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わたしを見つける物語  作者: なづなゆめか
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真月タイム 瑠璃ストーリー

真月time ~瑠璃ストーリー~


この空間はやっぱり不思議だ。本当に謎に包まれている。今日の朝も掌を確かめると、夜に集合ねと文字が書かれてあった。それでハッと真月との記憶を思い出し、ここへ辿り着くのだ。この謎の現象や油性ペンで書いてあるガタガタな字形もなんだかもう見慣れた。

母の日に貰った瑠璃色のネックレスだけど、あれから記憶が曖昧になって、ずっと机の引き出しの中に終い込んでいた。会わない期間に日に日に記憶が薄れていたのだ。これ、誰に貰ったっけって思っていたのが自分でも怖かった。だから、こうやって掌に真月の存在を表してくれると、直ぐに思い出せたから、こうやって繋がれるのは凄く有難い。まぁまた直ぐに忘れちゃうのは確かだけど。

真月に会う時のことを、私は真月タイムと呼ぶようになった。

今日もいつもの旧校舎の最上階である屋上で私達は肩を並べて立っていた。真夜中の学校はやっぱりまだ慣れない。

「久しぶりだね」

そう言ったけど、よく考えてみれば先週も会っていたっけ。

「あら。付けてくれてるのね。それ」

真月が、私の首に掛かっているペンダントを見て微笑んだ。

「うん。気に入ってるよ」

私は、軽く透明の硝子で出来た部分を持って、真月の方に見せる。いつ見ても透明感があって美しい。こんなに暗い場所でも僅かな光を灯してくれている。

「日中だと学校の校則が引っかかって付けていけないし、目覚めた時には真月の記憶が飛んじゃうから、真月タイムでしか付けないかも」

それに、こんな綺麗な物を付けるのは少し勿体ない気がする。瑠璃色ってだけでまるで私だけのネックレスって感じだし、特別な物ってなくしたら嫌だと思ったのだ。

「で、今日も学校見学する?」

「はーい。瑠璃セレクトでお願いしまーす」

「了解。任せてよ」

真月タイムでは、学校見学が日課になっていた。この学校は校舎が広すぎて全てを回るには相当な時間がかかりそうだ。だから、歩いていたら何かしら紹介できるだろうと思っているから、あまり深く考えていない。

私が先頭へ立って、話しながら説明するんだ。人に紹介することが好きだからもう慣れっこ。今日も廊下を歩きながら、二人で話をした。

「実はね、瑠璃が来る前に一人で学校中を歩き回っていたのよ」

「へー。そうだったんだね。楽しかった?」

「えぇ。でも、瑠璃と一緒の方が何倍も楽しい。あのね、体育館に、大きな大玉転がしが置いてあったわよ」

「実はもうすぐ体育祭があるの」

「だと思った。学校中にポスターが貼ってあったんだもの」

「なら、その時に結構回れた感じ?」

「まあまあかな。でも、この棟には行かなかったわよ」

真月が人差し指を立てて、五棟を指した。夢中になって喋っていたら、ここに辿り着いていたみたいだ。五棟は主に三年生が使っている校舎である。

「なら目の前だし、今日はここを紹介したいと思いまーす」

階段をあがり、三階に着いた。三階は、三年生のクラスがずらりと並んであって、昼間とは雰囲気がガラリと違うくて面白い。学校全体はもちろんだけど、日中当たり前のように利用している教室が、私たち二人で占領しているみたいで凄くワクワクする。

