応で、自分たちに出撃許可を出さない艦長に対して不信感を持ったのも事実。

 それを顔に出していたのだろうか、しばらくして振り返るとロザラインは3人と向き合った。


「あなた達の時代遅れの戦闘機では、対応できません」

「でも、このまま見ているというのは……」

「では、言い方を変えましょう。撤退を決める時に、後駆となる部隊を残して置かなければ艦隊は全滅してしまうのです。状況をよく見て頭をつかって考えなさい。時代遅れの戦闘機で何ができますか。このままの状況が続けば撤退は時間の問題です。ですから、後々の事を考えると、あなた達の出撃は許可できません。以上です」


 まるで命令文を読み上げるように言った後、再び艦長席についたロザラインは「そこで、そのまま待機していなさい」と命令し、その一部始終を見ていた他のクルー達から同情の視線を受けて、廊下に立たされ同級生の視線に晒される気分を味わい、いたたまれない気分に陥った。


 マルス達は、何もせずその場にいるということが、これほど歯がゆく、なんと居心地の悪いことかを存分に体験していたとき突然、目の前に明るい信号弾があがり、それと同時に緊急入電が知らされたのだ。

 ロザラインは躊躇わずに受話器をあげると、口元にほんの少しだけ笑みを浮かべた。


「これより当アヴァロンは、アンタレス護衛艦メタトロンの救助要請に従いメタトロンと合流致します。各艦の艦長には、作戦名ガーディアンと緊急入電を入れなさい」


 ロザラインが艦長席に立ち上がり通信係に命令すると通信士は復唱の後、慌ただしく各艦に入電を開始した。

 その間も目の前の空域では戦闘が続いていたが、その入電の後、今まで防戦一方だった味方の艦隊が急に活気づいたように見えた。

 メタトロンがこの空域にいることを知ったマルス達が、何が起きていて、何がどうなっているのか確認したくても、目まぐるしく変わる艦橋内の空気がそれを拒んでいた。


 マルスが意を決して艦長と呼びかけをしようと思ったとき、そのロザライン艦長が席を降りて3人の前に立ち、敬礼した。


「マルス・ローダリール少尉、エドアール・ユーリン・イエンゼット少尉、ゼムルーノ・クシルミナ少尉に、新型戦闘機への搭乗を許可します。これより、5分後に合流するメタトロンに乗艦し、マルス・ローダリール少尉はエクティス、エドアール・ユーリン・イエンゼット少尉はランサー、ゼムルーノ・クシルミナ少尉はチェイサーを受領後、直ちに出撃。初期設定などの技術面に関しては、あちらの指示に従ってください。以上、復唱」

「はい、ですが艦長!」

「復唱は、と言いたいところですが、今は状況が切迫しています。詳しい話も質問もあとから。早く行きなさい! ドッキングが開始されたら艦内移動が出来ないでしょ!」


 その様子がアカデミー時代の鬼教官そのもので、マルス達は自分達がどこにいるかすらも一瞬忘れて、敬礼すらも吹っ飛ばして艦橋を慌ただしく出て行った。

 出て行ったマルス達に「あの子達わかっているかしら」と、心配になったロザラインは艦長席に戻るとインターフォンを取り上げ担当者を呼び出し、マルス達にパイロットスーツを着るように伝えてと伝言するとため息をつく間もなく、また直通回線を知らせるランプが点滅した。


 スイッチを押して受話器を再び耳に当てると、聞こえてきた声に心持ち優しい顔になる。


『ローザ、久しぶりだね』

「こちらこそ、ご無沙汰しております、サラ様」

『ローザ、遅くなってごめんね。これからガーディアンをそちらに渡すね……その……搭乗者にはいきなりの実戦で気の毒だけどね。とりあえず、初期設定は入れてあるし、あとはキラがなんとかしてくれると思うから』

「キラ様が、ですが? キラ様がご一緒でしたらあの三人も大丈夫ですわね。わかりました。こちらも受け入れの準備を致します」


 ロザラインは、ふぅ、と軽くため息をつくと、今までほんの少しだけ崩していた表情を引き締めて、号令を発した。




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