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*華麗なる姉妹の特別なジジョウ*  作者: 六軒さくみ(咲海)


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女神様へ捧げられる供物4


 大抵の場合において何かに対して身構えている時には、その何かが起こらない。

「災いは忘れた頃にやってくる」という格言を、アンタレスの最高位に鎮座されていらっしゃるガブリエル10世セレス殿もその格言を自身の身を持って体験することになったのである。



 つい先日、真夜中にキラ嬢の訪問を受けたときには、豪胆で知られる彼ですら、イチモツが縮み上がるという体験をした。

 だが、学習能力を持ち得ていた彼は、今後はキラ嬢が何をしても、突然にして現れても驚くことはないと、とにかく、ほんの僅かでも隙を見せてたまるものかと、アンタレスの最高位に居る人物にしてはいささか威厳の欠ける、低次元な負けん気を発揮して身構えていた。


「私のお見合い相手を拝んで参りますわ」との一言を残したからには、その感想なり文句なりを絶対に言いに来るのがキラなので、何時来てもいいように身構えていたのだ。

 表向きは地球の混乱に巻き込まれ、心痛のために体調を崩し(キラに心痛なんて言葉は絶対にあり得ないのだが)療養のためアンタレスに滞在しているのだから、必ず戻ってくる。

 いつ戻って来て、いつ訪問してきてもいいように身構えて居たのだが、キラ達の乗ったシャトルが無事にアンタレスに帰還しても姿を見せなかった。

 多少、訝しんだものの、これはまた例の特技を生かして突然、現れるのだろうと思い、待ちかまえていたのだが一週間たっても一向に訪れる気配はなく、そうなってくると逆に気になるのが人というものだが、忙殺されているうちにすっかり忘れてしまったのだ。



「起きて下さい、お祖父様」


 静かな声に呼ばれて、目を開ければまだ夜明け(といっても人工のであるが)にはまだ少し。

 人の顔の区別すらつかない程に部屋はまだ薄暗く、ぼんやりと声のした方に顔を視線を転じれば、ベッドサイドのイスに腰掛けて、膝の上に小型のPCを乗せて作業をしているキラが居た。


「いつまで寝ぼけていらっしゃいますの? あと数年すればイヤでも呆けがくるんですから、今は起きてください」


 一瞬、夢かと思ったが、やけにはっきりとした声が耳に飛び込んできて、セレスが再び声のした方向に視線を横に向けると、PCモニターの青白い光がキラを浮かび上がらせるその様は一種異様な光景に、眠気も吹っ飛び、文字通り飛び起きた。


「……シオン……」

「なんですの?」


 かろうじて掠れた声で名前を呼べば、返事が返ってきて生き霊ではなく本物のキラである。

 ということはなんとか理解したものの、何故、今ここにいるのか直ぐには考えられなかった。


「お祖父様、私は明日の朝にはここを立ちます」

「帰る、ディナルにか? 私はそんな許可を出した覚えはないぞ、シオン」

「ですから下さい。今すぐに」


 PCから視線を上げないままに言い渡すキラを見つめていたセレスは、しばらく瞠目していたが、はっと我に返るとベッドから抜け出してガウンを羽織り、キラの座っているソファの前に自分も腰を落とす。


「シオン……何度も言うが、ここでは私の指示に……」と取り繕った威厳を全面に押し出して説教を始めようとした所で、それを遮るようにキラがPCごとセレスに差し出した。

 自分の説教を遮られたことに多少の憤慨を感じたものの、キラの目にはいつもの揶揄った色が一切浮かんでおらず、苛立ちが微かに見て取れたから、彼はそれを静かに受け取った。

 受け取って、そこに表示されているあまりの出来事に青ざめて、その出来事に対する怒りに今度は赤くなった。

 動揺や驚愕そして怒りに大声を張り上げなかったのは日々の鍛錬の賜なのか、はたまた別の理由なのかは、この際、脇に放ることにして、百面相のように変わるセレスの表情を見ていたキラが「もう、よろしいですか」と言うに至り、やっと彼はキラと対峙していたことを思いだした。


「お祖父様……わたくし申し上げたはずですわよ。アンタレス内部のゴキブリはちゃんとそちらで駆除してくれって。ルイスの一件もこちらには何の報告も上がっていないとはどうしてかと調べてみましたら、これですもの」


 何時の間に用意していたのか、テーブルにセットしてある紅茶を飲むためにキラがカップを手にしたところで、セレスが再び瞠目した。

 用意周到に忍び込み自分で紅茶を用意出来るほどの時間、この部屋にいたのだろうか……。

 もし、これが暗殺者であったならば、セレスの命などとうになく、そして忍び込んだのと同様に誰にも悟られずここを出て行くことも可能で、キラならば間違いなく完全犯罪を成立させることも出来ると思い至ると、彼は左手を自分の首筋に持っていて繋がっている事を確認して、ため息をついた。


「いやですわ。お祖父様の寝首をかくならば、私は首を一撃するのではなく、足から徐々に切り刻んで楽しんでから心臓を一刺ししますわよ」

「……シオン……」

「それくらいの心境ですわ。お祖父様ともあろうお方が、随分と甘く見られていますわね。狡猾で悪辣さが売りではありませんでしたか」

「私は穏和・温厚なガブリエルと言われているのだよ」


 言いように言われ微かに自尊心を傷つけられたセレスは、年配であることも、自分が最高位にいることを忘れて、キラに反論したものの、冷ややかに見つめられて口を噤んだ。


「温厚だろうと、馬鹿だろうとそんなのはどっちでもいいんですお祖父様。問題はティタニス達を一時的にとはいえ、支配されたことが問題なんです! サラが気が付かなければコクーンは二つほど姿を消す所でした。ましてや、ブルームが持っていない核で! ブルームをつぶす気ですか」


