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第1話 幕開け

「シェルネ殿下、本日のスケジュールですが……」


 服を着せられ、侍女が淡々と私の予定を述べていく。


 この国の第三王女として生まれた時から私の人生は決められているらしい。どっかに嫁いで関係性を高める為の道具。つい最近、帝国の公爵家に嫁がされることが決まった。成人を迎えて十五になったら、つまりあと一年経ったら。


 私は道具としての役割を果たす為に、今もせっせと礼儀作法やらなにやらを学ばされてる。


 うんざりだ。


 私にだってやりたいことはある。


 武術の稽古は好きだ。


 いろんな武器を試してみろと言われて初めて槍を握った時、これだと思った。私の身長は将来的にも女性の平均かそれ以下だと思う。大抵は体格で劣っているだろうし長柄武器なら多少はそれを補える。


 そして的を一直線に貫く爽快感。目の前の障害に向かって真っ直ぐ突き進み、道を切り拓く。


 私の人生もそうあれたらって。


 魔術も好きだ。


 魔術陣を構築すれば火を出すことも水を出すこともできる。構築には時間がかかるから予め魔術陣を刻んだ武器や道具ーー魔具を使うのが一般的なんだけど、解明されてないことも多くて新しい魔術陣が発表される度にワクワクする。


 とりわけ私を惹きつけるのは高位魔術言語『ルーン文字』だ。


 遥か昔の神々の時代、神代に使われてたらしい。ルーン文字の刻まれた魔具は神代魔具ともルーン魔具とも呼ばれてて、とんでもない力を秘めてるそう。


 ただ、魔術陣にしろルーン文字にしろ起動するには適性が必要で、神々の血が薄まった現代では人間からルーン文字の適性者は生まれないんだって。


 失われた神様達の技術。


 もうたまんないんだから。


 隙を見つけては宝物庫のルーン魔具をさすさすしてるのも仕方ないと思う。


 私のお気に入りのネックレスもルーン魔具だったりする。お父様に駄々を捏ねに捏ねて、城から持ち出さないことを条件に借りることができた。私にとってはロマンの塊だけど、みんなにとっては宝物庫の肥やしでもあるから。


 ルーン魔具の神秘を解き明かしたい。どっかの男に嫁いでいる場合じゃない。夫を支えて子どもの世話をする。


 私は!? 私の自由は!? 


 王家に生まれた責任なんて兄様や姉様が果たしてくれるでしょ。


 私は嫌!


「では一旦休憩にしましょうか」


 侍女が言うや否や、私は一冊の本を片手に宝物庫へ駆け出す。


 背中越しに侍女のため息が聞こえた気がした。そんなだから婚期を逃すのよ。






「んん〜」


 私は自分の胸元辺りまである、ルーン文字の刻まれた大きな卵に抱きつき頬を擦り付ける。このつるりとした肌触り。私もこんな毛穴ひとつないたまご肌になりたいものね。このデカ卵も神代の遺物として保管されてきた一品だ。


「よしっ、今日もちょっと我慢してね〜」


 気合いを入れて神槍グングニルを手に取る。ルーン文字を起動できなくても耐久性だけなら世界一の槍をデカ卵のルーン文字に向けて振るう。


 実は槍術の稽古をしているのはいつか神槍グングニルを起動できた時のためだったりもする。


 なんでこんなことをしているかというと、たぶんだけどデカ卵がずっと孵化もしないし腐りもしないのは、この縦線に斜めの線を交差させてるルーン文字が昔に起動したからだと思うんだよね。だからルーン文字愛好家としては心が痛むけどこの文字を削れば何か起こるんじゃないかって。


 まあ、毎日やっても傷一つ付かないんだけど。


 おかげで宝物庫の見張りの兵士が「シェルネ殿下ご乱心!」ってお父様にチクった時は誤魔化すのが大変だった。


 その後グングニルで兵士の首筋を優しくなぞってあげたら不思議と口うるさくなくなった。これが神槍グングニルに込められたルーンの力なのかもしれないわね。


 そしていつもみたいにあんまり期待しないでグングニルを振っていたら……。


 ピキッ


 微かに変な音が聞こえた気がした。入り口の方を覗いて見るけど、兵士が動いている様子もない。気のせいかなと思ってデカ卵に向き直ると……。


 ピシッ、ピキピキ


 なんとなんと長年の宿敵デカ卵に罅が入っていた。もうかれこれ七、八年は続けてきた。


 ようやく。ようやくだ。


「マジ……?」


 今も割れ続ける亀裂の内側から光が溢れてくる。


 これって歴史的瞬間だったりするんじゃない?


 宝物庫内が光で満たされ、閉じてなるものかと瞼を開け続けようとしけど無理だった。


 きちゃったんじゃない?

 そうなんじゃない?


 大ルーン時代!

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