「へー。瑠璃はここで勉強しているのね」

真月は、私の席に座ってピンと背筋を立てた。

「……プッ」

夜の学校に居るってだけでも面白いのに、真月が私の席に座っていることが更に面白くて思わず声を上げて笑っちゃう。

「真月が座ってても違和感ないね。代わりに昼間の授業受けてよ」

「ふふ。本当に私が瑠璃になれたら、凄く面白いわね」

「そうだね」

真月がお母さんで居られた時間は本当に僅かだっただろうから、やっぱり学生の頃の思い出の方が深く残っているのかなと勝手にだけど思った。

夜だから、私は今部屋着だけど、真月と並んでセーラー服を着たらどうなるんだろう。きっと面白くなりそう。

……夢か現実か。真月タイムは謎でいっぱいだ。

真月は私の机の上に乗り、足をパタパタさせ、座っている。

「ねぇ。ここにいるだけじゃつまらないから、この教室で何かやらない?」

「いいけど、何をやるの?」

「面白いものがあるの。付き合ってよ」

真月はプリーツスカートのポケットに手を入れる。クシャッと微かな音が鳴り、取り出したのはジッパーの袋だった。

「?」

中には、何かが入っているようだ。私はそれに目を近づけ確かめる。

細かい何かがバラバラに纏まってあった。

「パズルのピース?」

「そう。一人で廊下を歩いていたら、落ちていたのよ。気になって拾ってみたの。ねぇ。一緒にやらない?」

「うーん」

何の変哲もない細々としたピース。細かい作業が嫌いな私はあんまり乗り気ではなかった。

「まぁ……いいけど」

特別やりたいこともないから、たまにはいいかと思い、真月の遊びに付き合うことになった。

私達は二つの机を引っつけて、ピースを広げた。小さな袋に入っていたけど、ピース自体は多く、とても細かかった。

中学に上がってからは勉強か家事の二つしか視野に入ってなかったものだから、頭を使うのなんて数学の時ぐらいだった。だから、こうやって楽しむ遊びは凄く久しぶりだ。でも、態々やろうとも思わなかったなぁ。トランプとかは好きだけど、パズルって一個一個見てるだけで時間がかかる。ちまちまな作業って面倒くさいじゃん。

そんな風に思っていたからか、直ぐにリタイアしてしまった。

「もーうっ。目が回る。見れば見るほどイライラしてきた……」

私は目を休ませるためにパズルから離れた。

「ふふ。瑠璃ってこういうのは苦手なのね」

「苦手、というより楽しくないじゃん!パズルなんて面白みの欠片もないよっ」

「ふーん」

素っ気ない返事が返ってきたから、思わず言ってしまったと感じ、ごめんごめんと急いで謝罪した。

真月は時々無と言うか、死んだような顔になる。その顔になると、大抵は真面目なことを話している時か、今みたいに素っ気ない時だと分かる。怪しい雰囲気になるから結構怖い。

「怒ってないから大丈夫よ」

「良かった」

表情が再び柔らかくなって、少しだけ安心した。

「でも瑠璃はパズルの楽しさを知らないなー」

「え?」

「パズルは集まった時が気持いいのよ。諦めずに最後までやり続ける大切さが知れる」

「……パズル如きで?」

「良いから。私がやるから待ってなさいっ」

真月は素早く手を動かし、ピースを合わせていく。

「これはこうで……こっちは……違う」

ブツブツ言いながら、一つ一つを嵌めていく。その目付きは真剣。スピードが早くて、手の指を全部動かしていて、少し離れたところから見てるこっちまで圧倒されてしまう。

「そう言えば瑠璃。体育祭の話、聞かせてよ」

「やりながら雑談って、気が散らない?」

「瑠璃は、応援団長とか向いてそう」

「話、無視してるし……」

「教えて教えて~」

驚いている私に、真月がどんどん投げかけてきたから、それに受け答えした。

「瑠璃はなんの競技に出るの?」

「学年代表リレー、クラス対抗リレー、あと、」

……二人三脚。言いそうになった言葉を、止めた。

「あと?」

私と目が合った。

「ううん。なんでもない」

そう言うと、真月は視線をパスルに戻した。

危ない危ない。二人三脚は……私の願望であって、できる可能性の方が低いんだから。

「瑠璃も足、速そうね」

「うんまぁ。代表リレーは毎年出てるし」

「私と負けられないわね!」

「真月もやりたくなった?」

「まぁ、運動は好きだったから。やれるならまたやりたいなぁ」

「そっか」

カチャカチャとパズルの微かな音が段々と小さくなってきた時、できたよと真月が私の方を見て言った。

「じゃーん」

私は真月の隣に立った。パズルには、うさぎや熊などの動物の可愛いイラストが描かれてあった。遠くから見るとただの絵だけど、近くから見ると、細かくって思わず目が丸くなる。

