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パラレル編

 放課後、楽器の音が廊下に漏れていた。

 音楽室ではなく学年の教室が並ぶ廊下だ。

 足音を立てながら開いている扉から中を覗いて移動をしていると楽器をいじっている男子を見つけた。

 小さく低い弦の音が出てその様子を目にしたルナフラが呟いた。

「そういえば功葉もギター弾いてたかも」

「そうなのか?」

「うん」

 中を覗くも歩みを止めず、弦楽器の音が遠ざかる。

「お父さんの持ってたやつ持って鏡の前に立ってちょっと鳴らしてた」

 ちょっと鳴らしていただけは弾いていたとは言わない気がする。

 自分も父親の弾きもしないギターを少しだけ触り、作曲らしきことをしていた事がフラッシュバックした。その稚拙さに身もだえしてしまいたくなる。



 押し切られる形で入ったカラオケで選曲せずにマイクを握りルナフラが歌い出す。

 楽器の伴奏も無いそのアカペラに驚いた。

「その歌。何で……知ってんだよ」

 恥ずかしくて死にそうしなりながら相手を苦い顔で睨む。

「それは魔道書(ノート)に書いてあったし」

「……」

 確かにルナフラの手の元にある魔道書(ノート)にはアーティスト曲の好きなフレーズやポエム的な言葉を書き連ねて、一部ページには目にするも恥ずかしいオリジナル曲が書き記されている。

