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わたしを見つける物語  作者: なづなゆめか
3/16

アウトオブ…...イオリストーリー

2 Out of…… イオリストーリー


最近、生きてることが奇跡だと思ってる。

それくらい、私の人生は、絶望的だったから。


誰も居ない旧校舎の、一番端の教室で、今日も息を潜めて生きている私。ドアの壁には適応指導教室と書かれた看板があり、いつしかここが私の避難所となっていた。……けど、名前が堅苦しくてあまり好きじゃない。はなび先生もそう話していたけど、上からこれじゃないと許可しないと言われてるらしいから仕方の無い事みたいだ。

……適応指導って、私がみんなと適応してないみたい。まぁ、書いてある通りではあるけど。それを態々文字に表してほしくはない。


ゲームをする時が好き。その事ばかりに夢中になれて現実のことを忘れられるから。ピコピコピコピコ。朝からただただ只管にゲーム三昧。時間なんて忘れられるくらいずっとやってられる。コントローラーに付いているスイッチのボタンを連打してレアキャラを手に入れる為に、必死になっている自分がいる。ゲームオーバーになると、凄くイラッとしてコントローラーを投げるという行為は日常茶飯事。今日も朝から五回は投げた。こんな事をやっていると、本当に時間が過ぎるのは、あっという間だ。

「いおりん、やっほー」

この声で、ハッとなって時計を見た。もう一時になる時間帯。五限目開始のチャイム前だと言うことに気が付く。

……今日も朝からゲームばかりやっていたのか。顔を上げると、あいなが教室から帰ってきた。小さな手を左右にビュンビュン振りながら、ニコニコ笑顔で近づいてくる。……本当にいつ見ても高校生に見えない。同い年だと聞いた時は驚いた。見た目に関しては可愛らしい雰囲気でどこにでもいそうな居そうな感じ。真ん丸な顔立ちで背は少し小さい。問題は中身だ。声も態度も行動もなんとなく幼く感じる。出会ってもう二年程経つけど、やっぱりその頃から特に何も変わってない。

「ずーっとゲームしてたの?」

彼女は大きな瞳と聞きやすい声が印象的である。

「うん」

「あーっ。ここが傷ついているよぉ」

あいながコントローラーの端の方を指さした。見ると、保護フィルムに小さなヒビが入っていた。そこまで目立ったものでは無いけど、傷が入っていたみたいだ。

「投げた」

素っ気なく返す。

「物は大事にしないとダメだよぉ」

年下に怒られてるみたいであまりいい気がしない。

「ん」

その瞬間、丁度五限開始のチャイムが鳴り響いた。

「よぉし!勉強始めるぞー」

その音を聴きながら、あいなは廊下側の席についた。

私は、再び、ゲームの世界へ戻った。


「……っ!」

私は今、とても気分が優れない。昨日、電話で担任から進路のことを言われたことで凄くイライラしている。中三の時はまだ良かったとして、今は大学か専門学校か就職かのどれかを必ず選択しなければいけない。

……何処へ行っても、自信なんてない。

私に行けるところなんて、無いんだから。

……なら、何もしなくたってっ。

「!」

我武者羅に、コントローラーのボタンを押しまくったり、振りまくったり、とにかくゲーム一直線がいい。

考えすぎないでおこう。今はそっちに夢中になっていよう。

それでも、やっぱり、そのことが頭から離れてはくれなかった。

……ラスボスが中々倒せない。何度も何度も挑戦しても、ゲームオーバーを繰り返している。

……ムカつく。

ドンドンドンドンドン。指を全力で動かす。

……壊す勢いでやらなきゃ。

もっと、もっともっともっと!

イライラは、全て、これに託したいんだっ。

何もかもに上手くいかなくてモヤモヤして、快感を求めたいのか知らないけど……何なんだろう、この気持ち。気が、狂いそうになる。もう、狂ってるか。

……またゲームオーバー。満たされない。

こんなんじゃ、ダメ。

私を、楽に、させてよっ。

負けたら、意味がない。

ゲームでも負けちゃうなら、こんなのいらないっ。

ドン!

「キャッ」

私、何やってるんだろ。

気づいた頃には、もう遅かった。

あーあ。また、投げちゃった。

しかも、今回はかなり、飛んで行った。

コントローラーがド派手な音を鳴らして地面に落ちた。

「い、今のなんの音!」

机に座っているあいなが、耳を塞ぎ、直ぐに私の方を振り返った。ムッとしてるなと言うのは離れていてもなんとなく分かった。怒ってるのだろう。

「ごめん」

小さな声であいなに向かって謝った。

「いいよっ。でも〜、物は大切にね~」

あいなの表情はまた柔らかくなり、そう言いながら、私にコントローラーを持ってきてくれた。

「ありが、と」

こんな自分が嫌で仕方なくて、つい、俯き加減になった。ゲームごときで、何やってるんだろう。

「ヒビ、増えてるよ」

「……別にいい」

良くはない、けど。それくらいどうってことない。

「だ、大丈夫?」

丁度その時、はなび先生が保健室から戻ってきた。

どうやら、廊下からも凄い音が聞こえていたみたいだ。

「ごめんなさい」

「うんうん。でも、ちょっとうるさかったかな。ゲームの音量下げられる?あいなちゃん勉強してるし」

先生の表情はどんな時も柔らかくて優しい。怒っているところなんて見たことがない。私はいつも、その優しさに甘えてしまう。

「……ん。もうやらない」

ゲーム機の電源を切りながら、そう言った。

先生は私の方に来た。

「しんどい?保健室行く?」

流石先生、察しが良い。

「そこまでではない」

「そっか」

「でも、もう帰るね」

スクールバッグの中にゲーム機を入れて、私は、立ち上がった。……なんだろうこの感じ。今日はいつも以上に身も心も重たい。

「気をつけてね」

先生の声は、いつも落ち着いている、けど、少し心配気な表情をしていた。

先生、困らせてごめん。そう心の中で言った。

「ばいばーいっ」

先生に続き、あいなが手を振ってきたからそれを振り返して、教室を出た。


最悪なことに丁度今は放課後の時間で、下校する生徒が多く居た。

何故こんなに運が悪いのだろう。ちゃんと時計を見て動くべきだった……。一度、避難所へ戻っても良かったのかもしれないけど、何となく気まづいし仕方ないか。

パーカーのフードを被り、下を向きながら歩いた。

……なんかこの方が不審だなぁとは思うけど、私だということに気づいている人はとっくのとうにいるわけだし。人にどう見られるかより、自分が人と顔を合わせたくないと言う方が強いからどうだっていい。

そもそも、制服を着て、更にパーカー羽織ってうろちょろしている高校生は私しか居ないから、別にどう思われても平気。むしろ、こんな古臭くてダサい制服を隠しながらでも着ていることを褒めてほしいくらいだ。最初は教員達に校則を破るなって言われるのが怖かったけど。まぁ、こんな私に構ってくれる先生はもう居ないだろうね。後は、フリ。両親の前では堂々と学校へ行くフリをしている。私が普通じゃないのはとっくのとうにバレバレだけど、一応ここの生徒だよ、学校辞めてないからねと証明している。パーカーを羽織るのはダサ制服を堂々と着たくないからだ。……そして、見られたくない傷を隠すため。

「あっ、イオリ」

見覚えのある声がして、ゆっくりと顔を上げる。廊下で瑠璃と会った。これからあいなを迎えに行くところなのだろう。

ポニーテール、高身長なのが印象的な長谷瑠璃。彼女はなんでもできる優等生。オーラがあって友達が多い。ヒーローとよく呼ばれている。

「顔、強ばってるよ」

「……大丈夫」

……ではないけど。

「そう。まぁでも、何かあったらいつでも良いなよ。抱え込まないようにね」

「ありがとう」

「じゃあね」

お互いに手を振って、瑠璃の後ろ姿を見送る。瑠璃って、お母さんみたいだ。私の母親もあんなだったら良いのにな。

……前まではあんな感じだったけど。

瑠璃はいつもみんなの一歩前を進んでいる気がする。弱音を吐かず、いつも大人な対応で誰にでも優しい。だから、周りには友達が沢山居て、どんな人にでも平等に接することができる。

初めて手を握ってくれたあの時は少しだけ不信に感じてた。正義のヒロインぶってるのでは、なんて心のどこかで思ってた。あぁいう人は要領が良いから、悩みなんて一つもなくて、みんなに囲まれて幸せそうだなって。だからポロリと羨ましいなと思ったことだってあった。それでも、人前では笑顔を絶やさない瑠璃のことを本当に尊敬している。私だったら絶対に無理。傷を付けて訴えるか顔に出ちゃうんだもん。

最近の瑠璃は物凄く生き生きしているように見える。元からそういう所はあったけど、ここ最近は更にって感じ。爽やかで偽っている感じが全くしない。先生、今回のテストで満点取りましたーって、この前はなび先生に報告していた。今の瑠璃は悩みを抱えているようには見えない。はなび先生は驚きながらもホッとしていた様な気がする。

