華麗なる姉妹の逃避行13
────公にしか存在しない人間が居る
名をキャルローラという。
別名「至高の華」と、家族にすら呼ばれているのは何もその美しさを称えてだけのことではない。
最初にそう名付けたのは長男のレンだった。
それを聞いたリィも納得したし、双子であるサラも妙に納得した。
つい数分前まで戦艦アトラスの格納庫で、春の日差しのような笑顔を振りまき、首をかしげる角度すら計算し尽くしたその立ち居振る舞いで、全クルーを虜にしたと言っても過言ではないキャルローラ公女は、すでに跡形もなく消え失せている。
今、リィの目の前にいるのは美しく足をピタリとしたパンツに包んだリィの知っているキラだ。
「お前さ、たまにはというか、せめて次の目的地までは演技してくれ」
「え~、だって地球からずっとだったから疲れちゃって。あげくあの棺桶艦で泣いたり倒れたりの演技でもう、ぐったりって感じ」
アレンが用意した紅茶を口に含みつ悪態を吐く。
「まったく、ため息をつきたいのは私の方なんだぞキラ、判ってるのか?」
「いいじゃない。お仕事してよ、リィお姉様」
「お前に言われなくたってしてる。と言うより、お前のせいで仕事が増えたんだ!」
リィの言葉を半分も聞いていない様子のキラに、サラはただ笑うしかない。
が、この兄のことだから、この憤りもあと一時間もすれば綺麗さっぱり忘れているに違いない。
だが予想に反して一時間待つこともなく空気が変わる。
それはリィの一言でありそしてキラの一言だった。
「で、どうするんだ? 大体の事はレンから聞いた。月に行きたいなら、なんか事情をつけて連れて行ってやるぞ? それともアンタレスに避難でもするか?」
ひとまず自分の憤りは蚊帳の外に放り投げて、キラの気持ちを聞いてくる。
この辺りがリィは甘いのだが、キラの家出の原因を知れば、多少の同情も芽生えてくるのだ。
公には四姉妹であるが、嫁に行けるのはキラ一人で、こればかりはリィは変わってやることも出来ない。
お見合いの詳細が解るまで、月に避難するのもいいだろうし、アンタレスに避難するのもいいだろうと思うのだ。
「いいえ、お姉様。地球に戻りますわ。お父様にどうしても確認しなければならないことが出来ましたの」
「キラ、お前……?」
予想外のキラの言葉。
そして纏っている空気にリィが言葉を失う。
この空気をこの瞳をリィは過去に一度だけ見ている。
「何があった?」
「所属不明の戦闘機はご覧になりまして?」
リィが静かに頷くと同時に、アレンが士官室の鍵を閉める。
「お前達を迎えに行くときに見たよ。止めることは不可能か」
「お姉様の見たものが同じであるのでしたら…」
キラの隣に座っていたサラが、クリアヴィジョンにデータを映し出す。
映し出された映像を見て、リィはアレンと目を合わせて確認した後、同じものだという肯定の意味を含めて、キラとサラに頷いて見せた。
「なら止めることも出来ないし、猶予もないよ、リィ姉様」
「グラディエーター……デュオンの狂戦士が出てきたからには、猶予などございませんわ」
キラの言葉は静かにその場を支配した。