 それを今目の前でアカペラで歌われて死にそうで仕方ない。

「歌、上手いでしょ?」

 こちらの気も知らない質問に表情に陰を落として答える。

「……その自信どこからくる?」



「もういい加減話しかけてくるの止めてくれないか?」

 クラス内でも綺麗な竹藤姫世加と喋るだけ、彼女からの言葉に返事をしただけで男子から呼び出し受けたり追求されて怒られるのはもう勘弁して欲しかった。

 何で話しかけてくるのか分からないがお喋り相手は他の人にお願いしたい。

「じゃあ、好きな人がいるか答えて」

 美人顔を引き立てるかの様に口元に微笑を浮かべ、隣の席から質問をしてきた。

「……」

 答えを間違うと面倒くさい展開が待っているのは容易に想像がつく。

 しかし厨二病を発症した中学生の頃から女子を好きになっていない。

 ずっとナルシストばりに厨二病の自分がカッコいいと目もくれずにいたうえ、このまま黙って黙秘したままでは要らぬ誤解を招く恐れがあった。

 例として同性が好みだとかなんとか。

「好きなヤツはいない。けど、好みは大人しい隠れ巨乳の淫乱なサキュバスだな」

 あえて存在しない人外をあげる事により呆れられて話を終わらせる作戦を取る。

 どれも竹藤姫世加からかけ離れたイメージ像にこれで男子たちに彼女には興味がないとアピールできたはずだ。

 今も大半の視線が向いていたが好みのタイプを話したら思惑通り皆の監視が外れた。

 現に男子たちに睨まれる諸悪の根源たる彼女もクラスメイトと同様に窓へ視線を逸らしている。

 これで厄介事も減るだろうと顔には出さないが安堵を覚えた。

「?」

 胸をなで下ろした所で窓際の席の女子から険のある目で見られている事に気づく。

 確か真北(まきた)だった気がする。下の名前は覚えていないけれどクラスメイトの名前なんてそんなものだろう。

 きっと皆が一斉に視線を窓に外したので自分が注目されてるのかと警戒しているのだと思う。

 心の中で不安にさせてしまった事に謝りつつ、机に次の教科の準備を始めた。



 事前の接触なく訪れてドア越しに功葉に話しかけ、自分も楽器してるからとギターを弾いた。

 すると部屋のドアが勢いよく乱暴に開く。

「うるさい! 下手クソなの聞かせんじゃねー! 殺すぞ!」

「……うん、殺されるそうなので帰るか」

 ちょっとビビったが命は惜しいし、引きこもりを追い詰めた結果殺傷事件を起こすのも出来事としてはある。

 踵を返そうとするとルナフラが阻止するためしがみついてきた。

「気が立っていただけだよ。新太の演奏が下手だったからで、そんなんで殺したりしないよ」

「下手とかいうな。事実なだけに胸が痛いだろ」

 家で一人気持ち良く弾いていたので誰かに下手くそだと言われると予想外にとヘコむ。

 プロ並みとは到底思っていないがそこそこ上手いと自分では思い込んでいたから。

「イチャつくんじゃねえよ! 姉のイチャつく姿とか、めちゃくちゃ気まずいだろ!」

 確かに弟にとってその光景は苦痛だろう。

 しかしそれよりも功葉の姿を訊ねずにはいれなかった。

「ルナフラさん……弟は厨二病という風に聞いていたのだけど?」

 アッシュが入った髪、眼帯、耳にはイヤーカフなどのアクセサリー、指先が出た手袋。

 弟を一目見て小首を傾げるルナフラ。

「え? 厨二病じゃないの?」

「明らかにバンドマンしかもロックかヘビメタ系じゃないか!」

 詳しくはないので間違っているかもしれないが、受けた印象は概ねそんな感じの印象だった。

「それを厨二病卒業し立ての一般人にどうにかさせようとしてたのかよ!」

 引きこもっていても、ある種の陽キャの対応をさせようとしていたなんて荷が重すぎる。

「楽器してるってオレみたいのと相性良くないじゃん! 主にオレの方が!」

「そんなこと言われてもさ。言われてみると何か怖そうな服装の男子が前に訪ねて来たけどやっぱりそうなのかな? 怖かったから一方的に追い返しちゃったけど……」

「そうだよ! 絶対心配して来てくれた仲間的なやつ。何で追い返しちゃうかなもー!」

 自分が駆り出されなくても、ちゃんと適任の使徒が来ていた事実に叫ぶしかない。

「でも明るい髪のイロチが二人だよ? 無理に決まってるよ。裏声にして家違いですって追い返したんだもん。新太だったらどうなのさ」

 逆に問い返され、一拍空けて真顔で答える。

「うん。無理、ごめん。相手に出来そうにない」

「でしょ? 無理なんだって」

 共感していると居るのに無視されていた功葉が顔を引きつらせて怒鳴る。

