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第7話 葡萄ジュース

(ぬおおぉぉぉぉぉっ!)


 走れ。もっと動け俺の足。風よりも音よりも光よりも速く!


 俺は今シェルネを乗せて全力で空を駆けていた。


「止まらぬかァァァッ!」


 爆速で飛んでくるドラゴンから慌てて逃げる。こっちの方がスピードに分があるし、小回りも利く。だがドラゴンから感じるただならぬ気迫と執念が、俺たちの焦燥感を駆り立てた。


(あいつはなんであんな怒ってんだよ!?)


「知らないよ! なんか怒ってないことに怒ってる!」


(意味わかんねぇよ! ヒステリーでも起こしたのか!?)


「ったく、なんで伝説の竜族がいきなり出てくんの!?」


 シェルネは必死に逃げる俺の上で、後ろを向いて座り直した。


「死ぃねぇぇぇぇぇぇ!」


 そして雷撃を手当たり次第にぶっ放す。


「ぬわっ! ちょっ! やめっ! やめんか小娘っ!」


 ドラゴンの図体に似合わぬ身軽な動き。飛来する雷撃を紙一重で避けていた。


「っち!」


 シェルネが舌打ちする。


「ロスカ! このまま逃げてもきりがない! やるよ!」


(はぁ? あんなんに勝てるわけねぇだろ!) 


「でた、ビビり」


(ぶち殺してやるよドラゴンでも神様でもかかってこいやぁ!)


 後ろの前脚を軸に急旋回して、ドラゴンに向かって走る。こういう小回りが利くところは八本脚の良いとこだ。


「やっと諦めたか愚か者共め! 灼き尽くしてくれるわ!」


 ドラゴンの口端から火の粉が漏れ出し、堰を切った様に火炎が放たれた。迫り来る熱波で大気が揺れ視界が歪む。


 シェルネが火炎に向けて雷撃を放つが僅かな拮抗の後、雷撃が散らされた。


「でしょうね!」


 しかしそれは予想していた様だ。シェルネの伸ばした手の中に神槍グングニルが現れる。


「ぶち抜けぇぇぇぇぇっ!」


 そしてグングニルを全力で投擲した。一条の光と化した神槍が、荒ぶる炎の奔流に真っ向から突き刺さる。暴力の塊の様な火炎が割れ、槍は一直線に突き進む。


 槍が火炎の根元に辿り着き、ドラゴンの口内に侵入しかけた瞬間、ドラゴンが勢いよく体を逸らした。標的を逃した槍が彼方へ飛んでいく。


「な、なんだそのふざけた槍はっ!? それにそこの魔物もだ! 何故アースメギンを宿している!?」


 冷や汗だらだらのドラゴンが何やら捲し立てている。またヒステリーか?


「アースメギン? まさかルーン適性の魔力のこと? ……なにか面白いことを知っていそうね!」


 竜の言葉を聞いた途端、シェルネが悪魔の様な笑みを浮かべていた。


「アースメギンについて知っていることを全て話して!」


「先に質問したのは我だ!」


「あ、そう」


 シェルネが冷淡に呟くと、彼方からグングニルが飛来し、ドラゴンの右翼を貫いた。


「ぐあァッ!?」


 バランスを崩したドラゴンが地に落ちる。


 俺とシェルネはドラゴンの前に降り立つ。


「さ、教えて?」


「貴様の要求など聞いてたまる、かっ!」


 ドラゴンが口内で高熱を練り上げ始めた。


 やめなさい。


 俺はドラゴンの上顎を思い切り踏み付けた。するとドラゴンの顎が激しく地面に叩きつけられてめり込み、大地が蜘蛛の巣状に割れた。同時にドラゴンの火炎が霧散し光が溢れた。


 えぇ……。


「ふふっ、ロスカもなかなか大胆になってきたじゃん!」


(お、俺に本気出させりゃこんなもんよ!)


 やっべー……。


 あんななると思わんやん普通。


「ちょっと、起きて。起ーきーろー」


 気絶したドラゴンの頭部をビシビシと叩くシェルネ。だんだんこいつが悪魔に見えてきた。


「ったく、だらしない。ご飯でも食べて待ちましょ」


(いいけど、結構馬車置いたとこから離れてね?)


「それくらい運べるでしょ?」


 シェルネが顎でドラゴンを示す。


 神獣使いの荒い女がよ。






 盛大に飯食って葡萄ジュース飲んで、俺らが焚き火の周りで踊っていると、ドラゴンが目を覚ました。


「ぬぅ、我は何を……」


 その寝ぼけ眼と目が合うと、みるみると見開かれていく。


「貴様ら、よくも……」


「はい、お口あーけてっ!」


(よいしょっ!)


 俺は何か言いかけたドラゴンの口を無理やりこじ開けた。そこにシェルネが並々と葡萄ジュースの入った樽を傾ける。


「な、何を……」


 戸惑うドラゴン。


「ドラゴンの〜」


「(ちょっと良いとこ見てみたい〜!)」


「(ゴーゴーレッツゴ〜!)」


 頬を真っ赤に染めたシェルネが、次々と葡萄ジュースを流し込む。


「も、もうやめ……」


「(まだまだイケるよゴーゴーレッツゴ〜!)」


 俺たちは馬車に積まれた葡萄ジュースがほとんどなくなるまで、ドラゴンのちょっと良いとこを見ていた。


 すると。


「っぷはぁ、貴様らなかなかイケる口よのう!」


 上機嫌になったドラゴンが踊り出し、俺たちは全員で焚き火を囲って踊った。






 朝日に照らされ重い瞼を開けた。クラクラしながら立ち上がると、シェルネとドラゴンが腹を出して寝ていた。とてもじゃないが女子や、自然の厳しさの中で生きる野生の生物がして良い格好じゃない。


 なんだかボーっとしているとドラゴンが、そして最後にシェルネが目元をピクピクさせて起きてきた。


「ぬぅ……」


「んんっ〜! もう朝ぁ?」


 ドラゴンはぐったりとして、シェルネは伸びをしながらご機嫌に起きてきた。


「我、帰る……」


「また飲みましょ!」


(じゃな〜)


 流石はドラゴン。一夜明けると右翼に開いた穴は塞がったようだ。俺とシェルネはふらふらと揺蕩うように飛んでいくドラゴンの情けない背中を見送った。


「今日もいっちょ頑張りますか!」


(おお〜)


 俺たちが後片付けをして、旅の準備をしていると……。


「違ーーーーう!」


 うるさいのが戻ってきた。

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