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*華麗なる姉妹の特別なジジョウ*  作者: 六軒さくみ(咲海)


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19/50

華麗なる姉妹の逃避行8


 人間とは、せっぱ詰まれば以外となんでも出来るもので。

 しかもこういう時にもっとも力を発揮する人間も確実にいる。

 それはさておき、この瞬間のキラはその類い希なる精神力と集中力と演技力とその他、持ち得る様々なものを使って、見事に演じきったのだ。



 ─────気を失うお嬢様というやつを。



 しかも「はかなげな」との言葉つきで。



 無事に戦艦アトラスへと避難ポットを曳航し終えたマルスは、戦闘機から降りると、重いメットを外し軽く汗をぬぐい取った。

 どんなに空調のきいた戦闘機内であろうと、戦艦内であろうと、宇宙の中で自分の全てを守ってくれる宇宙服、マルス達が身につけているのはパイロット用のスーツだが、それは十分に暑苦しいシロモノだ。

 空気のない宇宙の中に放り出された場合、この気密性は人間を保護し守ってくれる最大のものなのではあるが。

 この時も、メットを外すといつものように頬に当たる外気が心地よさを与えてくれた。


 格納庫内は通常「そんなところにエネルギーを利用するわけには行かない」という、もっともらしい理由で、特別な事でもない限り重力調整はなされていない。

 普段なら、あちら、こちらと、人がふわふわと浮いては流れているのだが、今日はマルスの持ち帰った避難ポットにみんな興味をそそられたらしく、戦闘機の補修や整備や点検などといった一連の作業もそっちのけで、整備士一同の殆どかポットを取り巻いていた。


 その様子を上から見下ろす形になったマルスがひとつため息をつく。

 そのため息は「他にすることがあるだろう」であるとか「そんな呑気に構えていていいのか」といった言葉をぐっと飲み込むためのものであった。

 とはいえ、マルスも自分が曳航してきたポットの人たちが無事であるか気になる。

 やはりマルスも軍人である前に、人間なので多分に興味や好奇心があるのだ。

 戦闘機から降りその無重力を利用して人だかりに近づくと、列の後ろにそっと降りていく。


「中の人は確認できましたか?」

「ああ、通信設備はないが、とりあえず生きていたらノックをしてくれという呼びかけには反応があったから生きてはいるみたいだな」


 生きているとの言葉にマルスが安堵のため息をついた。

 せっかく救出したのだから、遺体と対面するよりは生きている人間と対面したい。

 整備士の一人がポットの出入り口のロックを無事に解除すると同時に、少し遅れて戦闘機を降りてきたエドが、マルスの肩を叩いた。

 先ほどマルスがした質問と同じ質問をする。


「中の人は?」

「何人かは不明だけど、無事らしい」

「そうか」


 エドもやはり同じ事を思っていたのか、中の人間が生きていると知って息を吐く。

 そしてマルスがエドからポットに視線を移した瞬間に、マルスは思わず息を詰めた。


 ポットの出入り口に姿を見せたのは、

 


 まさしく、双子の天使のごとき美少女だった。

 


 正しくは人間だが、顔のどのパーツをとってもそっくりな容姿の二人の少女だった。

 二人は互いに寄り添い、互いの手を握りあって、不安げに瞳を曇らせる。

 よく見れば握り合う手と互いの肩が微かに震えている。

 

  二人の少女の美しい容姿に、辺りの人間の誰もが目を奪われたのは当然で、それはマルスやエドですら同じだ。

 息を飲む声すら響くほどに静まりかえった人垣の中を、まるで何かに導かれるようにマルスが進み出ると当時に、二人の天使のうちの一人が、その場に崩れ落ちた。

 ふわりと長い髪が舞い上がる。

 無重力の中で力が抜けて浮かび上がりそうな少女の躰をマルスが慌てて抱き留める。


「大丈夫です、気を失われただけのようですから。医務室に案内させていただきます」


 そのマルスの言葉に不安げに俯くと少女は微かに震える声で告げた。


「お願いします」


 気を失ったままの少女を抱きかかえ、不安に俯く少女を優しく促しエスコートするマルスを、その場にいた人間は誰も何も言えぬまま気が付いたときには、すでにそこにはマルスの姿は無くなっていた。

 天使のような容姿に騙されて誰も気づかず、そして当のマルスだって気づかずにいたが、俯いたサラは確かに見たのだ。

 マルスの腕の中の、気を失っていたはずのキラが薄目を空けてサラにウィンクした瞬間を。


(この、悪戯ムスメ!)



 冷静に考えればあのキラが、サラのよく知ってるキラが、恐怖や不安なんかで気を失うほどか弱くはない。

 どんな状況下であろうと気絶なんてする訳がないのだ。 

 なんと言っても普段から、


「たとえ窮地に陥ったとしても何とかなるわ、じゃなくて私は何とかするのよ、当然でしょ」と豪語しているのだから。



 話を戻して。



 医務室に鍵がかけられた理由は、マルスが日頃から、心の中でアホと呼んでる男、艦長なヴァールのなせる技だった。

 マルスがキラを抱きサラを伴って医務室を訪れると、話を聞きつけたナヴァールが医務室に姿を現した。

 マルスがキラを軍医の指示に従ってベットに寝かせるより早く、サラに対してそりゃもう居丈高に声高く次から次へと質問を繰り出した。

 あまりにも目に余る態度であったから、マルスが制止すると今度はマルスまでもを説教するありさまで、その様子を見守っていたサラが軽い目眩に襲われ、その場に崩れ落ちそうになったのも無理はない。