「どうでもいいから、部屋の前からどっか行ってくれ!」



「バンドの仲間がいるって分かったんだ。そいつらに事情を説明して謝れば、バンドに戻れて功葉を部屋の外に引っ張り出してもらえるだろ」

 そう余裕で他力本願な発言をしながらルナフラと一緒に功葉のバンドメンバーにお願いしに足を運ぶ。

「あー、もう代わりの入れちゃったんで。アビスには悪いですけど他探してくれますかね」

 言って飲み物をあおりペットボトルのキャップを閉める。

 すると別のメンバーが、ため息と共に手元のスマホから顔を上げた。

「連絡は既読スルーなうえに会えないし。その原因が女子にフラれたって話だろ? そんなんで落ち込むなんてロックじゃねーし」

「なっ!? フラれただけって!」

 相手に掴みかかろうと暴れそうになるルナフラを押さえる。

 どうも弟の事になると感情を抑えられないみたいだ。

 また別のメンバーが座ったままドラムの向こうから難しい顔で口を開く。

「失恋くらいバンドマンなら曲の糧にする気概がなくちゃ、いずれダメだろ。早いか遅いかの違いであって、立ち上がってこないのは変わりない」



 再びドアの前へ。

「……ごめん。どうにかするって許してもらおうと思ったのにダメだった」

 部屋の扉に向かって俯き、中の功葉に謝罪の言葉をかける。

 手にはメンバーに会いに行った帰りに購入したプリンの紙袋。

 ルナフラは弟の事で目が曇り、ぷりぷり怒りながらそこのプリンを三つ胃袋に納めている。

「もうメンバー入れてしまったらしいんだ」

 直接バンドをクビになったとは言えず、遠回しな言い方になってしまう。

「勝手なことすんなよ! 別に戻りたいとか思ってないんだからな!」

 バンドメンバーのメッセージを無視していた自覚からか、気のせいかもしれないが声に自暴自棄感が滲む。

 せっかく連絡をくれているのに応えず助けを借りず離れてしまったメンバーに思う所がないはずはない。

 他人が慰めるとか口を挟むレベルの話ではないので、せめて功葉のせいでバンド活動が止まったりしていない事を伝える。

 するとルナフラが突拍子もない事を言い放った。

「わたしたちでバンドしようよ。ギターとベースはいるわけだしさ。私がドラムやってボーカルは……竹藤姫世加がいるし!」

 なぜか付いてきた竹藤姫世加を指差す。

「どうして私が?」

 表情に当然の疑問を浮かべる。

「カラオケ上手いんでしょ! 女子たちが言ってたよ。弟を引きこもりにした責任くらい取ってよ」

「めちゃくちゃだな……」

 ルナフラの強い口調と発言に端で見ていて呟きが漏れた。

 勝手にフラれてその責任を取れだとか事前に話を聞いていたとしても理不尽な要求に言葉もない。

 そうでもなければ魔道書(ノート)の化身だとか言ってそもそも現れたりしなかっただろう。

 竹藤姫世加も彼女でクラスメイトから、主に男子から睨まれる事をされているので助ける事も味方する気もない。

 二人の間で『バンドして』『バンドしない』で問答が繰り広げられる。

 潰し合ってくれたら平穏な学校生活が手に入ると傍目に願う。

「新太、一緒にバンドして。じゃないと魔道書(ノート)を皆にお披露目するよ。一ページずつ校内にばら撒いて」

 コピーまでして断片写本を作る脅しに声が上擦る。

「ずっ、ズルいぞ……!?」

 そんな事をされたら考えるだけで恐ろしい。

 すると話の肝なのに蚊帳の外だった功葉が声を上げた。

「咲奈! 俺の気持ちを無視するなって! フラれた相手とバンドが出来るか! どんな罰ゲームだよ」

 勝手に話を進めるなと怒鳴る彼。

 実際、二人が揉めているだけで話は全く進んでいない。

 バンドしようという以外は何も。

 ルナフラは言い合いを止め、扉に向けて呼びかける。

「でも、音楽はどうするの? ここにメンバーがいるんだよ?」

 その問いかけに答えたのは中にいる功葉ではなく……

「勝手に数えんな」

「勝手にメンバーにしないで」

 二人同時に否定する、ルナフラは聞いてすらなくて扉の向こうに向けて説得を続ける。

「演奏してる姿見たら好きになってくれるかもしれないでしょ? アピールしまくってリベンジしなよ!」

「普通本人の前でリベンジとか言わなくない? どうせそんな気ないけど」

 別にもう未練は無いと口にする。

 けれど声音が天の邪鬼を言って誤魔化している様にしか聞こえない。

「そんなの分からないじゃん! 一度フッたかもしれないけど、功葉のこと何も知らないだけだよ。だから知らない所を見てもらえば好きになってくれるかも。フラれた時だって、まだ何も知ってもらう前でしょ?」

