第四話 「魔剣使い(イリス)」
「魔剣使い(イリス)、だと!? 馬鹿な魔剣の使い手など存在しするはずがないっ!」
「いや、普通だと思うが? 聖剣の使い手がいるなら魔剣の使い手がいるのも当たり前だろう? それより集中した方がいいぞ?」
「はっ!魔女の魔剣を手にしたぐらいで何を…」
言っている。ロドリゲスの言葉は自身が咄嗟に動かした事によって防いだ衝突音によって掻き消される。
「ば、馬鹿な!?」
「この程度で驚くのは早いぞ?」
「ふざけるなっ!」
「っと?」
ロドリゲスは剣を強引に振り抜き、それによってシドウは体勢を崩す。
「はあああっ!」
ロドリゲスが振るった剣が体勢を崩したシドウを捉えるがそれは霞の如く消え去り。
「「「「なっ!?」」」」
観客からも驚きの声が上がり。理解出来ていなかったのはロドリゲスもだった。
「…は?」
「それは残像だ」
驚きの中、声の聞こえた方を見るとロドリゲスの左後方にシドウは悠然と立ちつつ、自分が持つ白い魔剣を興味深そうに見ていた。
「これは、思っていた以上だな…」
「貴様っ!? 一体いつの間に!」
残像を残すほどの圧倒的な減速と加速。それは姿を消せるほどの加速だけではなく、急激な静止をも精密に行わなければ起こり得ない現象で。だが聖剣使いが残像に惑わされるのはあり得ないはずだった。
「いや、体勢を崩された時にはもう移動していたが?」
「…あり得ない」
聖剣使いは聖剣の加護によって全ての身体能力が強化されており、それによって常人では捉え切れない動きも追うことが出来るが。
「あれを追えないんじゃ、まだまだ扱いが下手だな」
ロドリゲスが見るとシドウという男はロドリゲスをそう評価した。
「ふざけるなァァァっ!」
「おっ?」
ロドリゲスの体から放出される魔力。それに対してシドウは然程驚いた様子もなくロドリゲスをみる。
「おい、お前達! ここからは一切の加減無しだ!殺すつもりでやれ!」
「……いえ、それは流石に」
「口答えをするな!」
見守っていた取り巻き達に、ロドリゲスの怒りの感情がのった魔力が炸裂し取り巻きたちを沈黙させる。
「全員、聖剣の力を開放してぶつけろ! 分かったか!」
「「「「…はい」」」」
ロドリゲスの指示に取り巻き達もそれぞれ水、土、風の力を発現させる。
「聖剣、覚醒しろっ! 剣名開放!炎狼っ!」
ロドリゲスが握る聖剣が炎へと変わり、その手を離れると炎を纏った狼へとその姿を変える。
「「「「目覚めよ、聖剣。剣名開放!!!!」」」」
そして、ロドリゲスに続くように取り巻き達の武器は水、土、風へと変わり、水の聖剣は剣である馬の「刃犬」に、土の聖剣は「斧牙」と呼ばれる蟻に、風の聖剣は「裂風」と呼ばれる燕へとそれぞれ姿を変える。
「聖剣に宿る存在の開放。「剣宿魂名解放」か!」
宿魂開放は、聖剣使いの実力によって存在が上がっていく。下位の存在としては兎や馬等が上げられるが、シドウが相対でしている四体。
「ロドリゲスのヤツ、中位を従えてるぞ!?」
「あいつ、まだ一年だろ!?」
「…今年は、色々と豊作になるかもしれないね」
観客がそれぞれの感想を述べる中。
それらの中で最も高位の存在はロドリゲスが開放した「狼」観客が驚いていた通り、その存在は中位に分類されており。それ以外の取り巻き達の宿魂は下位に属するがその力は侮りがたいものだった。
「行けっ!」
ロドリゲスの掛け声と共に四体の宿魂がシドウへと迫る。
「シドウ!」
「焦るな、俺を信じろ」
レイの声にシドウは振り返ること無くその場で半身になったかと思うと剣を納めると静かに腰を下ろし構える。
「なんだっ、あの構えは!」
「見たことないぞ!?」
観客達が騒ぐ中、ゲオルグはその構えを知っていた。
「あの構えは居合だね」
「いあい、ですか?」
「ああ。ここより東にある島国で伝わる剣術の一つだよ」
そっと、指先が服の上から過去に居合によって着けられた傷をなぞりながらゲオルグは笑う。
「シドウは、宿魂を斬るつもりみたいだね」
「ええっ!? 彼は、剣一つで宿魂相手に勝つつもりですか!?」
驚愕するファイリに対してゲオルグは確信めいた笑みを浮かべる。
「まあ、見ていなさい。この勝負、シドウの勝ちだ」
「えっ!? それはどういうことですか!?」
「ふふっ、観ていればわかるさ」
ファイリの質問にゲオルグは答えずに観戦を促し、その場にいた全員がシドウへと注目する中でシドウの体がブレて、消えた。
「っ、一体何処に!?」
「…あ、あそこっ!」
その場にいた殆どの人間がその速さに追い付けずにいる中でシドウを見つけた生徒が指差した先は、ロドリゲス達の背後で。
「っ!?」
なに、とロドリゲスが口を開く前にその視界がグラリと揺れたかと思うとその体は地面へと倒れてしまっていることにロドリゲスは倒れた事でその事をようやく認識する。
「なに…が?」
頭は動かない中でどうにか動かすと視界に自分と同様に倒れ伏した取り巻き達の姿、そして動きを止めた四体の宿魂の体に走った一筋の剣筋によって両断され。
「剣宿魂名解放は悪手だったな」
そう言いシドウが剣を鞘に納めると同時にその存在は消失し、砕けた聖剣がその名残として地面へと散らばる。
「お前…一体、何者だ…!?」
「俺か? 俺はただの魔剣使い、シドウ・クロノさ」
そこで、ロドリゲスの意識は消え。
『試合決着! 勝者 レイ・ルナ・アリウス第二王女殿下、転入生シドウ・クロノの双剣だあああぁぁっ!!』
「「「おおおおおぉぉぉおっ!!!??」」」
そして、進行を務めていたファイリによって決着が宣言されたことによって第三闘技場に驚愕の称賛の声が響き渡ったのだった。