さよなら、プルート。
本当は、太陽みたいなひとになりたかったんだ。
僕は馴れ合うのが大嫌いだ。何かにつけて徒党を組む、奴らの習性に辟易していた。一緒に行こう?一緒にやろう?お揃いにしよう?全部気持ち悪い、糞くらえ。立てた中指の本数はもう数えるのも面倒なくらいだ。
奴らの中心にはいつも、ある女の子がいた。底抜けに明るくて優しい彼女は誰からも人気があって、いつも彼女の周りには人がいて、輪が形成されていた。僕は相変わらず関係無いと思っていたけれど、彼女はこの僕に対してもいろいろと声をかけてくるのだ。はっきり言って、鬱陶しい。彼女の目には、ひとりの僕が寂しそうに映るのだろうか。そんな同情じみた自己満足だったとしたら非常に迷惑だ。僕は自ら選んだのだから。馴れ合って群れるより、こっちの方が何倍も楽だし心地いい。だんだん僕は、彼女に苛立ちを覚えるようになっていた。
ある日の晩。僕は何も考えずにTVを見ていた。見ていた、と言ってもTVの情報は頭に入っていかなくて、ただなんとなくぼんやりと眺めているだけ。アナウンサーが淡々と次のニュースに移っていく。画面に太陽系の模型が映し出され、胡散臭そうな天文学者が解説を始める。冥王星がなくなるとかなんとかで、ああそんな話もあったなとふわふわした頭が認識する。僕は映し出されたその模型を見て、ふと思った。
(あいつらみたいだな)
その光を求めて、集まって。太陽の周りを囲んで、輪を作って。
そのうち僕は模型の片隅に、ちいさな粒のような惑星があることに気づく。天文学者はその惑星を指差して、「これが冥王星です」と告げた。他の惑星とは大きく異なる、捻じ曲がった軌道。
(あれは僕だ)
そう思った瞬間、一気に胸を締め付けられた。
僕は気づいてしまった。太陽に苛立っていたのは、鬱陶しいからじゃない。嫉妬だ。いくつもの惑星達に囲まれて輝く太陽に焦がれて、でも僕は太陽になれなくて。だから僕は孤高の惑星を気取って、逃げて、避けて、太陽系の1番外側。気の遠くなるような公転周期でまわって、それでも太陽の側から離れない。誰とも一致しない歪んだその軌道、やがて惑星とすら呼ばれなくなる、ちいさな。
そうだ、きっと僕は、太陽みたいなひとになりたかったんだ。あの眩しくて暖かい光を、あたりまえのように出すひとに。だけどなれない、だから僕は遠く離れたんだ。
そのニュースが何事も無かったかのように次の話題へ移る時、僕は自分によく似た星を想ってすこしだけ泣いた。
2006年、惑星から外された冥王星に捧げたお話を加筆修正しました。もうあれから15年以上が経ったのですね。時の流れは加速度を増すばかりです。