華麗なる姉妹の逃避行7
────遡ること一時間前
全身から不機嫌オーラを撒き散らしながら専用機のメンテナンスをしていたマルスは、艦長の指示に従い出撃準備を終えると、戦艦アトラスを飛び立った。
相棒のエドも同行している。
艦長からの命令はこうだった。
近隣空域で民間シャトルの救難信号を感知したというのだ。
信号の識別番号から、それが月所属のシャトルであることは明らかだった。
見捨てるわけにはいかない──当然の判断だ。
だが艦長は、それを“仕方がないから助けてこい”と、さも恩を着せるような言い方をした。
たとえ国連所属の避難ポッドであれ、乗っているのが民間人である以上、敵味方の区別なく救出するのは、人としても軍としても当然の義務だ。
そう考えていたマルスにとって、艦長のその一言は、不快感をさらに煽るだけだった。
もちろん、その思いを口に出すような愚は犯さなかった。
いかに不満があろうとも、艦長は上官である。
なお、避難信号が発せられている空域に向かう道中、マルスとエドの間で交わされた会話の内容については、ここでは不問に付す。
アトラスの解析班からの指示を受け、マルスは旧式の避難ポッドを発見。
自身の機体とポッドを連結し、アトラスへの帰還進路を確保した。
だが、旧式ゆえ通信機能は搭載されていない。
中に乗っている民間人の人数も、無事かどうかも確認できない。
「マルス、中の人間は無事なのか?」
「わからない。旧式ポッドだ、通信機能がついてない。……ただ、この型式なら乗れるのは十五人程度のはずだ」
「たった十五人か?」
「ああ。月の民間機が撃墜されたっていう報告は受けてるか? エド」
「いや、ただ『爆発があった』って話は聞いたが……中の民間人、生きてるのか?」
通信モニター越し、メットの向こうでエドがいぶかしげに眉をひそめる。
言いたいことは分かる──
マルスは小さくうなずくと、アトラスへの帰還に向けて、わずかに速度を上げた。
あまり急ぎすぎると、ポッド内の民間人が驚いてしまうかもしれない。
そんな気遣いに気づいたエドも、同じく速度を調整する。
艦からは「急げ」と、矢のような催促が飛んできたが、マルスもエドもそれを無視するように、通信を思い切り切った。
それは、彼らなりのささやかな
──艦長への、ささやかだが確かな抵抗だった。




