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*華麗なる姉妹の特別なジジョウ*  作者: 六軒さくみ(咲海)


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華麗なる姉妹の逃避行9



    日頃の行いの報いを喰らったキラが、鉄格子付きの別邸


   ではなく、コクーン共同防衛組織軍所属の戦闘艦──キラ曰く、


「とんでもなく型式が古くないの? この戦艦。まさに棺桶」


 と、失礼極まりないあだ名をつけた“棺桶艦アトラス”の、真っ白な医務室に閉じこめられて早四時間。

 とばっちりを喰らったとしか言いようのないサラとともに、意外とのんびりと時間を過ごしていた。


 外の警備兵が女性──しかも(とびっきりの美)少女であることで、危険はないと判断されているのか、誰も部屋に立ち入ってくることはなかった。


(後にキラがこのときのことを「やっぱり外見って大切ね。美しく創ってくれたことに感謝しなくちゃ」とのたまった言葉は、ある意味真実だ)


 そんなわけで、誰の出入りもないまま、二人は静かに時間を過ごしていた。

 一カ所にじっとしていることが苦手なキラも、状況を判断する程度の能力はあるわけで、無理に揉め事を起こしても意味がないと理解している以上、大人しくしていることにさほど苦痛は感じていなかった。


 ──が。

 忙しなく手元を動かしていたサラに、キラがふと、ぽつりと呟いた。


「サラ、私たちを追ってきた戦闘機、この間のとちょっと違うよね。どちらかというと、光に近い感じがしない?」

「うん、それは僕も思ってた。だからね、必要でしょ。色々と」


 しばらくキラがおとなしくしていたからか、機嫌を直したサラが、珍しく茶目っ気たっぷりにウィンクを送る。


 渋々ながらもキラに協力しているサラだが、本来の気質は限りなくキラに近い。

 普段はキラという圧倒的な存在に隠れて見えにくいが、実はストッパーどころか、時にはキラの“油”であり、“アクセル”でもある。

 ──まあ、大概の場合においてはストッパーであることは事実なのだが。


「この戦艦の指示系統プログラムって、設計者はサラだもんね。のぞき見とかも簡単だよね?」

「……かなり前のやつだけどね、コレ」


 昔というほど昔ではないが、サラが匿名で戦艦専用プログラムの設計を手がけたことが一度だけあり、それがこの艦に採用されていたのだ。

 今ではこのプログラムより遥かに高度で精度の高いソフトが山ほど存在する。

 そういう事情も含めて、キラがこの艦を“棺桶”と呼ぶ理由となっている。


 サラが愛用しているハンディデバイスもまた、実は彼の自作だ。

 キラからすれば、何を作っているのかさっぱりで、画面に次々と映し出される数字や文字の羅列には、すでに目がついていけない。

 運動や格闘を苦手とするサラにとっては大したことのない作業でも、キラには“十分に苦になりえる”ものなのだ。

 ──決して“何もできない”というわけではない。

 現に、この艦の行き先をのぞける程度の技術は持っている。


「あ〜あ、月に行きたかったのに……何が悲しくてコクーンなんぞに……しなきゃいいのか!」


 ベッドに体を投げ出して寝転がっていたキラが、突然、起き上がる。

 サラがディスプレイから目を離してキラに視線を向けると、案の定、ろくでもないことを考えているであろう、目に活力の色が見える。


 だからこそ、先手を打つように

 ──キラの考えていることを列挙して、反対であることをハッキリと告げた。


「キラ、駄目だよ。この艦を故障させるとか、システムを乗っ取るとか、協力はしないからね。脱走も絶対に駄目」

「サラの意地悪」

「当然でしょ。外にいるのは狂戦士だよ? 素手のキラに勝ち目はないでしょ。それに、ここの戦闘機を奪ったところで、この戦力じゃ……死ぬのがオチだよ。ついでに言えば、この艦の艦長を見たら絶望的な気分に陥ったよ」

「確かに。あれが艦長じゃ、この艦の乗務員も可哀想よね。コクーンって、あんなんでも艦長になれるわけ? だからいつまでたっても“お子様程度”に見られるのよ」


 美しい口元から、容赦のない言葉が飛び出した。

 ナヴァールがこの場にいたなら、憤死確実であろう。


 そのナヴァールを思い出し、ついでに現状の惨状に思いを馳せて、キラとサラは同時にため息をついた。


 たしかに、サラの特技を活かしてこの部屋を抜け出し、キラの持ち前の特技で警備兵二名を軽く床に叩きつけ、格納庫までたどり着いて戦闘機の一機や二機を奪うことは容易だろう。


 だが──

 この棺桶艦に配備されている戦力を考えると、仮に脱出に成功しても、その先で敵に遭遇すれば逃げ切れる保証は皆無に近い。

 かといって、ここに留まっても絶望的な気分は拭えない。

 あの艦長の存在がさらにそれに拍車をかけている。


 キラとサラの深い、深いため息には、そうした意味が多分に含まれていた。


「……コクーンが技術協力を求めてきたのは、わかる気がするわ」

「そうだね。例のアレをデュオンが実戦配備したら、確実に勝ち目はないもん」

「確実も確実。下手したら、わずか一ヶ月でコクーンなんて跡形もなくなるわよ」


 キラが両手を広げて、お手上げのジェスチャーをする。


「でも今日見たのって……」

「多分、研究過程で開発された“おまけ機”みたいなもので、俗に言う“量産機”ってところでしょうね。でも、もし量産体制に入ったら──お父様が懸念していたことが現実になるわ」

「国連がコクーンを、ってこと?」

「ちがうわ。デュオンが、よ。サラ」


 キラの顔から、表情がすっと消える。


 そのキラに言葉をかけようとしたサラの声は、戦艦内に突然鳴り響いたサイレンによって、かき消された。



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