彼女はあの避難所を利用していないけど、そこそこの頻度で来る。朝と放課後にあいなの送り迎えやらはなび先生に近況報告をしにやら。私のことも気にかけてくれている。ま、あいな専属で、多分私は次いでだとは思うけど。それでも悪い気はしない。むしろ嬉しい。

あのあいなの事が余程心配なのだろう。毎度、二人の会話が同級生と言うより姉妹みたいに思う。

瑠璃の後ろ姿を見送って、学校門を出ようとした時だった。

「イオリ?」

後ろから、声を掛けられた。

「……!」

目の前に居たのは、小学校の時の同級生が三人。名前は……もう忘れた。

「え。やっぱりイオリじゃん!久しぶり~」

「……うん」

どうして?どうしてこの人達が……。心臓が今にも飛び出しそうなくらいバクバクと音を鳴らしている。そして今にも過去の恐怖が蘇ってきそうで私は必死に抑え込む。一度その中に入ってしまうと、中々戻れなくなる。……学校で、しかも、こんな廊下で。そうなるとまずい。……どうにかして気持ちを抑えなくちゃ。

「もーう。高一からクラス同じなのに全然来ないからビックリしたよ」

一人の子が、そう言った。……知らなかった。担任さえ分かればいいやって思ってたからクラス表とか見てなかったし。

「イオリって中学からここの学校なんでしょ」

「……そ、そうだけど」

「なんか、もっと醜くなってね?」

「それ思った」

「萎縮してて草」

一個一個の言葉が、私の心に酷く刺さる。どうして?どうして私を傷つけてくるの……?

「普段何処いるの」

「……何処でも良いでしょ」

静かに口が、動いた。

「へーぇ。受け答えできるようにはなったんだね」

ドクンとした。動揺してしまう。そんな私の様子を見て彼女たちは大声で笑った。……この人達は全然変わってない。私は、俯いた。身体をキュッと丸めて、パーカーで顔を見えないようにした。こんな所で会いたくなかった。

「てか、今もう五月だよ?パーカー暑くない?」

フードの辺りを手で触られたような気がした。その瞬間に、恐怖が走ってすかさず逃げた。

ハアハアハアハアハア……

今日は本当に最悪の日だ。

昔の知り合いが居ると分かったら、尚更学校に行きずらくなるじゃない。

……必死に走っていたら、もう駅に着いていた。

このまま電車に乗ろう。もう疲れた。


今日は早く家に帰った。いつもは、両親と話したくなくて夜遅くまで寄り道して、帰ったら直ぐに部屋に籠っていた。両親とはなるべく同じ空間にいたくない。いつ、進路の話になるのかわからないし、本人達だって私を傷付けたということを分かっているからこそ気にしているのだと思う。

帰ったらさっさと部屋に篭って即寝ようと思った。

家のドアを開けて、速やかに自室に入ろうとした時だ。

「イオリ」

……嫌な予感がした。母親が真剣な目付きでこちらを見ていた。

「珍しいわね、こんなに早く帰ってくるなんて」

リビングにある置時計が目に入る。……そうか、まだ四時半か。

確かに、私にしては早い。

けど、私は、母親の言葉に対して何も返さなかった。返せなかった。

「今日は、夜ご飯、食べる?」

「……いい」

私は、サッと逃げるようにその場から離れ、自分の部屋へ直行した。私は、両親が嫌いじゃない。でも、簡単に戻れる筈がない。前みたいな楽しい空間にはきっとならないだろう。

話すことなんて、ないから。

もう、いいんだ。

お互い、疲れちゃうだけ。

心が、壊れちゃうだけ。

それなら、思ってることも話さない方がいい。隠す方が、いい。

……その方が、誰の被害も加えない。


そんなことを考えていたら、目が冴えてしまい、寝れる気がしなくなってきた。

深い傷も苦しみも全て私が受け止めて、私だけが、傷つけばいいんだ。

……なら、今日、やるか。


暗闇が好き。真っ暗の世界には、私だけがいて、誰も入ってこないんだ。だけど、その分、考え事は増える。

気持ちを落ち着かせるために、やらなきゃいけないことがあるんだ。

地面には学校のプリントやら本やら踏み場がないくらい散乱している。昔から汚い部屋だと母親に怒られていた。どれだけ片付けて綺麗にしても、イライラすると直ぐ荒らしちゃう。初めから荒れるとわかっているなら、このままでいいやってなる。私には綺麗より汚いの方が似合っているから。

地面に落ちているカッターを拾い、勉強机に付いている電気のスイッチを押す。椅子の上に置いてあるぬいぐるみ達を地面に落とし、腰を下ろす。そして、おそるおそるパーカーの袖をそっと捲る。

私がパーカーを年中着ている理由は、自分の傷を見られたくないから。

そして。

もう、誰からも傷つけられたくないから。

血の跡で荒れている両腕は、酷いものになっていた。横に伸びる傷跡が上から下まで並んでいる。最初は綺麗な腕だったのに、今じゃもうボロボロだな。

指で傷を追ってみることにした。

……ここにあった筈の傷は、もう見えない。でも、小学校の時、確実に付けられたんだ。とうとう年月が経って傷自体もなくなったのだろう。でも、私の心のどこかにはしっかりと刻み込まれている。……今日、アイツらと遭遇してしまったせいで思い出してしまったじゃないか。

次は……これか。若干跡が残ってる。確か中学校の時に付けられた傷。いや、付いちゃった傷?廊下を歩いてたら寝不足でフラフラしちゃって、それで擦りむいてしまった時のだ。近くに居た女の子達に笑い物にされてたっけ。

これは……この赤みの入っているのは、学校を休んだ日に母親と揉めてその時に付けられた傷。

……そしてこの擦り傷は、担任からの圧を必死に抵抗してたらその場で滑って躓いた時に付いた傷。

最後は……明らかに目立つこの傷。自分で自分を傷つけた傷。日に日に増え続けている。

私の心と身体は、傷がいっぱい。治る日はいつ来るのだろうか。

初めて自分で自分を切った時は、心のどこかが抉られそうなくらい痛かったけど、その分快感だった。

……さぁ。今日はどれくらい痛めつけてやろうか。

今回のカッターは、最近買ったばかりで刃先がとても綺麗なんだ。私はそっとカッターを持ち、刃先を皮膚に触れさせた。そして思い切り手を動かした。

「……っ!」

切れ味がいいから、やっぱりめちゃくちゃ痛かった。切り込みの入った所からは真っ赤な鮮血がドロドロ出てくる。それをティッシュで当てて、押さえる。この行為をしていると、いつも涙が止まらなくなる。助けを呼べないから傷をつけて訴えかけているけど、気づいてもらえない方が多い。


私は人生のハズレくじを、引いたのだと思う。


幼い頃から人見知りで、かなりの繊細だった。だけど、それでも、幼稚園児の頃はそれなりに楽しくやれていたと思う。よく遊びよく寝て、すくすく成長していた。幼稚園で友達ができると、嬉しくていつもお手紙のやりとりをしてたっけ。家族も穏やかで色々な所へ連れて行ってもらったな。

それは、周りのみんなも経験済みの、言わば普通の日常だと思う。その時はまだ、私だってそこに溶け込んでいられたのだ。

変わってしまったのは、小学校に上がってからだった。まさか自分が、虐められるなんて思ってもみなかった。そもそも、虐めというもの自体をよくわかっていなかったから、最初は遊びだと思っていた。でも、それは遊びなんかじゃない。私への嫌がらせだった。

低学年の頃から同級生から私を上手く利用されたことはあったけれど、本格的になったのは最高学年になってからだ。

毎日何かしらパシリにされ、友達と話していたらあの子と仲良くしない方がいいよと言われ、離される。気が付かないうちに私物がどんどん無くなり、全部が汚いと言われ、『鼠を洗う会』が生まれた。主役はもちろん私。休み時間に引き出し、ロッカー、筆記用具の中まで全てを女子数名で洗うというフェスが行われた。驚いた事に、いつも見て見ぬふりをしてた人や、元々仲の良かった友達までもが、私のフェスに参加していて鳥肌が立った。

……それだけなら、まだ良かったのに。

……一度だけ、殺されかけそうになったことがある。

それは、五限が終わった後の掃除の時間に入った時だ。

『ハサミを持って、ちょっと来てくれない?』

『え?』

「いいから」

虐めのリーダー格に呼び出しを食らった。嫌な予感がして緊張が走る。私は、彼女の言う通り、ハサミを持参して、彼女の後ろへ付いて行った。彼女は、私をトイレに連れて行き、個室の中へ入れた。鍵が閉まったことを確認し、私が持参したハサミを奪い取って、私に向け、こう言ったのだ。

『さっさと死ねよ』

幼稚園児の頃から使い続けていた子供用のハサミ。だからといって怪我をしないわけではない。

……私、殺されるの?