 サラとキラの身近には、居丈高に言葉を話す人間はいない。


 二人の身分を考えれば当たり前の事で、また、下手にそんな口調で話したのなら、キラの微笑みに隠された徹底的な報復に遭う。


 一方、マルスにはとんだとばっちりではあったのだが、救出した民間人に対してとる態度ではない。

 相手は今まで恐怖と戦って心身ともに疲れている筈で、居丈高な態度で接する必要もない。

 だから「ご質問は後でもよろしいのでは? まずは休養を」と進言したのだが、それが気に入らなかったらしい。

 

 常々、マルスとエドに対して抱えていた劣等感や、それに付随する様々な感情がここぞとばかりに増幅されて一挙に爆発した。

 父親が重要な役職に就いているからと始まり、それはもう聞くに堪えない罵詈雑言の嵐。



 それを端で聞いていたサラは「この人、頭が溶けてるの?」と思うのは当然だ。



 医務室にナヴァールの怒鳴り声が響く中、それを遮ったのはキラの静かな嗚咽だった。

 ベットに腰掛けたサラの手を握りしめ、目を覚ましたキラは、はらはらと涙を流しつつ、小さな嗚咽をもらしたのだ。

 それに釣られて先ほどまでしっかりとした意識を持っていたサラまで一緒に泣き出した。

 二人の少女の泣き出す姿に、さすがの軍医も同情と庇護心が芽生え艦長に進言した。


「ここは病人とけが人を預かるところで、艦長のような健康優良な方が出入りするのでしたら、決められた時間にて尾根が死します」と。 


 ところが、素直に進言を受けるような男じゃないのが、このナヴァールで、どうやら軍医とマルスの一言は、彼の自尊心を大きく傷をつけた。

 

 この様子をあとからキラが

「気が小さくて能力も胆力もないくせに、プライドだけは高い男ほど怒鳴り散らすのよね。ケツの穴の小さな男ってイヤね、何もかにもがスケールが小さくて」と、のたまった。


 後に、キラによって優雅でありつつも徹底的に報復されることになる艦長は、傷ついたプライドと艦長の威厳をひけらかしつつ、ひとまず医務室を後にすることに同意はした。

 だが「身元すら判明しないものを自由にさせるわけにはいかない」ともっともらしい御託をならべて、警備隊を二名を医務室の前に配備したあげく、軍医には医務室退去を命令し鍵までかけてしまったのだ。



 こうして医務室は丁のいい軟禁室と化したのである。



 台風が過ぎ去ったように静かになった医務室で、泣いていたはずのキラが四方を眺め、二人の間に隠されたハンディ型のPCで何かを必死に操作していたサラがウィンクをすると、キラが疲れたとばかりに首のこりをほぐす。


「はぁ…疲れた……あの馬鹿男のせいで、涙まで流すことになったわ、水分がもったいないわ」

「でも、いいタイミングで倒れたね、キラ。一瞬、僕も騙されそうになっちゃった」

「だって、サラ。私、顔を見られてるかもしれないんだもん」


 あまりにもアッケラカンと、あまりにもさらりと軽く言われて、かなりの時間を要してサラはキラの言葉の意味を反復してみた。

 その間のキラはベッドから起きあがり机の上に遭ったPCを操作している。


「ねぇ、本当に? キラ、顔を見られてるかもってどういうこと?」


 あまりの混乱ぶりに言葉がオカシイのは仕方がない。

 これが双子の絆のなせる技なのか、そとも質問されることがはなから解っていたからなのか、珍しくキラがバツの悪そうな視線をサラに向ける。


「うん多分、間違いないと思う。二年前の月の空港とこの間の式典。それにディナルの海でも逢ってる」


 サラのPCが持つ手が震え、息も絶え絶えだ。


「……気付かれてる?」

「それはないと思うけど……まずいよね?」


 あんまりにも暢気なキラの返答に、今まで貯められていたサラの何かが大爆発した。

 何も怒鳴りたいわけでも怒りたいわけでもない。

 ただ、心配して心配して、その心配が確実な怒りに変換されてしまったのだ。


「キラ! もう何をしてるの!当分、火遊びは禁止だよ!」


 持っていたPCをベッドに投げつけて、サラらしからぬ歩き方でキラに詰め寄ると頭をおもっきり殴りつけた。

 殴られた方のキラは、反省の色なんてこれっぽっちもなく、上目使いにサラを見上げて苦笑いした。


「サラ、実はもう一つ」


 なんて事を言い出したのだから、サラが泣き出しそうなのも無理はない。


「まだ、あるの?」

「もしかしたら、二年前に落とした「暁の明星」彼が持ってるかも」


 その言葉は小型のミサイルよりも威力をもってサラを攻撃した。

 しばらくキラを見つめていたサラは、流れ始めていた涙なんて瞬時に引っ込んだ。

 キラの言った言葉を心の中で反復して、自分を落ち着けるために二〇まで数えて頑張ったのだ。

 それでも我慢の限界とか、堪忍袋の緒が切れるとうのも存在して、おもむろにキラの頭を二度殴りつけると、キラの抗議の声が挙がる前に一挙に言った。


「キラ! 解ってる? それがどれだけ危険な事なのか解ってる? 脚がつく可能性、高いんだよ、もう! 当分は邸から出たら駄目だからね!」


 そのサラのあまりの迫力に、さすがのキラもただ、頷くしかなかった。

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