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*華麗なる姉妹の特別なジジョウ*  作者: 六軒さくみ(咲海)


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小さな親切、余計な計画4


 その報告を伝えられたとき、

 ルイス・ローダリールは与えられた執務室にいた。


 事実上の開戦がなされて、コクーン共同防衛組織軍が上へ下への大騒ぎをとなっているのを傍目に、地球の理事国の中でもコクーンに対して擁護的立場にいる国や人達とコンタクトを取り、今後の援助物資の確保や、交戦とは別で停戦に持ち込むための妥協点などを探っていたのだ。


 戦争とは、利害の一致がなされず、話し合いでも解決できない壊滅的な状態の場合に、武力で白黒をつけましょうという場合も多く存在する。

 その場合、戦争という行動は軍人が執り行い、政治家は往々にして妥協点を探るべく暗躍するものである。

 このときのルイスもその例にもれずに、見付からないと判っていつつも妥協点を探していたのだ。

 その時、秘書官が月からの緊急通信だと、知らせて来た。

 相手はロセスで、彼がルイスに緊急通信を入れてくるのは外交のことが主だったから、最初に知らされた言葉を理解するのに数分を要してしまった。



「ディアナが天に還った」


 ロセスはルイスの妻であるディアナが死亡したことを知らせてきたのだ。

 だから、ルイスがしばし職務も忘れて過去を邂逅していたとしても、それを誰も咎めることは出来なかった。

 



 ルイスの目の前に座っていたのは、美しい緑蒼色の瞳をした、これまた美しい女性だった。

 女性に不自由はしたことはなく、誰からも称賛される男前であると自画自賛もしていたが、目の前に座る女性の前では、そのありったけの自信も自慢も崩されそうだった。 

 月の有力者の一人娘とのお見合いをルイスが親に命令されたとき、反発心があったことは事実だ。

 だが、野心がない清廉な人物であるわけでもなく、そして自分のしたいこと、目指していることを実現するためには、そのお見合いが重要であることは重々承知していたので、当日は精々気張ってその場に出向いていた。


 そのルイスを一瞬にして虜にしたのは美しい女性だった。


 ディアナ・アルジェリカと紹介された彼女は、まだ22歳を迎えたばかりの女性で、長く艶やかな淡い金色の髪は白い肌にとけ込みそうな程で、微かに微笑みを称えた形のよい口唇は赤く染まった果実を思わせた。

 薄いエメラルドのドレスに包まれた細身の体は、儚げな印象を与えたが、何よりも衝撃を受けたのは、今までお目にかかったことのない翠青色の瞳だった。


 地球の大地を思わせるほどに濁りのない翠の瞳。


 それからしばらくして、彼女の人柄に触れれば触れるほど、彼女の虜になったと言っても過言ではない。

 ディアナは美しいだけでなく聡明で優しい女性だった。

 話はトントン拍子に進み、本人達の意思とは別の所でいつの間にか結婚が決まっていた。

 もろちん、ルイスにそれを拒絶する理由等あるはずもなかったから、未だかつてこんなに素直に親の言うなりになったことなどあっただろうかと思うほど、従順にその結婚式に臨んだのだ。


 当時の情勢は今と変わらずに危険を含んでいたが、二人はアンタレスの祝福を受け、コクーンにある大聖堂で豪華な結婚式を挙げた。

 聖堂で司祭を前にルイスを見上げてそっと柔らかく微笑んだディアナが愛しくて、幸せになれると疑っていなかった。


 息子に恵まれて名前を考えていたとき、ディアナはマルスと名付けたいと言い出した。

 マルスという名前には勇者という意味も含んでいたし、響きも良かったのでルイスも特別反対はしなかったのだが、その名前が後々にルイスを苦しめることになるなどとは、そしてディアナの人生を変えてしまう等とは思いもしなかったのだ。


 ディアナを手放してしまったことへの後悔、ディアナを守ってやることの出来なかった情けなさ、こんな事態を引き起こしてしまった至らなさ、幼いマルスから、無条件で愛情を注いでくれる母親を奪ってしまったことへの罪悪感。


 そして、もう一人の勇者への贖罪の念、総てが一挙に押し寄せてきて医師が止めるのも聞かずにディアナを抱きかかえて嘔吐するほどに激しく慟哭をした。 


 ディアナの実家からは今後のためにもディアナの籍を抜くように勧められたが、ルイスは頑としてそれを受け入れなかった。

 満たされない体の欲求は適度にはらせばいいだけのことだ。

 けれど妻として伴侶として認められるのはディアナだけだった。

 憎むことなど出来はしない。

 不憫だからとかそんな感情でもない。

 想いはたった一つ、ルイス・ローダリールの妻として息を引き取らせたい。


 大聖堂で、ルイスを見上げて微笑んでくれたディアナの笑顔を思い出せる限りは、ディアナだけを妻として留めておきたい。


 その妻が、ディアナが息を引き取った。


「すまないが、息子に連絡を取りたい」


 そう告げられて、軍事部門の総帥たる人物は、片眉を上げた。

 長い同士生活の間、そして互いの息子が軍役についてからの間で、ルイスがマルスを名前ではなく息子と言ったことは殆ど、いや記憶する限り思い当たらない。

 だから、すぐにピンときた。


「月の女神が身罷ったのか?」


 短く肯定の頷きを返す。


「マルスは今、軍事コクーンに出向いている。一昨日付けで転属命令が出た。私も許可をした」

「……そうか」

「特別許可を出して呼び戻してもかまわないが」

「いや、個人的なことだ。知らせるだけでいい。本人が上申をしたならば、その時に考えてくれ」


 息子に知らせたところで性格上、上申を出すとは思えない、と静かに呟いて、ルイスには珍しく感傷に浸り、机の引き出に仕舞い込んでいた親子三人が写った写真を見つめて目を閉じた。



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