怖くて、ここから抜け出したくて、とにかく地獄の時間だった。

『ねぇ?分かってる?お前がいたらウザイんだわ』

いじめっ子は私が怯えているのを見て、どんどん楽しんでいた。

『……』

私は、この日、初めて、学校で涙を流した。

『……え?』

流石にそれには動揺したらしく、焦りながらトイレのドアを開けて逃げるように去っていった。

……あの時、涙を流していなかったら。本当に殺されていたのかな。そう思うと、ゾッとした。

次の日。流石に耐えられなくなって、遂に母親に話すことを決めた。家族なら、大人だから分かってもらえる。そう、思っていた。

『イオリにも悪い所があるんじゃないの?』

『え?』

『だって、髪はボサボサ。筆箱の中はクリップのしていない鉛筆ばかりで真っ黒。印象が悪いに決まっているわ』

『……それってどういうこと?』

『きっちりしてないってこと。もっと、ビシッとしなさい』

『……!』

私が被害を受けているのに、私のせいにされてしまった。そんな風に言われるなんて思いもしなくて、物凄くショックだった。

母親が後日、担任に報告をして、実際に担任が間に入って、いじめっ子と私で話すことになった。そこで、見たのは、ポロポロ涙を流してごめんなさいと謝罪するいじめっ子だった。

『……泣くほど反省しているから、許してあげなさい』

『……』

本当に反省していると、私は、その時思った。

けど、その後、直ぐに嘘だと気がついた。あれから数日後には、また虐めが始まったから。むしろこれまでより言動も扱いも酷くなっていった。

今度、親や担任に言ったら、タダじゃ置かない。あの時の目付きは恐ろしかった。

追い詰められた私は、それからズルズルと学校を休み始めた。最初は、理由を作ってでも休ませて貰えた。だけど、いつしかそれを許して貰えなくなってしまった。

『学校に行きなさい』

朝の毎日が凄く憂鬱になった。

『……嫌だ』

『どうして?理由を教えて』

『……この前言ったでしょ』

『あの話はもう解決したでしょ』

担任に話し、いじめっ子と話し合い、その場で、謝ってもらい、無事に解決したと思ったのだろう。

……そんなこと、ないのに。

それでも、私が説明すればするほど家族は狂っていったのだ。あまり話さなくなった父親。いつも穏やかだった母親。今までの二人の笑顔が消えていくのを見ることが辛くて苦しくて。

腕を掴まれたことも、家のドアを閉められたことも、担任に電話しているところも怖いくらい覚えてる。人が変わったかのように表情が変わる。学校に行けない屑は、虐められる屑は、この世界に要らない。迷惑で邪魔で面倒くさい。それが顔に出ていた。

学校に居る方が楽なのか、家にいる方が楽なのかすらも分からなくなっていた。

それと同時に大人の期待を裏切った気持ちになった。まぁ、期待なんてしていなかっただろうけど。それでも、普通というものに溶け込めていた子が、普通じゃない子に変わってしまって、絶望的だったとは思う。

大人は皆、子供に、普通を求めている。学校に行かないこの子は将来やっていけない、なんて思っていたのだろうか。

初めは、行く行かないを繰り返していたものの、気がつけば、行かない選択というものができなくなってしまった。

虐められたのはイオリのせい。イオリは甘えている。逃げているだけ。

もっともっと強くなりなさい。

大人の言っていることは全て正しかったのだろう。

確かに私は、弱かった。弱いから、虐められる。フェスの主役になる。汚いから、利用される。……友達と、離される。それは、友達の望みでもあったのかな。いじめられっ子と仲良くなりたい人なんて、居るわけがないしね。責められて苦しめられて散々追い詰められて……

けど、仕方の無いことだ。私が全て悪いんだから。そうやって、自分で自分を責めるようになった。

正しいのは、全部大人なんだから。

担任と親が言っていることは、厳しくって怖くって、どうしようもできなかった。それならまだ、いじめっ子達に痛めつけられた方がマシだ。小学校を卒業すれば、この虐めは終わる。……もう少しの辛抱だ。これを乗り越えられたら、私は、強くなれる、と思った。

両親は、私が学校を通う日はいつも嬉しそうだった。もう大丈夫よね?と言いながら、ニコニコ笑ってた。それは担任も同じだった。私が普通に学校に来ていて安心しきっていたと思う。解決したと思っていたのだろうか。

結局、虐めは小学校卒業までずっと続いた。みんなが見えるようなところではなくて、影で言われることが増えた。それでもクラスのみんなはなんとなく察していたのか、私のことを冷ややかに見ていた。私が近くを歩くだけで、こっちに来るなという顔をしていたから。

きっと、みんな、自分も巻き込まれたくないという恐怖があったのだろう。

……そうやって逃げられることが羨ましかった。

痛い思いを沢山したし、辛かったのは、覚えている。けど、孤独になってからは、虐められたこと自体に慣れていたのかそこまで酷いダメージは食らわなかった。

むしろ、親や担任の顔色ばかり気にしていたように思う。仮にここでまた、学校に行かないと言ったところで、担任と連携をとって無理矢理連れて行かされ、こっちが恥をかくのは想像がついてしまっていた。

学校を休むと、私は、もっと傷つくと思った。


中学校は受験をして、今の学校に入った。

環境を変えればなんとかなると大人に言われたからだ。

この学校は人数が多いけど、その分色々な生徒が集まっている。私は普通科を受験した。これについては、何とも思わなかった。むしろ、大賛成だった。虐めっ子達と同じ中学へ上がっても虐めは続くだろうと予想していたし。流石に三年も耐えられないと思った。

新しい場所へ行けば、私を知っている人は誰一人居なくなる。

新たな自分で、居られる。

だから、もう大丈夫だと思ってた。

新しい学校。新しい先生。新しい出会い。穏やかな家族に戻る、筈だった。

……まぁ。そう簡単に上手く行く筈がない。


「……」

過去のことを思い出すと、苦しくて、手に力が入らなくなってきた。

腕から血がゆっくりと流れていく。それを必死でティッシュで押さえてたけど、涙が止まらないのと暗闇のせいで視界がぼやけてしまう。

血が、垂れ始めてきている。服に着く前に拭き取らなきゃ。

それでも、まだ、やる。

満たされないから。

再びギュッと強く握しめ、カッターの刃を出した。


新しい環境になったんだから、ここでは絶対に失敗したくない。

そう思いながら、入学式へ出席した。頑張ろうと思えば思うほど空回りしてどう振る舞うのが正しいのかがわからなかった。不安と緊張で手足が震え、手汗が止まらなかったが、無事に入学式は終わった。

だけど、問題は次の日だ。

クラスで自己紹介が行われた。

『じゃあ次一ノ瀬さん』

担任に言われ、前に立った瞬間、緊張で頭がパニックになりそうだった。

……クラスメイトの顔を見ただけなのに、急に吐き気が襲ってくる。

同時に、幻聴が聞こえてきた。

『イオリの声って小さいよね』

『ねーねー。あの子の真似していい?……イオリですっ。超似てない?』

『プッ。似てるー。でも、本人より何倍も可愛い声』

忘れかけていた筈なのに、ふとした時に、言われていたことが脳内に入ってくる。

……当時は日に日に虐められていた頃の記憶が鮮明に蘇ることが増えて夜も眠れない日々が続いていた。

どうして今頃になって苦しくなっちゃうの?

自分に問いかけても、返事がない。

『一ノ瀬さん?どうしちゃったの?』

ハッとした頃にはもう、遅かった。そうだ。今は、そんな過去の話を振り返る暇じゃない。自己紹介だ。

何も話さず突っ立っている私を見て、担任は戸惑っていた。担任の声から隣から聞こえ、教室内はザワザワとし始める。

頬の辺りが暖かい、というより熱くなっていた。クラスメイトや担任は物凄く困惑している。

……恥ずかしい。

やっぱり、私には無理だ。

肝心な時なのに……声を出すことができない。口を開いて、名前を、言うだけなのに……もう無理だ。逃げたい。逃げようかな。

『……い、一ノ瀬さん!』

私は、顔を真っ赤にして、教室を出て行った。

……ハッハッハッハッ。

息が荒ぶっているのに、そんなことを気にする余裕なんてなく、ただただ走った。

……逃げた。また、逃げてしまった。

どうして、私。なんで、私!

動揺して、涙が止まらなくて、苦しくて、ただただ辛い。まだ、始まったばかりなのに。……なんでこうなるの。

気がつけば、最寄りの駅に着いていて、学校が見えなくなっていた。流石にしんどくなって、立ち止まってしまった。

そしてここで、私の心の奥底に隠れていた何かがプチッと切れた。

……虐めっ子。親。担任。

原因は、全て小学校にあるのだと気がついた。

私は、ずっと自分のせいだと思っていた。けど、よく考えてみれば、周りの言葉一つ一つが全て私の心を黒くしていた。私のために言ってくれていた筈の言葉だとしても、それは私にとって苦しすぎることだった。

恐怖、緊張、不安の三点セットと同時に、家族や担任への腹が立った。

……こんなことになったのは誰のせいだ?自分のせい?そんなわけないでしょ。

私は、何もしていないじゃない……!

