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*華麗なる姉妹の特別なジジョウ*  作者: 六軒さくみ(咲海)


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優雅に勝利のダンスを1

 

 運命の女神であり、勝利の女神であり、哀しみの女神と呼ばれている女神がいる。


 彼女は運命を司り運命を視ることが出来ても、手助けすることは許されず、たとえ滅びの未来を視ても何も出来ない哀しみにただ涙を流す。

 けれど、その涙の一欠片、一欠片が宇宙の星になり、輝いているのだと言われている。


 たおやかで美しく慈愛と慈悲に満ちた女神。


 その一方で、戦場に出たのなら必ず勝利を呼び込み、決して屈しない不屈の精神の女神でもある。


 その名をジャスティティアという。


 その勇ましくも麗しい女神の名前を祝福名に持つ女性がいる。

 宗教本国アンタレスに属する宗教市国ディナル公国の公女キャルローラ・シオン嬢である。

 カルロ公の目の前に居るのは、そのキャルローラ・シオン嬢である。


「お父様、ご説明頂いてもよろしいですか。何故、私とサラが誘拐されたことになっておりますの」


 無事に帰ったと、父が抱きついて泣きつく間も与えず切り出すキラの眸には、いつもの人をからかった光は、一切見受られず、またその口調にも容赦がない。

 民が称え崇める慈悲と慈愛に満ちた天使の容姿をした娘は、今まさに戦う女神の様相だった。


 邸に戻りその足で執事達に執務室に人を近づけないようにと脅迫めいた微笑みを向け、その微笑みの恐ろしさに長年使えてきた執事のみならず、リィやレンすらも震え上がった。

 脅迫じみた笑顔に唯一、怯えを見せなかったのはサラのみで、キラが「お父様とお話してきます」との言葉を聞いたときにもさほど驚きもしなかった。  

 あれほど大騒ぎし紆余曲折をえて、家族を混乱と動乱の坩堝に追い込んだキラの家出騒動など、この後に巻き起こる長き嵐を考えれば些細なことだったのだから。


「キラ、そこに座りなさい」


 父がため息混じりにイスを勧めたがキラはその言葉を聞き流すだけで返答を待っている。


「お父様、わたくしの質問に答えてはいただけませんの。何故、私とサラが誘拐されと公式に発表したのです」

「キラ」

「利用を…するからですか」


 感情の起伏が激しく一度切れたら手に負えない。だが、それを補って尚、明るく楽天家であり体中からあふれ出る生命力の持ち主それがキラである。

 いつもならば些細なこと等笑い飛ばす豪快さも今は鳴りを潜めている。

 ただ静かに、突き放すように言葉を紡ぐだけだ。

 父はゆっくりと息を吸い込み深呼吸を数回、繰り返すと、娘と向き合う覚悟を決める。

 いつかは話さなければならないこと。


 お見合いの話など、これから伝える内容に比べればなんと些細で、なんと小さなことであるか。

 娘一人のお見合い話より大きな話しがあってはならないことなのだが、時にはそれすらも凌駕するだけの出来事もあるのだ。


「私達を誘拐したのが本家のデュオンであると何故、正式に発表されたのですか。ましてや、私たちのシャトルを打ち落としたのが国連であると。そのようなことを発表なされば、どのような事態になるのか。火を見るより明らかです。お兄様たちの事もこれ程に早く発表したのは何故ですか」

「キラ、これから話すことは、決定事項で覆すことはもう出来ない。お前達の家出を利用したことはすまないと思っている。だが………」

「渡りに船…ですか。差詰めこの件はお父様のお考えではなく、アンタレスの古狸の差し金ですよね」


 こんな時に娘の聡明さを突きつけられるのはいい気分ではない。

 1を伝えればキラならは確実に十を理解する。

 だから何度もこの娘が女としてではなく男として生を受けていたならと、思わずには居られないのだ。

 時に饒舌で時に毒舌で、特に毒を吐くことに対しては通常の人よりも数倍の威力と回転の速さを発揮する頭脳の持ち主でもある。

 カルロも回りくどい言い方を敢えてすることは辞め事実をありのまま伝えた。



 キラとサラに残酷であるその真実と事実を。





「サラ………」


 父と話を終えたキラが、続き部屋にいたサラに会いに行くのは当然だった。

 サラも父と話しを終えたら一番最初にキラが自分に会いに来るのは判っていたから、当然のように腕を広げてキラを出迎えた。

 眸にはいろいろな感情が表れていて、サラはそのキラをそっと抱きしめてみたくなった。

 いつもしている抱擁とは違い、まるで幾歳も年上になったような気分。

 可憐でたおやかな容姿とはまったく真逆にベクトルが向いているキラが、何事が起きても凛々しく、猛々しく(雄々しくではなく)逞しく、邁進するそのキラがサラの肩に額を伏せて静かな怒りに耐えている姿は見る者によっては一枚の美しい絵に見える。