 功葉の魅力を竹藤姫世加は知らないだけだと言葉を重ねた。

「可能性はあるって」

「咲奈! もう聞きたくない。もう良いよ……! それにバンド内恋愛は解散する原因になる定番だからダメだ!」

 拒否を続ける弟に姉は軽く返す。

「大丈夫だって。わたしと新太、コイツと功葉で問題ないじゃん」

 ルナフラは人の意見すら聞かずそんな勝手な発言を続けた。

「……」

「心配ない。お姉ちゃんは誰と付き合っても、功葉のお姉ちゃんだよ。寂しくさせない。約束する」

「咲奈は全然分かってない! 新太が両手に花になったら俺は蚊帳の外なんだぞ!」

 人間不信とか疑い深いというより単に拗らせて何でも否定したい時期に見える。

「安心しろ~、人の話を聞かない子はタイプじゃないから」

 横から言葉を挟む。

 今回の騒動に引き込んだルナフラ。

 男子から睨まれるから話しかけないよう頼んだのに、なぜか変わらず話しかけてくる竹藤姫世加。

 どちらも話を聞かない子だ。

「そんなの分からないだろ! フラれたけど彼女はクールで素敵だし、身内贔屓かもしれないけど咲奈はかなりかわいい方だと思う!」

「……」

 ルナフラは褒められて満更でもない様子で、一方竹藤姫世加は言われ慣れてるのか言葉に対しての反応は薄い。

 しかし『どう?』と見つめてくるドヤ顔がうるさい。

「今は興味ないとか言っていても分からないじゃないか! 絶対好きになるパターンだろ!」

 功葉にそう断言されたけれど確かに100パーセント無いとは言い切れない。

 しかしそれでも引きこもりは解決しないといけなく、とりあえず目先の引きこもりをどうにかしてから考えようと決める。

「無いとは約束出来ないが安心しろ。好みは大人しい雰囲気の隠れ巨乳の実は淫乱なサキュバスみたいな子だ」

 何を口走っているのだろうと途中思ったが考えたら負けだと我慢した。

「とりあえず出て来てバンドの話をしないか? 竹藤さんを入れるかは別として、ボーカル無しでもインストバンドは出来るだろ」

 フラれたショックで引きこもっていただけで、音楽事態は失恋とは関係ないので前のバンドを首になった以上は話せない。

 それにメンバーは欲しいはずだ。

 なので誘ってみた。

「……」

 中からの反応は無い。

 これまでなら『うるさい』と言い返されていたので、無視されている可能性もあるが沈黙が少しでも関心を持ってくれた証だったなら前進だ。

「一回の誘いでどうにかなるとは思っていないからまた来るよ」

 良い感じの流れに持ち込めたので、これで帰れると内心ガッツポーズを決める。

 しかし、突然ルナフラに手首を掴まれた。

「ちょっと待って……! さっきの好みのタイプは何? まさかヤリマキのことが好きなの?」

 誰の事なのか知らない名前が出て来て眉間にシワを寄せる。

 誰のことだろうか? しかし勘違いしたチャンスを活かさない手はない。

「そうだけど何? ルナフラに追求される話じゃないだろ」

 ここで功葉を不安にさせないための嘘だと明かしてしまうと伝わってしまった時に、また相手を疑心暗鬼にさせて面倒くさくなるので偽り続ける。

「言えるのは二人はタイプじゃないってことだ」

 声を張って部屋の中に聞こえる様に答えた。

 用意できる策は尽きたと扉から離れた後、二人から質問攻めにあったのは思い出したくない。

 それから数日、奇しくもルナフラと初めて会った場所に菊町功葉が現れた。

 待ち伏せしていたらしい彼に、まるでケンカをふっかけられているかの様な勢いでバンドに誘われる。

「この前の話乗ってやる! 俺と組んでくれ!」

 これを誘っているというのかまでは問わないとして、腕を組んで軽く顎を上げて言葉が続けられた。

「ギターが下手クソなのはどうにかしてやる! それに提案してきたのはそっちだから断らないよな!」

 同い年なのでため口は構わないが、どうして偉そうなのか? 自分の方がバンドに詳しく演奏が上手いからという自信もあるのだろう。

 ルナフラという姉の例もあるので、断ると面倒くさい事になるのは学習している。

 彼の話に乗らなくても面倒くさい元がうるさそうなので頷き返す。

「もちろん。やる気になってくれて嬉しいよ」

 もうしばらくルナフラの望みに付き合おうと内心笑う。

 それにルナフラを含めたインストバンドになるかと思ったけれど、彼女が竹藤姫世加を捕まえてきて四人になった。

 頭の中のイマジナリーフレンドとの会話が大半を占めていた厨二病だった少し前と比べ、まさか厨二病を卒業して高校生になった自分がバンドを作る事になるなんて入学式の時は思いもよらなかった。

「コミュニケーション疲労で死なない様にしないと」

 ついひとり言を呟いてしまった。



 バンドを組んで一ヶ月、まとまりのなさで言えばどのバンドにも負けない自信があった。

 素人三人を抱えた功葉が指導に奔走して苦労し、色々と指示や説明して練習を教えてくれるけれど、自由な女子二人が日常的に揉めたりする。

 まず、ルナフラは何かある度に竹藤姫世加を攻めていちゃもんをつけた。些細なミスからちょっと練習に遅れただけの遅刻、口ばかりが動き二人の練習の手が止まる。

 竹藤姫世加は友達との予定が入ったからと突然休む事が少なからずありその度にルナフラの機嫌が悪くなった。

 竹藤姫世加は休んだ後は休んだ分早く上手くなりたいと口にするも、ルナフラでも功葉でもなく自分にギターを教わりに近づいてくるから余計にルナフラの機嫌を損ねていた。

 竹藤姫世加はボーカルだが本人による『ギター持ってた方が見た目的に様になるんじゃないの?』という発言により、下手クソだが彼女のギターを見ていた。

『グレンツェント君からしか教えてもらいたくない』と発言したばかりに面倒くさい一幕があり、功葉に教わった事を竹藤姫世加に教えるという練習の伝達系、伝言ゲームになる。

 しかし、きっちりバンドをまとめようとする人がいて自由な女子二人がいる。

 ガチガチにルールで縛って固めて不満を生んで解散になるよりは、自由な人間によってバンドにまとまりがないくらいが良いバンドになる可能性は残っているのだろう。全員が仲の良いわけでないグループもあると聞くし。