 耳の痛む話をされて耳を塞ぎたいが、この場に置いて、この地の最高権力者として、言われても仕方のないことだ。

 知らなかった、気が付かなかったでは済まされない問題で、事が起きてしまっていたらと考えると、背筋が凍るどころではない。


「ブルームは数少ないディナルの同盟国です。もともとアンタレスの騎士団を構成しているのはブルームの護衛軍です。もし、このブルームがコクーンを攻撃したという誤った事実に基づいて戦争にでもなったら、それこそ本家の思うつぼですのに」

「シオン、これを見つけたのは?」

「サラです。サラは女神達の親友ですもの。それにいずれはそのティタニスの主になるのですから。お祖父様、モウロクしてもいいですから、せめてサラが一八歳になるまでは頑張って頂かないと困ります」

「……私はあと十年は頑張るつもりなんだが」


 にこやかに告げた言葉は、再びキラの冷ややかな視線に凍てつきテーブルに落ちた。


「殺されてやるつもりなんで微塵もありませんし、逆に返り討ちにする自信もありますが、ここでは身動きができません。ましてや、ここは、一応はお祖父様の管轄なんですから、お祖父様がなんとかなさるべきてす、違いますか?」

「無論だ。ここは私が直轄している場所で、私が最高権力者であり統治者だ」


 その言葉の後に「だから、お前も私の指示に従え」と、のど元まで出かかったのを静かに飲み込んで、アンタレスのセレスとしての顔をする。


「でしたら、早急に対処して下さい。今はお父様が頑張っておりますが、本家が本腰を入れた以上、どこまで踏ん張れるかは時間の問題です。議会は事実上機能を停止しました。はじめから、議会をあてにしていたわけではありませんが、それでも必死に開戦することに対して反対を訴えていた最先方であるブルームが本家の攻撃を受ける危機もあります。猶予はございません」

「ティタニスの件は本日中にケリをつけよう。カイトの情報を私にくれるようにシオンから伝えておいて欲しい…それにしても…」


 言いよどみ、深いため息をついた。


「ため息などついているヒマはありません。こうなることは予測できたはずでしょ!」

「もう少し、時間的余裕があると思っていたのだが…正直、私は甘く考えていたのかもしれん」

「甘く考えていたではなく、甘いんです」


 空が明け始め薄暗い部屋が徐々に輪郭を浮き上がらせる。

 キラは持参してきたPCを右脇に抱えると、立ち上がりドアに向けて歩いていく。

 その背中に声をかけようと思った矢先に、キラの声と被さった。



「月のガーディアンが完成したそうです。わたくし、それを持参金の替わりにして、コクーンに嫁ぎます」





 四方を取り囲む窓には主神アンタレスと女神ジャスティティアの活躍を描いた色取り取りのステンドグラス。

 彫刻や宝石で飾り付けられた重厚な扉から、真正面に見えるのは、最高位の台座。

 台座に向かう通路には赤い絨毯が敷き詰められ、左右は金糸でアンタレスの文様が刺繍されている。

 荘厳華麗に装飾されたバシリカが幾重にも連なり、ドーム型の天上から一筋だけ刺した光は対座に降り注いでいる。

 バシリカにはアンタレスやジャスティティアを守護する天使や女神が踊り高い天井にも、天使が女神が下を見下ろす彫刻が飾られている。


 現統治者であるガブリエル10世は、金泊を塗し輝ける宝石を埋め込まれた豪華絢爛な椅子に座し、その時を待っていた。


 静かな空間に「ディナル公国第一公女、キャルローラ・シオン様、ご入殿でございます」と声が響くと、台座の足元で控えていた衛兵が右膝をつき頭を垂れる。

 それに習い通路の左右を陣取っていた卿達も、左膝をついてやはり同じように頭をたれ、首からかけられたネックレスを両手で握り敬意を払う。 


 開けられたドアの向こう側から、光を従えて入ってきたのは、そのキャルローラ嬢だった。



 紋章を大きく縫い取った純白のガウンを纏い、淡く光沢を放つ薄紅色のドレスを身につけている

 胸には世界に二つと無いと言われている暁の宝石を下げ、結い上げられた髪に白い花が飾られている。

 赤い絨毯の上を、厳かに歩くキャルローラ嬢は、まさに女神の如き美しさを放っていた。


「キャルローラ・シオン。参りました」


 その言葉に鷹揚に頷くと、ガブリエル10世は立ち上がり杖で一度床を叩く。

 それを合図に、今まで頭を垂れていた者達が一斉に姿勢を戻す。


「ガブリエル10世の名のもとにおいて、キャルローラ・シオンとマルス・ローダリールとの婚姻を許可する」

「ありがとうございます」

「地球とコクーンとの哀しい出来事が多い事も事実であり、二人の婚姻が、両間の明るい話題となり、人々の未来を照らすよう望みます、そして心よりの祝福を」

「祝福とお言葉を胸に刻み、両間の平和的礎になれますよう、勤めさせて頂きます」



 この後、一週間後。

 マルスは温室で、天使の面の皮をかぶったキラと遭遇する。



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