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*華麗なる姉妹の特別なジジョウ*  作者: 六軒さくみ(咲海)


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青翠の瞳の美青年


キラの「普通のお嫁さんになりたい」宣言から数日後。



 同じ地球の、ディナル公邸にも劣らぬ広大な屋敷。

 そのサンルーフで、青年が一人、静かに本を読んでいた。

 艶やかな黒髪は癖もなく、長めながら不潔さを感じさせない。

 双瞼に宿る青翠の瞳は、まるで若草の野をそのまま閉じ込めたような輝きを帯びている。

 もしも女性であったなら絶世の美女と称されただろう。

 だがそれが男であれば──美しすぎるという評価しかない。


 右の瞼には横一文字の傷跡があるが、目を開ければその存在はほとんど気にならない。。

 その男が、周りの侍女を虜にしながら長くしなやかな指で本のページをめくる微かな音は、先ほどから漏れ聞こえてくる甲高い声にかき消された。


「……母上は随分と、機嫌が悪いようだが、例の一件か?」


 穏やかな声で話しかけられた年若い女性が頬を染めながら言葉もなく頷く。


「なら、そろそろ私にも呼び出しがありそうだな」


 呟く声とドアがノックされるのはほぼ同時で、彼は喉の奥でほんの少し笑い声をかみ殺した。


「母上がお呼びなのだろう、直ぐに行くと伝えてくれ」


 話し出す前に返事をされ、伝言を伝えに来た人物は驚いたが、目の前にいる人物は、予知能力があるのではないかと思う行動を取ることもあったので、ただ「お伝えします」との言葉を残して早々に部屋を退出していった。

 なにも彼に予知能力があるわけではない。

 このあたりはサラがキラの行動に対してある程度の予測がつくのと同じ感覚で、こと母親に関しては特別なカンが働くのだ。 

 ましてや今朝から彼の母のテンションは異様なほど高く、邸中に怒りに満ちた甲高い声が響き渡り、年若い侍女達がとばっちりを、何度も喰らっていたのだ。




「母上、いい加減に落ち着いて下さい、邸の者が萎縮しております」


 今も数人の人間に当たり散らしていた母は、息子の声を聞くと、深いため息とともにソファに深く腰掛けた。


「あなたは暢気すぎるのです、ヒスイ」

「ですが母上、怒鳴り散らし、当たり散らしたからと言って、事態が好転することはありません」


 ディアナス・ヒスイ。

 母親にヒスイと呼ばれた彼は、部屋に残っていた数人の人間に出て行くようにと指示を出す。


「フェルの件は貴方も聞きましたか?」

「聞きました。母上が出した人間は首だけが帰ってきたとか。フェル家もなかなか、やってくれますね。さすがはと言うべきでしょうか。それともあの一族ならではと言うべきでしょうか。まあ、母上のお気持ちはわかりますが、このままだと血管が切れます。怨霊になってフェル家に祟ると言うのも一つの方法かもしれませんが。非科学的な事を言えばですけれど」


 長い足をゆったりと組んで、母の手から奪い取った報告書を見つめ口元にあでやかな微笑みを浮かべる。

 窓から差し込む太陽に光を浴びて、青みを帯びた黒髪が反射する。


 母の目からもこの息子は美しいと思う。

 自分の持っている髪の色はシルバーブロンドではあるが、息子に遺伝したこの青みがかった黒髪。

 この色はディオンの証と昔から言われ、容姿に恵まれた人物が多い。

 あの憎ったらしいフェル家の双子も息子と同じ色の髪を持ち、現に至宝とさえ言われている。

 確かにあの双子が美しいことは認める。


 絵本の中の姫君、神の祝福を受けた天使の容姿というのも、それは事実で腹立たしいほどだ。


 当然、この息子もまさに童話の中の王子様なのだが、どうも口が過ぎるというか、滑るというか、多いというか……。


「ヒスイ、母は冗談を許す気分ではありませんよ」

「冗談ではありません、母上。フェル家はもともとそういう事をするための一族ではありませんか。もっともあのカルロ公にこれだけの狡猾さがあるとはわたしも思いませんでしたが。穏やかで慎ましいと言われた人物に、あれだけの事が出来たという意外性には確かに驚きました。キャルローラ嬢とサラディーラ嬢、いえ、キャルローラ嬢とサラディーラ君でしたね。あの二人を生きて連れてこいと命じたにも拘わらず、逃げられたのは痛かったですよ。母上の私兵もなかなか職務に忠実ですね」


 暗に「あなたが甘いのです」との含みを持たせて再び微笑んで、母の出方を待つことにする。


「最初から全員を殺しておけばよかったものの、あの方は甘すぎたのですよ。カルロの演技にコロリと騙され、そしてあの双子にコロリと騙され、つくづく忌々しい」

「今更、そのようなことを言っても仕方ありません。フェル家は4姉妹ではなく、実は3人の息子がいて、全員がアンタレス候補となりえる。そしてキャルローラ嬢が、ただ一人の女性であるという事実も代わりません。いっそのこと、キャルローラ嬢を私の花嫁にしますか? それともアンタレスにわたしが行きますか?」

「ディアナス」


 母がファーストネームを呼ぶと青年はピタリと口を閉じる。


 ディアナス・ヒスイは、この一族の中で一番、母親を熟知し、そしてコントロールするすべを習得しているのだ。


「ディアナス貴方に任せます」


 長い長い沈黙に耐えかねた母の絞り出すような一言を聞いた彼は、待っていたましたとばかりに、立ち上がると再び穏やかに微笑んだ。

 だが、その微笑みの中にあって若草を思わせる美しい青翠色の瞳には、別な表情が隠れていた。


「では、手始めに国連をなんとか致しますか」


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