中学校に入学してはや二日で、私は、完全に不登校になってしまった。不登校、と行っても両親にバレるのが怖くて、初めの方は学校へ行くふりだけをして、行かずに学校と家の間にある駅で降りて、その辺の公園へ行くということをしていた。

だけど、勿論直ぐにバレた。

一週間もしないうちに母親から言われてしまった。

学校、行ってないって本当?と。

それは、公園からの帰りで、部屋着に着替えようとしていた時だった。

背筋がゾクッとして、苦しくなった。

『うん』

私は、素直に応えた。

母親は、呆れた。

『心機一転するんじゃなかったの?』

『……』

『もう、誰からも何も言われてないでしょ』

……言われてない、けど。

あの頃の恐怖が、一瞬で入ってきそうになった。

思い出したくなくて、必死に忘れようとすればするほど、鮮明に浮かんでくるあの時の数々。

……そこまでして、学校へ行ってほしいの?

『明日からはちゃんと行きなさい。行かなかったら、担任の先生に迎えに来てもらうから』

『……またそれ?』

口が勝手に開いた。

『あのさぁ。そうやって私を脅そうとしないでよ』

身体中が熱くなり、唇が震えていた。

『もう私を苦しめないでよっ』

初めて、私は、親に反抗した。

涙が止まらなかった。

『虐められたのに、結局何も庇ってくれてないじゃない。担任に言えば解決?そんなわけないでしょ。何も知らなかったくせに』

思っていたことがそのまま言葉に出てしまった。自分の声がこんなに響くなんて、少しだけ驚きを感じた。そして、泣いて泣いて泣きまくった。涙が溢れ出てきて、身体中が苦しくて堪らなかった。

ここまで言えば、分かってくれると、心のどこかで思っていた。けど、希望は一瞬で消えた。

『貴方が言ってくれなかったからでしょ。言いたいことがあるなら、その時に、言ってくれないと』

その言葉に、私は唖然とした。

『過去は過去。未来は未来でしょ。貴方、今、誰かに虐められてる?環境も変わったんだから前を向きなさい。いつまでそうやって逃げているつもり』

……は?私は……

『逃げてない……』

その瞬間、母親の表情が変わった。

「そんなの甘えよ」

あの時の目付きを、未だに忘れることは無い。前みたいな、穏やかな母親に戻る気配はなかった。

……私のせいで変わってしまった。そう強く思った。もし、普通に学校に行っていたら。今まで通りだった筈なのに。


毎日死にたいと思いながら生きてきた。


家族がおかしくなったのは、私のせいだと自覚はしている。けど、悪くしたのには先生にも原因ある。もし仮に先生達がイオリちゃんは何も悪くないよって言う人達ばかりだったら、お母さんもお父さんも私のことをサポートしてくれていた筈なのに。

いいや。それ以前に私を死まで追い込めたアイツらの方が悪い、のかもしれない。結局どうなんだろう。今じゃみんな、対等に見えてしまっている。

とにかく、私は今までずっとイライラと悲しみを募らせて生きてきた。あの教室へ行くようになってからはほんの少しの希望は芽生えたのかもしれないけど……あれで私の傷は癒えたとは限らない。むしろ今だって苦しめられて悪化しつつあるんだから……

後遺症は未だに残ったままである。


「んっ!ん」

切って切って切りまくる。痛気持ち良くて、声を上げる。血もドバドバと暴れ出す。傷口を見ると、過去のことばかり思い出しちゃうんだ。

時間帯を気にするようになったのは、やっていることがバレたからだ。

きっかけは年中パーカーを着ていることがおかしいと母親に言われ、腕を捲られたことだった。

その日はこっぴどく怒られ、小さな子供みたいにワンワン泣いて、カッターを奪われて必死で取り返そうとしたら、ゴミ箱にカッターを投げつけられ、その後、また、叱られた。

自分が惨めだと思わないのか?

その言葉が私を更に傷つけた。

……惨め?うん。

母親の背に向けて、心で私はこう投げかけた。

私は、惨めな人間だよ。

それを表したくて、やってるんだよ。

……なんで、わかってくれないの。

それに、傷なんて元から付いてたんだから。

私に傷をつけてきた人はたっくさんいたのに、自分で自分を傷つけるのは駄目なんだ?

……私はやめない。絶対に。

母親に注意されてからその思いは増していった。


抑えきれない感情に、私はよく苦しくなってしまう。過呼吸、までとはいかないけれど、心がおかしくなっちゃいそうな気持ちになる。

このまま、息が出来なくなって、心肺停止になって、救急車で運ばれて、死ねたらいいのに。そうしたらみんなが私の死体を見て後悔するだろう。そんな姿を一刻も早く見たいんだ。

だから私は、今日も自分を傷つけている。

色々と辛いことが多すぎて忘れているところもよくわからなかった出来事もあったけど。全て、私の中に黒い何かが詰まっている。

あれから毎日、死んだように学校へ通い続けてた。体と心がボロボロでずっと学校中を歩き回っていたと思う。教室には入らず、廊下をフラフラと歩いていたら、同級生達から、あの子一ノ瀬じゃね?と冷たい視線を浴びせられた。入学して早々で泣いて教室を出て行った奴なんてみんな驚くし、悪い意味で目立った。きっと、その噂がクラス中に立っていたのだろうと思う。態々学校まで来て何をしているんだってなるのも当然だ。

両親にはちゃんと学校に行っているというふりをして、夜に帰ってくる毎日だった。まぁ、担任と連携していたから状況はバレバレだったけど。前みたいに怒鳴ったり、ガミガミ言ってくることは徐々に減ってきていた。要するに、前まではその場でイラッとしたことを私に吐いていたけど、そんなことをしていてもこの子は聞かない。もう無意味だと思ったのだろう。限界まで溜まってから吐き出すというスタンスになったのだ。それもそれでかなりダメージを受けたけど。

学校から帰ると、殆ど自室に篭ってゲーム三昧。それが日課になった。特別打ち込める趣味や特技、やりたいことが何も無くて、結局ゲームということになってしまった。小学校の時に親戚から貰った新品のゲーム機は、ハマらないと思っていたのに、結構面白くて気がつけば寝ずにずっとやっていたなんてこともしょっちゅうだった。

昔だったら、多分怒られただろう。でも、もう何をしても怒られなくなっていた。家族の筈なのに他人のような感じがした。知らない人達とシェアハウスをしているような感覚。今もそれは、変わらない。

担任や先生達も最初は付き纏うように私の後を追って来きたり、補導してきた時もあったけど、気がつけばそれがなくなっていた。誰かから何も言われなくなった時、本当に裏切られたのだと感じた。

完全に居場所がなくなってからの私は、人からどう見られているのかということなんてどうでも良くなっていた。小学校以来の無の感情が生まれていたのだ。ただただ苦しかったのは、虐められていた過去を掘り返す時だけだ。

校内は凄く広いけど、その分、人が多いから逃げ道を探すのは毎回困難だった。新校舎や体育館には必ず人がいる。空き教室を見つけてはそこの隅に隠れるように息を潜めて過ごしていた。

『……ウグ』

朝から晩までひたすらに涙を流す毎日だった。

今すぐここから逃げちゃいたい。けど、私にはもう居場所は、ない。

学校に行くふりさえしていれば、私は、まだ、良い子だと思ってた。

……けど。何も変わらない。やっぱり私は誰からも……

どうして私は助けて貰えないのか。

私にしてきた虐めの数々は、誰もが驚くくらいのことだろう。個室に閉じ込められて殺されかけたりだとか、フェス開催されたりだとか。

漫画みたいな、虐めがリアルで起きていた。

そりゃ、誰だって信じないよ。私だって、信じたくなんてない。

それに何より、面倒くさいんでしょ?

人間、悩みのない人なんていない。そういう言葉を耳にしたことがある。けど、どうせみんな、私より浅い悩みだろう。それなら、聞いてる方も辛くならないし、話す方もスッキリするんでしょ。

……私の場合は違うんだ。

頑張って話したところで何も対処してくれない。言えば言うほど、周りを困惑させる。話せば話すほど、呆れられて、お前が悪いんだって責められる。場が悪くなるから、これ以上話すな。苦しめるな。

……話せって言ったの、どっちだよ。

そんな私のことを、可哀想とでも思ってるんでしょ。

醜くて、汚くて、可哀想で。

私、何もかも失敗しちゃったのかな。

生きてる価値、無いよね。

私には、幸運は、訪れないの?

