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僕と姉  作者: 神崎みこ
2/2

おまけ

 また姉さんが失踪した。

別に、それ自体は普通のことで、だからといって驚いたりなんてしない。

だけど、今回ばかりは事情がちょっと違う。

だって、姉さんにはようやく幼稚園に通いだした小さな姪っ子が存在しているのだから。

唐突に子供を連れ帰った姉さんは、孫フィーバーした両親をこれ幸いと、ちゃっかりと実家へ定着してしまった。

あれほど旅と失踪を繰り返した姉さんにしては、まめまめしく姪の面倒をみていると油断していたら、案の定。

風のような気質は治るもんじゃない、と、やっぱりつい最近隣町で迷子になった母さんをもつ僕はためいきをつく。

ただ、えらいなぁ、と感心するのは、どうやら彼女をここへ縛り付けていた理由、姪っ子も一緒に連れて行ったらしい、というところだ。

今はインドかタイか、マレーシアか、はたまた和歌山あたりで修験者まがいのことをしているやもしれず、趣味と嗜好が四方八方に飛び散ったままちっとも集結していない姉さんの行動は予想できるものじゃない。

まあ、あの人のことだからどこへ行ってもたくましく生活していることだろう。

姪っ子にしても、恐るべし遺伝子、とばかりに、どう考えても姉さんが分裂してできたとしか思えないほど彼女にそっくりなところからして、きっと図太く楽しく姉にくっついてまわっているだろう。

ただ、そこでしおしおになってへこたれている義理兄はうっとうしいことこの上ない、けれど。


「まあ、こうなるのはわかってましたよね、最初から」

「……、すまない、私の遺伝子が弱いばっかりに」


規模は小さいけれど、結婚してからずっと同じような目にあった父さんが婿をなだめる。

多少なりとも娘である姉さんの行状に良心の痛みを感じるらしい。

僕にしてみれば、最初からわかっていた義理兄さんは、好き好んでこういう目にあいたがるただのどMだ、という認識なのだけれど、製造元としてはそういう心境に達するわけにはいかないようだ。

同じ苦労がわかるもの同士、この二人はとても仲がよく、お互いのパートナー、つまり僕の母さんと姉さんがいないのに、二人でよく酒を酌み交わしてちゃっかり彼もこの家に馴染んでいる。

まあ、義理の関係同士が仲がいいのは悪いことじゃないから、僕としては生暖かく彼らを観察するばかりなのだけれど。

姪を巻き込んだ失踪は、どうやら新たな犠牲者を呼んだようで、その小さな彼は目を潤ませながら小さな手を握り締めている。


「みしゃきちゃんは?」


今にも泣き出しそうな顔をして姪の名前を呼ぶのは、どうやら幼稚園仲間の男の子、らしい。

まあ、いまどきの子ならボーイフレンドの一人や二人いたところで不思議じゃないし、小さい同士が仲良く手をつなぎあっているのも見るのはほほえましい。

そんな関係の相手でも、本能なのか牽制するような視線をおくる父親、というのも古今東西わりとありふれた風景なのかもしれないが。


「ごめんねぇ、美咲は旅行に行っているみたいなんだ、でもすぐに戻ってくるから、ね」


責任を感じてしおれている父さんと、小さくとも娘の恋人となんか口をききたくないうえにしおれている義理兄さんが答えられない代わりに、僕が当たり障りのない答えを彼に与える。

納得しているのかしていないのか、難しい顔をしているボーイフレンドを間に挟み、どうして美咲がこないのかと駄々をこね、手においかねた風の母親と顔を見合わせる。

しおれた男二人と、とうとう泣き出した男の子と、困り果てたその母親と、ああやっぱりとため息をつく僕。

そんなわけのわからない光景は、姉さん親子が帰ってくるまで数回繰り返される。

すっかり日焼けした肌と、憎たらしいぐらい白い歯を見せながら笑う姉さんと美咲が我が家へ帰ってくるまで。

今も昔のおいかけるのはいつも男。

それが我が家の定番らしい。

しかも、いつも置いてかれる、というおまけつきで。




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