「こんな細いのを短時間で完成させるなんて」

「えっへん。達成感があって楽しいよ」

真月の凄さに思わず拍手した。


パズルのピースを一つ一つジッパーの袋に戻す真月。私は、ボーッと教室の天井を眺めていた。夜は真っ暗で不気味だけど、慣れたら平気。

「で、最近はどう?元気?」

「うーん。まあまあ?かな。先週から体育祭の練習が始まって少し忙しいけどね」

「瑠璃、今年で最後だもんね」

「そうなんだよねー」

今は丁度高校最後の思い出を作れるチャンスだと思っている。体育祭が終わったら、進路を考えなくちゃいけないし……あっという間に卒業してそうだなぁ。

「友達と楽しみなよ」

真月の何気ない言葉が、胸の奥を揺さぶる。

……友達、か。

その時、一人の人物が頭の中に浮かんできた。いつも、私の傍に居てくれる存在が……。

やっぱり、クラスのみんなと楽しく終わりたい気もするけど……。

……でも、私は、あの子と……最後の二人三脚に出たい。

小学校最後の体育祭の時みたいに、あいなと楽しく終われたら、いいのにな。

合唱コンも文化祭も何もかも一緒に出られなかったな。

走るの大好きだったけど、体育祭は……。

あ、でも。

今年も、断られちゃうのかな。

「あいなには厳しいか」

「ん?」

「あ」

思わず、声が漏れていたみたいだ。

「今、なんか言った?」

「独り言」

……まぁ、隠すようなことではないけど。

真月は片付けながら、私の方へ体を向けてジッと見つめていた。彼女の瞳は、何時見ても綺麗だ。整った顔立ちも、高くて目立つポニーテールも、スタイルも、全てが夜と映えている。夜で綺麗なら、日中も映えるんだろうなぁ。

一番の友達は誰か。仮にそんな質問を問われたら、私は即答であいなと答える。

私の中では、友達は多い方だけど、みんなはみんなという自分の中での枠があるんだ。でも、あいなはみんなという枠に入るかと言われると違う。

あいなは、私にとって特別な存在だ。

私は彼女の真っ直ぐな所に惹かれた。人一倍の努力をして偽りのない笑みを浮かべる。学ぶことはたっくさんあった。

そんな素敵な友達を持って、私は、今、幸せだ。……けど。

胸の奥がギュッと絞られているような感覚になる。

「大事な話っぽいね。聞いてあげるよ」

真月の声は、凄く落ち着いていた。

真月はやっぱり察しが良い。本当に私の気持ちを読んでるみたい。

「……あいなと最後の体育祭に出たいなぁって。ふと、思っただけだよ」

そう。丁度今、思っちゃっただけ。諦めかけていたし、半ば諦めも残ったままだもん。考えない方がいいと思ってた。だって決めるのは私じゃなくて、あの子なんだから。

「出ればいいじゃない」

「そんな簡単なことじゃないの」

私は、真月に話すことにした。

あいなは、事情があって適応教室とみんなの居る教室を行き来している。それはこの高校へ入ってからずっとだ。小学校の卒業式のことで、私は、あいなを助けたい気持ちがどんどん強くなっていた。だから、はなび先生とも相談して、私は、適応を誘った。あいなの様子を見ていると、今は、対人関係で困っていることは無さそうで少し安心はしている。