それなら、もう、私、なんて……。

……いっそ、殺されてたら、良かったのにな。

それくらい追い詰められないと、誰にも信じてもらえないんだ。

そうでしょ?ねぇ。そうなんでしょ!

無意味な自問自答。溢れ出す気持ち。

毎日が、地獄で、停滞していたあの頃。誰もいない静まり返った教室で、一人で涙を流して、そんな事ばかりがまとわりついていた。


「……んっ!」

今日一番の、強い力を込めて切った。

過去のことを、よく思い出せた日になった。

……ふぅ。

よし、これでいいや。

カッターの刃をゆっくり戻して、机の上へ置いた。

これでもかなり、傷つけなくなった方だ。

酷い時なんて毎日のように切りつけてたけど、最近は週一でなんとか保てている。

昔なら、もっともっと痛めつけて、いつ死ねるのかを探っていたのにな。

……

涙が、収まってきた。

やっぱり過去のことを思い出す時は、悲しくなることに変わりはないな。

きっとまだ、揺らいでる。

虐めも進路も学校も。家族のことだって。

それでも、今は少しだけ、光が見えている気がする。ほんの数ミリに満たないけど。

ここまで、生きてきてよかったのかもって希望が、あるのかもしれない。

だからこそ、今は、死にたい衝動に駆られることは減ってきた。


次の日。昨日の事でイライラしていた自分の恥じらいと、同級生に会った恐怖と、痛めつけた傷が若干染みているのとでミックスジュースになった気持ちを背負いながら適応教室へ行った。

結局昨日の夜中は寝られなかった。そのせいで眠気が凄い。朝から痛む所に湿布を貼って、昨日の傷を癒してあげた。

私は、学校へ通い続ける。旧校舎に残る独特な木の匂いをほんのりと嗅ぎながら教室へ入った。誰も居ないと思ってたのにもうあいなが来ていた。昨日は昼からで今日は朝から。彼女は本当に色々だ。入る足音に気がついたのかサッと振り返り、おっはよーといつも通りのテンションで挨拶してきた。

「いおりん、ここに置いてるってこと、内緒にしててね」

彼女は紙袋を持って何か考え事をしているようだった。あいなに近づいてそれ何?と言おうとしたら、真っ先にそう言ってきたから余計に気になってしまう。

「何してんの」

「サプライズの準備~」

ほんと、いつ見ても彼女の瞳はキラッキラ。朝からこのテンションじゃついていけない。

「……は?」

「ほら。だってもうすぐはなび先生の誕生日なんだよっ」

あ。そうか。もうそんな時期か。

「もうすぐって言っても一、二ヶ月後とかでしょ」

「うん。だから準備してたのー」

そう言いながら、あいなはまた持ってきた紙袋の中を漁り始めた。百均とかで売ってそうな造花を見て、うぉー!とか、次は足が片方しかない変な人形出して、これ使えるー!なんて一人ではしゃいでる。……何が楽しいんだか。

七月のいつかは忘れたけど、梅雨明けるか明けないかのビミョーな時期がはなび先生の誕生日だったと言うことは覚えている。去年も一昨年も雨の時期にここで誕生日会をしていたことを思い出した。殆どあいなが考えてそれに瑠璃と適当に乗っかるという感じだったっけな。瑠璃はそういうの協力的な人だから、楽しんでやってたんだろうけど、私はそういうのあんまり慣れていないし好きではなかった。昔の私なら、楽しんでたとは思うけど……

虐められてから、性格が歪みまくったのか、楽しいとか嬉しいという感情が薄れていた。

まぁ、誕生日当日に思うとしたら、ここまで生きてこれて偉いねと自分で自分を褒めていたかな。……心から喜んでたのは幼稚園とかまでだった気がする。仮に今、誕生を祝われたとしたら、両親に産んでくれてありがとうと言うことが一番相応しいのだろうけど、その後に、面倒くさい娘でごめんなさいと謝罪の言葉を付け足す。

「毎年サプライズパーティしてるけど、先生もそろそろ察するんじゃない?」

「大丈夫だよ!」

「そう言い切れる?もしかしたら、今年もやってくれるかも!ってワクワクしてるかもよ」

「うーん。でもっ、それでもいい!気持ちが大事だもんっ」

「まぁね」

仮に私が先生だったら察するだろうけど、貰う側からしたらどんな形であれ喜ぶのは確かかもしれない。

「だって先生忙しそうだもん。自分の誕生日、今年も忘れちゃってるかもよ。去年もあ!今日だったか!って大事な日なのに忘れてたし」

「あー。そう言えばそうだったねぇ」

はなび先生はかなり抜けているところがある。上司から怒られてることが多いと瑠璃から聞いたことがあった。……何となく想像出来る。いつものんびりまったりで、大事な時に慌ててた所も見たことがあるから、自己管理とかあんまり得意じゃなさそう。

でも、先生はよくやれてる方だと思う。

はなび先生は、養護教諭として五年ぐらい前からこの学校で働いている。元々この学校は先生が不足していて、養護教諭とかスクールカウンセラーとか子供に寄り添う為の大事な人材が不足していたらしい。そんな時にここで面接を受けて、はなび先生は先生になった。

詳しくはよく知らないけど、歳は私の母親より少し若いか同い歳くらいだろう。

因みにここを適応指導教室として開設したのははなび先生だ。日中は忙しくて、普段は保健室にいるけど、放課後やランチタイムの時にここへ顔を出してくれる。

そもそもこの旧校舎に入室すること自体、生徒や先生すらも原則禁止とされていて、入れるのは私とあいな、瑠璃、そしてはなび先生だけなんだ。だから、他の生徒に適応指導教室という存在を知られないようにしている。そもそもこの教室を作るのでさえも上から反対されていたし、隠すようにと言われていたんだとか。

でも、正直、それで良かった。

そもそもこの教室が出来たきっかけは、私にあったから……

だから、こんな避難所まで設けてくれたはなび先生と、差し伸べてくれた瑠璃には心底感謝している。ここは旧校舎でしかも端だから、ドアや窓を全部閉めたら、生徒達の声もあまり聞こえてこない。ここで一人、涙を流していた頃からずっと私の避難所だった。

これから先も、ここに来ていることを、他の生徒にバレたくない。絶対に明かさないでほしい。

ここの避難所は、私にとって大切な場所だから。

瑠璃はまだしも、あいなは口を滑らせないか心配だったけど、今のところ約束を守ってくれているからなんとかなっている。

出席日数とか内申とかも本当は駄目だけど、ここにいるってだけでなんとかなっている。はなび先生の説得があったからこそできたのだ。確かに先生は抜けてるし、のんびりしてて、この人大丈夫?って思うこともあるけど、私の事を一番に分かってくれているような気がする。

そんなはなび先生のことを祝うのは悪いことではないし、感謝を伝えられる良い機会にはなりそう。乗り気じゃない原因はあいなのテンション高すぎるというのが八割な気がした。

けど、あいながいなかったら、絶対やってなかったからそこは感謝しなきゃだよなぁ。

これまでの二年間はサプライズパーティーに関して非協力的だったから今年も勿論そうなる筈だった。

けど、無性にあいなの行動が気になった。

教室の机を何個か引っつけて、その上を物でいっぱいにしたり、黒板にどデカく『せんせいのさぷらいず☆』なんて書いて、教室が更に賑やかになっている。気にならない人は多分いないだろう。嫌でも目に入るのだから。

今年はこれまで以上に張り切っていると感じた。ゲームの最中だと言うのに、ガサゴソガサゴソ煩いから、気になってしまった。ゲーム機を片付けて、そのまま地べたに座ってあいなの背中を見ていたら、思いの外彼女が振り返ったから目が合ってしまった。

ドキッとした。彼女は私を見て瞳をキラキラさせてこっちに駆け寄ってきた。そして、半ば強引に参加させられてしまった。

「いおりんには、折り紙でなにかを折ってもらいたいと思いまーす」

そう言いながら、カラフルな折り紙を私に託した。唐突すぎて気持ちが追いつかない。

「これで何を作ればいいのよ」

「うーん。なんでもいいよっ。あたし、できないからっ」

「……出来ないものを他人にやらせようとしないでよ」

「あのね。あたし超が付くほど、不器用なの!だから」

手を合わせてお願いポーズ。彼女はそれを理由に困惑気味だった私を説得した。

正直超面倒臭かったし、私も工作が得意ではないから上手くできるかは微妙だった。

私は、あいなのお願いを引き受け、彼女の隣に座った。あいなの机には折り差しの折り紙で溢れかえっていた。若干端が敗れていたり、雑に折られていたりしていて形が上手く整えられていない。明らかに綺麗だとは思えない。