 今日も勝手に占領している空き教室で二人が口喧嘩をしていた。

「新太が高校卒業したら歌で食べていくって言い出したら、その時は魔道書(ノート)の化身として養ってあげるんだから!」

「それはダメでしょ。菊町さんは養えないんじゃない? 全然就職出来そうなイメージないし」

 さらっと酷い事を口にした竹藤姫世加だがルナフラも負けていなかった。

「わたしみたいなのは天職が見つかると大丈夫なタイプだと思うから問題ないでしょ! むしろ竹藤姫世加の方が心配じゃないかな?」

 余りにも楽観的な発言だが止める気もないので片手間に成り行きを見守る。

 何かと注目されてしまうメンバーなので、軽音部に入ったり吹奏楽部の音楽室なんかは使えず、仕方なく空き教室に楽器を持ち込み不法占拠していた。

 少子化のおかげで教室が余っているので同好会なども空き教室で活動している。

 それはさて置き本当に功葉の教え方は上手で自分でもギターが上達しているのを感じていた。

 元がマイナスなので振り幅が大きいだけかもしれないけれど、教えてもらう前と比べると演奏らしくなってきた自覚がある。

 以前はガチャガチャ音を立てていただけに思えるほどに。

 もっとも騒がしい二人もちゃんと練習してくれれば演奏も合わせられてそれっぽくなるのに女子二人は相性が悪すぎる。

「私が支えなくちゃって段々追い詰められて、仕事の上司とか好きでも無いヤツに身体売ってネトラレそうで!」

 更に酷い返しだけれどやはり相手をしている竹藤姫世加も一筋縄ではいかない。

 毎度飽きずに言い争いをしている時点でそうなのだろうけれど。

「よくそんな酷い妄言を弟が好きな私に言えるね」

「今こうして病気せずに好きなことして本人が幸せでいてくれたら、別に功葉が引きこもりさえしなければ後はどーでもいいよ!」

 ルナフラは親みたいな事を叫ぶ。

「何良いこと言ってると思い込んでる両親みたいなこと言って! 病気せずに元気なら良いって、結局子供が言いつけを聞かないと怒るんじゃなくて? 自分の思い通りにならないと機嫌を悪くするくせ、外では健康で警察にお世話にならなければ好きな道にって感じで!」

 竹藤姫世加の触れてはいけない部分に触れたのか、部屋に四人しかいないからか思いっきり不満をぶちまける。

 まだ長くなりそうだったが練習のために集まったのに口喧嘩する二人に功葉が割って入った。

「良いから練習しよう。バンドが成功すればそんな話をするだけ無駄だろ」

 好きな人にも得意な事の前では普通に注意できる功葉。

 しかし犬猿の仲だったはずの二人の息が合う。

「それじゃダメなの。養ってあげられないじゃん」

「それはダメでしょ。私だけしか頼れない彼にしたいんだから」

 なぜ人をダメにする計画なのか意味不明だが、残念な事にルナフラと一緒に居ると逆に自分がしっかりしなければと気が引き締まる。

 竹藤姫世加に関しては周りの男から嫉妬を含んだ視線を向けられるのでそんな二人の言い合う将来の選択肢は無い。

「それに、このバンドが売れるとでも?」

 竹藤姫世加の歯に衣着せぬ追及に功葉は言い返せない。

 誰の目から見ても今の状況で頷ける訳がなかった。

 するとルナフラが彼女に食ってかかる。

「やめてよ! 功葉の心が折れたらどうするの。引きこもった部屋から出すの大変だったんだからね」

「そんなんで引きこもるくらいならそれまでってことじゃない? 芸術系は売れない人気が出ないなんてざらでしょ? 音楽で将来食べてく気ならメンタル弱くてどうするの」

「だからって不要に責めることないじゃん。今度引きこもったら竹藤姫世加が外に引っ張り出してよね!」

「嫌。面倒くさい」

 確かに竹藤姫世加の言う様にメンタルが強くなければ音楽なんて続かないだろう。

 しかし、また閉じこもる功葉を部屋から出す作業を再びやらされるかと思うと意見的にはルナフラに賛成だった。

「それと過保護すぎなんじゃない? ブラコンでしょ?」

「ブラコンじゃないよ! 弟を心配するのは当たり前じゃん。それにわたしには新太がいるし!」

 ブラコンの判定は恋愛感情の有無ではないが、また話が自分に戻りループして嫌気がさす。

「まだ新太に興味があるだけの竹藤姫世加は引っ込んでて! バンドにだけ集中してれは良いの。ちょっと他の男子と反応が違ってデレデレしないからとか、きっかけが弱くて不明だしチョロいんじゃないの?」

「それを言うなら菊町さんも人のこと言える? 弟が引きこもったくらいで悩んでたまたまノートを拾ったくらいで運命気取りって単純すぎでしょ」

「功葉を振ったそもそもの元凶が言うか!」

 これが功葉が恐れていた恋愛関係からのバンド解散の危機ならいいが、残念ながらこれだけ罵り合っても解散の危機感は覚えない。

 被害は練習の手が止まるだけでまとまってないのに不思議と解散の二文字は無かった。

「いい加減練習しろよ!」

 終点の見えない口喧嘩に功葉が割って入るけれど、女子二人の舌戦を止められるだけの力がない。

 二人に圧倒されて黙らされてしまう。

 そんなまとまりがなっていない様子を目の前にしてため息交じりに呟く。

「早く代わりのギターを探そう」

 ソイツに面倒を全て押し付けて辞めようと心に誓う。

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