 本国アンタレスの大礼拝堂の真正面に飾られている女神ジャスティティアと弟神フォスフォールの絵は、いま自分たちと同じ構図で描かれている。

 それを思いだしてサラはふっと笑みを漏らした。


 姫神ジャスティティアには「破壊するもの、断罪を促すもの、光を刺すもの」という意味を持つ弟神がいる。

 名をフォスフォールといい「明けの明星」にたとえられている。

 姫神ジャスティティアと表裏をなすこのフォスフォールは、たとえ父アンタレスの命令であろうとも服従することはなく、ただ姉の願いにのみ応える神なのだ。


 「ジャスティティアに勝利の祝福を」は、姉神に抵抗するものすべての破壊を意味し、後には何も残さないとまで言われ、

 「ジャスティティアに運命の加護を」は、姉神に抵抗するものすべての断罪を意味し、相手がたとえ神であっても容赦なく断罪し、慈悲を認めず、

 「ジャスティティアに哀しみの幸を」は、姉神に抵抗するものすべては永遠の暗闇に落とされると言う、いわば地獄の死刑執行人なのである。


 弟神の唯一絶対神であるのはジャスティティア。

 彼は月の光もささない暗闇を嫌う姉神のためだけに、明け方の空に光をあたえる。


 キラの祝福名はジャスティティア、サラの祝福名はフォスフォール。


 双子たちの祝福名を決めたのはアンタレスのセレスだ。

 人々は双子のずば抜けた美しさにこれほど似合いの祝福名はないと噂するが、与えられた女神の祝福名も、弟神の祝福名もすべて皮肉としか思えないのだ、キラとサラには。

 キラとサラはこれからまさにそのジャスティティアとフォスフォールになるのだから。


「アンタレスの事、僕は前から知っていたんだ」


 言葉にキラが顔を上げる。

怒りにまかせて肩においていたキラのおでこの辺りが微かに赤くなってる。


「キラ、僕は行くつもりだよ」


 その言葉が持つ意味を知らないキラではない。

 たとえキラが凛々しく猛々しく逞しくても、打ち破ることの出来ない壁がアンタレスだ。

 宗教本国アンタレスに入ると言うことは、親子の縁も兄弟の縁もすべての断絶を意味している。

「なにものにおいても侵すことのできない聖なる場所」というのが本国であり、そこに行くというのは、アンタレスに一生投獄(キラ用語)されることになる。

 良く言えば「神に一生を捧げる」尊い事なのだが、これは自分で選択できる人間があえてその身を捧げるから尊いのであって、キラとサラでは随分と意味合いが違う。


「でもサラ……」

「ねぇキラ、聞いて僕の話。僕たちには自由がない。生きることを許されていても、自由に生きていく事が出来ない。だから僕はこの手にアンタレスを握って、キラを自由にしてあげるからね。僕の望みはそれだけだよ」


 双子として片時も離れず側にいて、互いの気持ちは言葉にしなくてもわかる。だからサラの決心が本物であり、キラが何を言っても実力行使に出たとしても、サラの決心が変わらないことだけは、その瞳を見れば理解できる。

 ほんの少しの間だけ、逡巡したがキラは次の瞬間サラを思い切り抱きしめる。

 キラの背中にサラが手を回してお互いがきつく。


 互いの鼓動が感じあえるくらい抱きついて、離れたときには、キラの瞳に迷いも痛みも残されていなくて、いつものように輝きが戻っていた。


 キャルローラはサラの知っているキラは強いのだ。


 あらゆる意味で凛々しく、猛々しく、雄々しく、美しいや可憐であるとは表面上だけで、本当のキラは神すらも凌駕する生き物であり、絶対的な何かだ。


「キラ、絶対に無茶は駄目だよ。自由になれるその日まで、死んでもだめ。僕たちはこの手で自分たちの生きていく場所を掴むんだ、それまでは絶対に死んじゃダメだよ」


 キラが不敵に笑った。



「あたりまえでしょサラ、天上から高みの見物している連中になんて負けてたまるものですか! 思い知らせてやるわ、か弱い乙女を犠牲にしてのさばっている奴らに。アイツらの棺桶の上で高笑いしながら、勝利のダンスを踊るのはこの私よ!」


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