これは、あいな本人がやったのだろう。

「それ、態と?」

上から目線で言うつもりは無かった。ただ、巫山戯てこうなったのかなって思ったただけ。

だけど、その瞬間、あいなの表情は一気に暗くなった。いけないことを言ってしまった気がして申し訳ない気持ちになった。

「ごめん」

「ううん」

気まづい空気になってしまった。

去年も一昨年も、あいなはサプライズパーティーに向けて一人で準備をしていた。

紙で作ったであろうデコレーションが凄く綺麗だったから、器用なんだなぁと感心していたけど。

一気にクオリティが下がった気がして、何となく違和感を感じたのだ。

「去年作ってた……ほら、お花とかそういうのあったでしょ。あれってどうやって作るか教えてくれない?」

「あれ。あたしが作ったのじゃない」

「え?そうだったの?」

「うん。ママとるーりーが作った。あたしも作ったけど、下手くそだったから捨てたの」

「……そうだったんだ」

てっきり、あいなが作ったのかと思った。確かに本人が創作していたかというと明確ではなかった。

飾り付けとかケーキなんかは瑠璃と一緒にやってたし、本人が一人でやっていたのは作ることじゃなくて、計画だけだったのかと気がついた。独自の世界で、先生にどう喜んでもらえるのかを必死になって考えていたのだと思う。


「鶴の折り方、教えてくれない?」

彼女が笑顔で話しかけてくれたから、気まづい時間が終わったのだと感じた。

「鶴?花じゃなくて?」

「うん。あたし、鶴を折れるようになりたいの」

理由はよく分からなかったけど、手順を知っているから教えることはできるだろう。

私は、折り紙を取って、鶴を折り始めた。横で彼女はジッとその様子を見ていた。

あいなは不思議な子。彼女を一言で表すとその答えが出る。そう思うのは出会った当初から変わっていない。想像力が豊かで自分の世界を持っている。うまく説明出来ないけど、周りとは何処か違う部分があった。

瑠璃みたいなスーパーヒーローもかなり変わっているのかもしれないけど、人に寄り添える人はどんな形であってもいるにはいる。

けどあいなはそれでもない。

彼女が何故ここに居るのか、最初は本当に疑問で仕方が無かった。

まぁ、考えが幼稚な部分があるから嵌められそうな気もしなくもないけど。そもそも、彼女は、私と違って皆のいる教室へ通っているのだ。ここをどういう時に使っているのかはよくわからないけど、恐らくあいなの性格からして気分だろう。そういう気分だからここに居て、友達と話したい時は教室に戻る。そうやって気分で選択しているようにしか見えない。

あいなははなび先生と色々な話をしている。私は、いつも聞いてないふりをして隅に座ってゲームをしているけど、会話が気になるのと嫌でも聞こえてくるから密かに彼女の話に耳を傾けていた。

クラスメートの話になると、あいなはいつも楽しそうだ。特定じゃなくて、色々な特徴の子が出てくる。私とは違って、ひとりぼっちじゃないんだなって思った。

だからきっと、私みたいな経験なんて、一ミリもしたことがないのだろう。

けど、三年間一緒に居て見えてきたことならある。

まず、あいなは勉強がかなり苦手だという点だ。そう思い始めたのは本当につい最近。私は、ここに数年勉強なんて全くしていないけど、あいなははなび先生が来ない時間、いつも机に向かって何かをしていた。あいなのことだからどうせ夢の世界にでも浸ったりしているのかななんて思いながら、一度、彼女のやっている事を後ろからこっそりを見たことがある。彼女は勉強をしていたのだ。私は、それに驚いたわけじゃない。中身だ。算数と書かれてあるドリル。ノートには小学校三、四年生ぐらいで習う漢字が鉛筆で書かれてあった。しかも、ガッタガタ。あいなは、勉強が苦手だからここで勉強しているのだと思った。

多分、ここにいる理由はそれが原因。

でも、それくらいなら、別にいいじゃないかと思ってしまう自分がいる。

頼りになる友達が居て、大好きなクラスメイトが居て両親に愛されて。

勉強が苦手なのは、努力したら、直せると思う。

小さなことで喜べて、オマケに超がつくほどポジティブ。

そんな人生、私には羨ましい限りだよ。

辛いとは、掛け離れてそうだな。

……私は、彼女のことを知らない。

……だけど、見ていたら、そう思ってしまう。

……それを言うと、あいなだけじゃない。周りのみんなだって同じ。

……私は、ずっと、人と比べながら生きている気がする。

そうやって考えたっていい事なんて、一ミリもないのに。

……それでも、やっぱり……神様は不平等だ。

あいなは、私より何倍も楽しんで生きていると感じる。

……彼女を見ていると、イラッとする日も、時にはある。


「もうこんな時間!先生、来ちゃうよぉ」

「ランチタイムだね」

結局朝はずっとあいなのサプライズ計画に付き合っていた。

机の上や床に、折り紙やら文房具やらが散らばっていて大変なことになっている。その殆どがあいなの私物。私は、あいなの片付けに付き合った。机の上にあったゴミはゴミ箱へ、黒板に書いてある文字を消して、なんとか普段の教室には戻せた。

「二人とも来てたのね。おはよう」

チャイムと同時に、はなび先生が教室へ入ってきた。

「二人とも、朝は何をしていたの?」

「えーっと勉強を……」

咄嗟に出た答えがそれだった。つい、分かりやすい嘘をついてしまったのだ。

「イオリちゃんが勉強!嘘!」

先生は目を見開いて驚いた。

「いや……その」

「じゃあっ。私はお昼ご飯を食べに行って参る~」

あいなはそのセリフを遮るように、笑顔で教室を出て行った。ナイスあいな。

「行っちゃった。今日も元気ね」

先生はあいなの背中を見つめながら、安心したように言った。

こういうの、何となく、引っかかる。

「……そうだね」

素っ気なく返した。

あいなは、やっぱり私とは違う。避難所に居ても、クラスメイトのみんなといても、彼女は変わらず眩しくて光ってる。

……私は、二年間、ずっとその姿をみている。

自分は、ここにいても何も変わってないように思う。

「イオリちゃん?」

先生は心配そうな様子で見ていた。

「なんでもない」

無理に笑った。

「イオリちゃん、今日は一緒にお昼ご飯を食べましょう」

私の表情が、寂しげに見えたのかもしれない。先生は私にそう言った。

「私、今日も何も持ってきてないよ」

「先生のお弁当、あげるわ」

「要らない。先生が食べないでどうするのさ」

「実は今日ね、作ってきたの」

じゃーん。先生は明るめの口調でそう言いながら、トートバッグの中からランチバックとコンビニ弁当を取り出した。

「先生が手作りって珍しいね」

「瑠璃ちゃんを見習って作ってみたんだ~。あの子、いつも手作りでしょ。どんな感じなのかなーって」

「へー」

「だーかーら」

これを食べないのは勿体ないから食べてね。

先生は私にコンビニ弁当を手渡した。

「……なんで買ったの」

「いつものノリで買った……って言うと、嘘になるけど」

「え?」

「イオリちゃんに」

「そんなの、別に良いのに。何円だった?返すよ」

「えー。そんなことしなくていいよ。これは私からの愛だと思って」

「お腹空いてないから」

……嘘だけど。

「本当に?」

先生は見抜いていた。

「……本当」

そう言ったけど、タイミング悪く、ここでお腹がなってしまった。

「……」

「イオリちゃん今嘘ついたな~」

「先生だって付いたじゃん」

「はいはい。お愛顧」

先生は笑った。私もそれに釣られて苦笑い。

久しぶりにまともなご飯を食べた気がする。コンビニ弁当には、鮭や唐揚げが乗っていて家庭的なものがたくさん入ってきた。早く食べたいという衝動に駆られ、先生よりも先に開けて思わず口に入れてしまった。冷めていたけど、何処か温かくて想像していた以上に美味しい……

「いい食べっぷりね」

隣で先生が微笑んでいる。先生の作った物が気になって先生の方を見た。先生がおそるおそるお弁当箱を開けた。

「……へ?」

中はグチャグチャ。ウインナーやらミートボールやらが全部が混じっていて、悲惨だった。

コンビニ弁当と比べるとかなり違うくて、思わず笑ってしまった。

「は、初めて作ったし仕方がないわっ」

先生は顔を真っ赤にして、そう言った。それでもあまりにも酷すぎる。

「先生、持ってく時お弁当傾けたでしょ」

「き、きっと傾いちゃったのよ。荷物多いし」

「ふーん。見た目は悪いけど、どれか食べさせてよ」

からかうようにそう言うと、先生が弁当のトレーに、卵焼きを入れてくれた。

「いただきます」

見た目は綺麗とは言えないけど、味が肝心だから感想は食べてから。崩れた卵焼きをお箸で上手く掴んで、口に入れた。

「……!」

期待はしていなかった。口に入れた瞬間に懐かしい味が……したんだ。

「凄く美味しい」

思わず呟いてしまった。気がつけば口角が上がってた。ご飯で感動することなんて一体何時ぶりだろう。

「先生、やればできんじゃん」

「良かった」

「後は形を改善するだけだよ」

「そうだね。頑張ってみるね」

先生は、凄く嬉しそうだ。

私は、先生を横目に卵焼きを咀嚼する。

……

なんか、凄く、温かい味だな。……この味、何処かで……

……あ。思い出した。

「イオリちゃん、凄く真剣に食べてるね」

「……うん。この味、お母さんの卵焼きに似てる。最近食べてないな……」

「そう。普段は、ご飯、どうしてるの?」

「基本は一日一食とかかな。栄養がとれるウエハースとか、ゼリー状のとか食べてた」

「ちゃんと、食べなきゃまた体調崩しちゃうよ」

「……またって前にそんなことあったっけ」

「ほら。イオリちゃんがまだ、私と出会っていなかった頃よ」

「……あ」

確かあの時期、体調崩しがちだったっけ。

それなのに、学校へ行き続けてたな。 

「先生、私さ、あの時、凄い辛かった」


あれは中三の冬。冬の旧校舎はとても寒かった。旧校舎には冷房が無ければ、暖房もない。夏場は手持ちの扇風機を持参していたからなんとかなっていたけど、冬は隙間風が冷たくて、パーカー姿の私にとってはとても地獄だった。

