おまけ
魔王の葬儀がようやく完全に終わってから4年後。
多くの人間と魔族で混雑している大きな都会の片隅にある食堂。
そこでは旧魔王城厨房での勤務経験があるという店主・シェルヨトが自身の腕前を披露し、数年前まで貧困に喘いでいた元気のある従業員・クァクレスがホールで動き回っている。
ディナーとして出される様々な高級コースが揃っている一方、恵まれない環境にいる者向けの食事支援も行っており、人間からも魔族からも高い評価を受けている店だ。
魔族は第3代魔王・ガルンファが死去して以降、魔王の座が廃止となって大統領制となった。魔族にとって初めての選挙が実施されたが、結局初代大統領として選出されたのは臨時大統領も務めていた元魔王城侍従長・ツァルソン。
また、元魔王妃とガルンファの妹たちは一時拘束を受けたが、今では解放されて一般市民となっている。そんな中で元魔王妃は魔王への不満を赤裸々に書いた自伝を発表し、出版したという。
ツァルソンはそれに対して「言論統制をするつもりはありません」と言って静観する姿勢を示したが、どう読んでも元魔王妃が人間との争いを煽っているような内容だったため、今はもう人間と共存している魔族たちから大バッシングを受けた。自業自得である。
先述の通りシェルヨトは受け取った財産の一部を使い、自身の店を持った。だがそれでは魔王の財産を使い切ることは当然できず、残りはツァルソンに返還した。
その際にシェルヨト、そしてついて来たクァクレスは「まだこの平和を享受できていない層も存在している。そんな人間・魔族への支援に少しでも良いから使って欲しい」と頭を下げた。クァクレスは若干名残惜しそうな顔をしていたが。
ツァルソンはこれを聞いてニッコリと笑い、「やはりツァルソンめの判断は間違っておりませんでした」と言ってそれを受け取り、その一部を用いて貧しい民への支援団体を設立する。
そして残りの一部は大統領制の移行に伴う、様々な資金として使うこととなった。
「なあ。もしシェルヨトが『全部財産貰う!』ってなったら魔族政府の運営ってどうなってたんだよ?」
「そもそも『俺が全部受け取ることは無い』って踏んでの考えだったんだろうよ、魔王様も侍従長さんも。ある意味でしてやられたんだよ」
「結局魔王とエルフの爺さんに騙されたのか?」
「・・・どうだろうな。でも魔王様を弔えて、開業資金も貰えて、それにお前と出会えたってことを考えれば、あの葬儀に出席したことは何も間違えじゃないよ」
「私もそうだな。あの時、葬儀場に忍び込んで良かったよ。・・・でもまさか葬儀が始まって1年が経過した後、またプラス1年あの大聖堂から出られないとは思わなかったな。魔王の魂を浄化する呪文ってやつ、長い時間唱えすぎてさすがに覚えちゃったよ。今でも言えるもん」
「しかし言っておくがお前、そもそも葬儀会場の不法侵入はギリギリじゃなくガッツリ犯罪だからな。今ここで平和に暮らせていることに感謝しろよ」
「へいへい、ありがとうございましたねぇ。あ、客が来た。常連の人間とワイバーンの2人組だな。いらっしゃいませー」
こうしてクァクレスとシェルヨトは今日も生きる。
人間と魔族が共に生きる、この世界で。
一話一話の文字数はやや多めでしたが変に刻むと読みづらかったので。
お読みいただきありがとうございました。