女神様へ捧げられる供物1
傍若無人なお姫様というのが存在する。
傍若無人と、それを指摘された某お姫様は、笑いながら「世間の荒波も知らず、我が儘放題に蝶よ、花よと育てられたお姫様が、傍若無人なのはあたりまえでしょ」と、怒ったふうもなく言い放った。
普通、人は真実を突かれたら、それが特に自分にとって不利であったりしたなら怒り出すのが常であるが、彼女はそれを聞いて微笑みながら言い放った。
器が想像も付かないほどにでかいのか、はたまた自覚しているが故の発言であるかは永遠の謎の一つである。
その自他共に傍若無人であると認識しているキラ嬢は一風変わった美点がある。
美点と呼べるかどうかは甚だ疑問ではあるが、キラの身近にいる人は美点と呼んでいるので、ここではあえて美点と呼ぶ。
さて、その一風変わった美点とやらであるが、キラ嬢は自分の悪口や欠点を面と向かって言われたとしても、意外と冷静に受け流すことが出来るということである。
まわりが「え?」と思えるような些細なことには腹を立て傍若無人に振る舞うのに、自分の事は意外と無頓着で豪胆な人である。
虐げられることや、身近な人間が傷付くことには過剰に反応して、徹底抗戦もじさない人でもある。
そして無用な暴力を振るわない人でもある。
今までの経緯を見るに首をひねる人がいるかもしれないが。
そのキラが、自分のこと以外で激怒する事は良くあることだが、この日もアンタレスからもたらされたとある情報を聞いた途端に、完全に調整の行き届いた月の晴天すらも変えそうな程の不機嫌オーラが漂いはじめた。
コントロールされていると分かっていても、雷雲がないか、サラは窓を開けて確認してしまったくらいだ。
近くに控えていた護衛役のアレンは「触らぬキラ様に祟りなし」と、ばかりに、他の護衛役を引き連れて、キラの部屋を辞してしまった。
任務放棄だと、通常ならば責任を問われる行為で、下手をすれば懲戒免職ものなのだが、状況が状況なだけにサラも責任を追及する気にはなれなかった。
逆を言えば、待機されてキラの餌食もとい、犠牲もとい、とばっちりを受けるよりは、遙かにましだと判断した。 もっともキラの場合において、護衛など必要なのかとの疑問も一部ではあるが。
───── アルファ カーディナルフェル家月公邸 内
「キラ、少し落ち着いたら?」
熊のように(容姿が美しいので熊にたとえるのは失礼だが)うろうろと、広い部屋を歩くキラに、サラが紅茶を差し出す。
カップの中の暖かく赤の液体と、サラの瞳を交互に見比べて一つため息をつくと、キラはおとなしくサラの誘導に従ってソファに腰掛けた。
「キラがどんなに気をもんでも解決はしないよ」
言葉と共にカップを握らせてサラが微笑む。
「大丈夫だよ…きっとね」
「……確証はないわサラ。アンタレスを通すなんて正気の沙汰じゃないわ。あれほど言っておいたのに」
「だけど、今の状況ではそれ以外、方法がないもの確かだよ」
「それでも!」
「わかっているよ。だけど、今はもう待つしかないよ」
「サラ……私達はなんとかなったけれど、彼がなんとかなるとは限らないわ。情報が漏れているのは決定的なのに」
美しい足を投げ出してソファに深く腰をかけると、頭が痛いとばかりにキラがコメカミを押さえる。
その姿が父と重なり、こんな時ではあるがサラは笑ってしまった。
「サラ?」
「ごめん。そうやっている姿が、お父様にそっくりなんだもの。キラが問題を起こすたびに、お父様がそうやって頭を押さえるでしょ?」
このヒトコトに異議ありとばかりにキラがサラを睨み付ける。
反論を口にしないところを見ると、納得もしているらしい。
「……親子ですもの、だからイヤでも似てくるわ」
「僕も兄様達も、お父様には似てないと思うけれど? キラはよく似ているよね」
「……似たくない。でも、大声を出す辺りはどちらかといえばリィ兄様でしょ」
「それは言えるね。遺伝子ってすごいよね」
「私なんて、仕草とかそれくらいで、性格なら完全にリィ兄様の方がお父様に似たのよ。あの二人が喧嘩すると平行線ですもの」
「そうだよね、キラとお父様が性格的に似ていたら、お父様がキラに言い負かされるなんてことは、絶対にないものね」
サラは紅茶を口に含みつつやはり微かな笑みを漏らした。