それでも、私は教室の端で息を潜めていた。

逃げれる場所は、ここしかない。

安心して息を吸える場所も、ここだけ。

家に帰ると、毎日のように学校から電話が掛かってきて、高校はどうするのかとしつこく聞かされていた。私立だからこのまま上には上がれるけど、義務教育じゃなくなるから変わらず学校に行かないと、退学になるとの事だった。

『……はい。すみません。もうどうすればいいのか私にもわかりません。先生、助けてください』

母親は毎日、疲れ果てていた。どうして私に聞こえるように発言するのかが理解出来なかった。きっと、ここまでしたら、娘は分かってくれるのだろうとでも思ったのだろう。普通であってほしいという願望が丸見えだった。結局、母親からはもうどうにでもなりなさいと言われ、父親はそのことに関して無関心でビミョーな感じだった。正直、これで良かった。

私のために頑張ってくれていた母親。母親が追い込まれているところを見るのが一番辛いから。だから、放ってくれた方が気が楽だった。

このままここで高校に進級するのは気が重たかったけど、新しい学校へ行く方がもっと重たかった。希望を持つ分、頑張らないとという気合いを入れれるような状態でも無かったし。

心機一転なんて、もう無理だと思ったから。

精神もおかしくなって、何処へ行くとか行かないとかなんて別にどうでも良かった。


隙間から来る風がどんどん強くなっていく。

あの日。本気で死を考えていた。

……どうして、今まで生きてたんだろう?

楽しいことなんて一ミリもなくて、辛い現実なのに、どうして死ぬ決断をしなかったのだろう。刃物を突きつけられても、自分から傷をつけても、死ぬことだけはずっと留まっていた。

……お腹が空いた。

ゲームも、飽きちゃった。

高校も、行かない。……行けない。

でもまた怒られちゃう。

ねぇ……行かなきゃ行けないの?

……でも、またみんなから攻撃されて、圧を掛けられたらさ……

……また、傷が増えちゃうね。

みんなの望む通り、このまま死にたいな。

……死んじゃおうかな。

そして、死ぬ事以外になにも考えられなくなっていた。

答えは固まった。

このまま誰にも見つけてもらえないなら、死んだ方が何十倍も楽だ。

……今まで散々色々な人に振り回されてきた。私もみんなも私が生きていることにデメリットしかない。

私は、スクールバッグに手を突っ込んだ。……カッター無いな。持ってきたらよかった。でももういいよね。最後まで自分を傷つけなくたって。

まともな食事なんて何年も取ってない。今日なんて水すらも飲んでない。

もうあとは、どんどん脆弱になっていければいい。

この冷えた教室の中で、一人蹲って死ねばいい。

こんな所、誰も、来ないんだから。

……でも、もっと早く楽になりたいな。

このままじゃ、夕方になって家に帰らなくちゃ行けなくなるし。

そして、良い考えを思いついた。

もっともっと、体を冷やせばいいんだ。

私はパーカーのジッパーを開け、制服姿になった。いつも、制服姿の自分が嫌で、パーカーでなんとか隠していたけど、そんなの今はどうでもいい。制服の裾を肩の辺りまで捲る。血の塊に染まった腕が目に入るけど、気にしない。

これなら、死ねる。

だけど、想像を絶するくらい地獄の時間だった。

苦しくて、辛くて、でも、これを乗り越えたら、後は死の世界。

そう、思ってたのに。中々、上手くいかない。寒くて堪らないのに、意識がハッキリとしている。

……なんで?

そう自分に問いかける。

なんで。なんでなんでなんで。なんでなのよ!私は、無意識に叫び始めた。気持ちが、心が、訳が分からなくなった。

「私は!私はっ。私は!」

見えるのは地面と傷の負った両腕だけ。……結局、私は、死ぬまで下を向く人間なのか。惨め、だな。

本当に可哀想。

『え!』

何処かから声が聞こえた。

……もしかして、私の声を聞いて、覗きに来たの?

気の所為だと思った。だけど、今度は『大丈夫!』と言う声が私に向かってハッキリと聞こえた。

頑張って顔を上げたら、人間の姿が見える。どんどん近づいてきて、私の目の前に来たから、それが女子生徒だということに気がついた。

……来ないで。どうして、なんで。頭が、おかしくなりそうだった。全身がブルブル震えた。

『ちょっとっ。何その格好!』

彼女は目を見開いていた。

長谷。セーラー服に付いている胸ポケットの名札が目に入った。彼女の存在は有名だったから名前だけは何となくだけど知っていた。だけど、直接会ったのは初めてだった。瑠璃は心配気な表情で私を見つめていた。怖くて、目を上手く合わせられない。

『どう……して』

ここに生徒が入ってきたことが今まで一度も無かった。旧校舎はとても埃が溜まっていて、この中に入りたいと思える生徒なんている筈がないと思っていた。だから、ずっとここで息を潜めていた。ここは私にとっての避難所だったから。なのに、避難所に部外者が入ってきたと思うと、体がブルブル震えた。

『どうしてって……はなび先生に言われたの。旧校舎に大事な資料が置いてあるから取りに行ってほしいって。普段はここ入れないから……人がいてビックリした』

『……』

瑠璃が、近づいてくる。その姿勢が、殺されそうになったあの時と、何故か凄くリンクした。

何を、何か、されるの?

私は、誰かに、最後まで追い込められなきゃ行けないの?

そう、思い込んでいた。

『おいで』

『……』

『こんな所に居たら、寒いよ。それにこの格好じゃ……』

彼女は、私を、傷つけなかった。凄く優しい口調で私に手を差し伸べた。

……ギュッて握ったら、温かいのかな。

ふとそう思ったその時だ。

『ねぇ、イオリ』

私の中にいる、もう一人の私が、話しかけてきた。

『信用しない方がいい。もしかしたら、また傷ついて……』

『!』

思わず、我に返る。

……ダメだ。

……簡単に人を信じちゃ、ダメ。

私は、必死に顔を逸らした。私は、彼女の手を、握れなかった。その代わりに、質問をした。

『……ヒーロー、なんでしょ?』

『……まぁ』

彼女は少し複雑そうな表情を浮かべていた。でも、私にはどうでもいい事だった。

『私とは違う次元の人だね』

『……え?』

彼女はやっぱり困惑していた。

あーあ。

やっぱり私ってダメだな。

私は、ただただ真っ直ぐに遠くを見つめた。全身がフラフラとする。

『ねぇ。顔色凄く悪いよ。寒いし早く出ようよ」』

『大丈夫』

『大丈夫じゃないよ』

それでも瑠璃は、その場から離れなかった。彼女は私の肩を両手で触れ、ビュンビュンと軽く降った。固まっている私の体を解してくれているのだろうか。

……何なんだよ。もう、鬱陶しい。そうやってする人がいるから、私は……死ねないって言うのに。

『もう辞めて。死ぬ直前まで苦しめないで。楽に、させて……どっか行ってよ』

私は、耳を塞いだ。なんで初めて会った人にこんな風に言われなくちゃいけないんだ。凄く腹立たしかった。

『今更、私を止めたって無駄。だって私にはもう何も響かないんだからっ』

思わず、叫んでしまった。そして、瑠璃の手を払った。反抗したり、怒ったりなんて、親の前でしかした事がなかった。

だけど、瑠璃は辞めなかった。また、ほらと手を出してきたのだ。

『風邪引いちゃうのには変わりないでしょ。私の言葉が響かなくてもさ、ここは寒いから、保健室行こ。ね?』

『……嫌だ」

死のうと決めた当日に、どうして人に邪魔されなきゃいけないの』

『攻めてパーカーだけでも着ようか』

『帰ってよっ。もう、もう……私はっ』

長谷瑠璃。……何なんだこの人。

私は、瑠璃みたいな子がどうしても苦手だった。クラスに一人いる、優等生でなんでも出来る子が。

小学校にも居た。そういう子は、いじめてはこなかったけど、冷ややかな目で見ていたのは確か。そんなこと、自分には関係ない。真面目に勉強していればいいとでも思っていたのだろう。そうやって逃げ道があるんだ。優等生って担任やみんなからチヤホヤされて、爽やかで、自分を貫いている人が多いんだろうな。