だからそっちは前と変わらずに気にするだけとして、次の大きな壁は、あいな自身のことだ。

彼女はずっと、自分と戦ってきた。本当に強くなった。

私は、そんな彼女と体育祭に出たい。

それは私の、我儘かもしれない。

「ねぇ、どう思う?」

真月に問いかけると、真月はうーんと言いながら一緒に悩んでくれた。

「あいなって子の悩みは、体育祭の何に影響しているのよ。その子自身のことを詳しくは分からないから、なんて言葉を掛ければいいのか分からないわ」

「その……」

何となく、言い難い事だった。

それに、わからなかった。

あいな自身の悩みに関して詳しく知っているかと言われると、正直曖昧。聞き出したいところではあるけど、それは本人を傷つけることにもなる。

彼女の行動から何となく分かってはいたし、あいなのお母さんに少しだけ聞いちゃったと言うのも事実。だから、出られない理由が自分自身のことなのは確実である。

……でも、それはあいなにとっては凄く悔しいんじゃないかなって思った。

だって本人はきっと、やりたがっている筈だから。

それに、私だって。

「ねぇ。瑠璃。瑠璃は、ガンガン言っちゃうタイプ?」

「え?」

真月がそんなことを言ってきたから、少しだけ戸惑った。

「いや、私って直ぐにガツンと言っちゃうのよ」

「私は……昔は言っちゃってたかも。だけど、あいなの出来事があってからは考えて話すようになった気がするなー。そのせいで人に合わせるのが苦痛だった時期もあったけど」

「それは、どうして?」

「私の言動で傷ついてほしくないから。あいなは繊細で且つ周りのこともよく見てるからさ。私は、あいなの苦しみをわかってあげたいけど、あげられないもん。あいなから見たらきっと、他人事のくせにって思うだろうし。だから、あいなが思うように生きるのを応援するのがいいんだろうなって」

「うん。それはそれでいいと思うんだけど。二人三脚はあいなって子に、断られたの?」

「……まだ何も話してない」

「なら、まだ分からないじゃん」

「え?」

「ここで瑠璃が動かなかったら、あいなと体育際に出たいっていう率直な気持ちはどうなるのよ。とりあえず言ってみよ」

「でも、高校に上がってから、行事に一度も参加してないんだよ。やりたい思いはありそうだから参加しないのは本人も悔しい気持ちを持ったままな気はするけど……やれないって思いの方が勝ってそうだろうし」

「瑠璃って結構人に尽くすタイプなのね」

「……そう、かな?それは真月も一緒でしょ?」

「私はガツンタイプなヒーロー。瑠璃はお人好しヒーローね」

「……まぁ。そう、なのかも」

「瑠璃、貴方はあいなって子に素直に気持ちを述べた方がいいわ」

真月の言葉はとてもしっかりとしていた。芯がしっかりある、というか。その圧に勝つことはできない。

う、うん。私は小さく頷いた。

「それで、もし一度断られたら、明日までに考えておいて!って言うの」

「な、なんでよ。断ったのを止めろって言うの?それはちょっと無理矢理すぎない?」

あいなは中途半端な子じゃない。一度決めたら絶対こうだという子だったから仮に一度断られたとしても二度目には気持ちが変わってるとは考え難い話だ。

「でも、一緒に出たいんでしょ!」

「……」

それは……そうだ。だから誘うんだし。

「しかも、その子だって出たい思いがあるなら、きっと、出てくれるかもしれないし」

「……そう、だね」

「楽しかったあの頃の笑顔を、もう一度見たいのなら、そうするしか方法はないわよ」

「な、ならそうしてみる」

真月の言う通りだ。私にとってもあいなにとっても今年で学生生活は最後。それなのに、濃い思い出が何一つないのかやっぱり寂しすぎる。

それに、一番悔しいのは、あいなだ。

私がヒーローで居られるのはあいなのお陰でもある。救えなかったからこそ、今、私はあの子に手を差し伸べてあげたい。

私の心の中にあるパズルは、まだ半分以上空いている気がした。これから挽回して、絶対に埋めてみせる。

「ありがとう真月。色々ヒントを貰えたよ」

「どういたしまして。頑張ってね」

話が終わり、視界がだんだんと濁っていく。このまま真月タイムは終わった。

目が覚めると、右手の手のひらにはファイト!と大きく書かれてあった。

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