……強くて、いいな。

当時の私は、そう思ってた。


「で……あれからどうなったっけ」

お弁当なんてとっくに食べ終わって、もう五限目のチャイムが鳴り響いているのに、さっきからずっと過去の話を先生に聞いてもらっている。先生もそろそろ保健室に戻らなきゃ行けない筈なのに、忘れているみたいだ。先生はいつも私達を優先してくれる。だから最初の頃は仕事をすっぽかすことも多かった。話をしっかり聞いてくれているのは、凄く嬉しいことだ。だけど、ちゃんと仕事もしてほしい。そうやってすっぽかすからやる事が溜まっていくのだから。

「その後はイオリちゃんの意識が無くなって……」

「あ。そうだった」

流石に先生に申し訳なくて、先生、時間大丈夫なの?話しすぎちゃった。もう、こんな時間だよって壁に掛かってある時計を見てそう言った。

「たまには良いかなぁ」

「また、上から怒られるよ」

「大丈夫よ。まさかイオリちゃんがここまで過去と向き合ってくれるとは思わなかったから」

ここに来てから、過去の話をしたことが無かった。何となく思い出したくないと思ったし、まだ自分の中にあるモヤモヤが晴れていないと思っていたから。

でも、何故だろう。今は、凄く話せてる。それに、何となく話したい気もする。

ずっと心に閉まっていたものが、溢れだしている……


瑠璃が手を差し伸べてくれたものの、私は、それを完全に無視。地面と壁に体を引っつけたまま、その場から離れようとしなかった。早く出てってよ。そんなことを思いながら俯いていたら、急に視界がボヤっとして……。ゆっくりと瞼を開けた時には、保健室のベットに横たわっていた。

柔らかい低反発マットレス、胸の辺りまで掛かっている白の羽毛布団。ハッとして、私は直ぐに布団を退けた。その音が響いたのか、カーテンが開き、あ。目、覚めた?と母親くらいの歳の女の人……はなび先生が覗きにきた。

『……っ!何で。何で私、ここに』

『倒れてる子がいるって、そこの瑠璃ちゃんが教えてくれてね』

カーテンの隙間から、熱心に勉強をしている瑠璃の姿が見えた。

立ち上がろうとしたけど、まだ体がボーッとしていて上手く動かない。

『まだ熱があるから、横になっていなさい』

『……熱?』

自分のおでこに手を当てる。……熱い。私、熱あったんだ。……だからボーッとして。

このままここで眠れるものなら眠りたい。

『お母さんに連絡入れて迎えに来てもらおうね』

『やめて』

この一言で、速攻でここを出ようと思った。

『お母さんお仕事?なら、担任の先生に……何組か教えてくれないかな?この学校クラスが多いからねぇ』

……今度は担任か。結局、私が何処にいるのかを大人に報告しなきゃいけないんだな。

私は……ずっと、息を潜めて、生きてきたのに。また、呆れられるのかな。迷惑かけたって言われちゃうのかな。……怖いよ。

なんで、死ねなかったの?ねぇ。自分に問いかける。あのまま視界がボヤボヤになって、真っ黒で、何も見えなくて、意識が遠のいて、心臓が止まってれば良かったのに。

凍え死ぬ。それが、私の、死に方だったのに。

お母さんがダメなら、担任。担任もダメなら、今度は誰になるんだろう。……誰も、居ないね。

『私は、何処にも所属してない』

嘘だけど、本当のことだった。

その組織に入れていないなら、入っていることにはならない。数あるクラスの中にぽつんと名前だけはあるのだろうけど、私はそこには存在していない。そう見せかけているだけだし、そういう義務なだけ。誰も私を、仲間だと思っていない。私だって、その仲に入ろうと思わない。

『所属してないって、どういうこと?』

『言ってる通りよ。私は大人に捨てられた。あ、違う。自分から、捨てた』

『……え?』

先生はとても困惑していた。

こうやって私はまた人を困らせる。困らせて困らせて困らせて、イラつかせる。

生きている価値なんてない。生きていて言いことがない。

もう、死んでやる。

今からでも、死ねる。

心の準備はできているからっ。

『死にに行ってきます』

『え?』

私は、頑張って立ち上がった。ベットの下に置いていた靴を履き忘れたなんてどうでもいいくらい必死になって冷たい床を歩いた。保健室から出て行った。

『一ノ瀬さん!』

『来ないでっ』

先生の優しい声を遮ってまで、私は歩き続ける。

後ろから先生が着いてくる。行かなきゃ。どこ行こう。……あ、確か保健室の上は屋上だった。新校舎の屋上には行ったことが無かったけど、きっと新鮮で気持ちよく死ねる。

力ずくでも自分の体を動かそうとする。

だけど、やっぱり力が入らなくて、階段の目の前で止まってしまった。……立ち止まって、下を向いた。今、この世の世界の人間の中で一番可哀想で、惨めな思いをしているのはこの私だ。

小学校で虐められてから、家族なんて、担任なんて、大人なんて、誰も信じられなくなってた。同級生を見るとただただ苦しくて、苛立って、そんな自分が嫌で、切って切って切りまくってっ。なのに、どうして止められなくちゃいけないの。

『貴方にっ、先生に私の何がわかるの。今日、会ったばかりですよね。尚更止める意味ないでしょ。私が死んだって何も感じないっ。赤の他人なんだもん』

こうやって、親に反抗したことがあった。だけど、疲れた顔をして、余計に傷をつけてしまった。結局、分かってもらえなかった。

ずっとずっと辛くて苦しくて、しんどい何かを抱えてきて、なんとかそれを文字にした結果が、これだった。

誰もが、絶望する言葉。私には、こんな言葉しか出てこない。我慢しろとかそういうの、もう耐えられないんだもん。引き出しに終いすぎてもう何処にも、入らないよ。零れちゃった。

……本当はいじめっ子達に言いたいことを言えたら良かった筈なのにな。

『……』

もう、何も言い残すことは無い。私は必死に階段を登ろうとした。

その時、先生が私の腕をギュッと握った。握った手はキツく縛られたものじゃなくて、何処か暖かくて振り払おうとしたら余裕で外れるくらい柔らかいものだった。

『そっか。辛かったんだね。しんどかったんだね』

その瞬間、地面に何かが落ちていくのが見えた。

『……え』

どうしてこんなに、心が動くの。

今まで人の言葉なんて信じられなかった。信じたくなかった。なのに、何故か、先生の今の言葉が凄く響いた。……まだ心の奥底信じたらダメだって思っている筈なのに。ギュッと握ってくれる手を離したくなかった。私はその場に立ち止まった。涙はずっと、止まらないままだ。

『今までよく頑張ったんだね。偉かったね』

『……』

……いいの?

私の声が、胸の奥から聞こえてくる。

この人を信用していいの?この人だっていつか私を見捨てるかもしれないよ。

……そう、だね。

自問自答する。

でも、この人は……今まで出会ってきた人とは違うような気がしたんだ。


「はなび先生が、初めてだったんだよね。今までみんな頑張れとか我慢しろとか無理矢理にでも前に進ませようとしてくる大人ばかりだったけど」

「そう」

「うん。頑張ったねなんて言われたこと無かったよ」

あの言葉は心の疲れていた私が、一番人に掛けてもらいたかった言葉だったのかもしれない。

今日の私は、久しぶりにお喋りだった。はなび先生は昼の仕事をすっぽかしてまで、私の話を聞いてくれた。それからの話は、先生もよく知っているから敢えて話さなかった。

放課後を示すチャイムが鳴り響いた頃、あいながフラフラっと帰ってきて、荷物を取りに戻ってきた。その後ろには瑠璃もいた。

「今日も疲れたー」

ルンルンのあいなは、いつ見ても呑気だ。

「あいなちゃん、今日の授業はどうだった?」

「うーん。難しかったけど、楽しかったよ~。社会の授業でビデオを観たの。大きな工場が写ってたんだー」

「へー。面白そうね」

あいなははなび先生に授業の報告をしていた。その横では、瑠璃がもーう。あいなは本当に元気だねと言った。少し疲れているようだ。

「瑠璃、お疲れ様」

私が言うと、瑠璃はいつもの笑顔でイオリもねと肩をポンと叩いてきた。瑠璃とは何気ない言葉を話せる仲にはなった。繋いでくれたのは、旧校舎のあの寒い日に瑠璃が見つけてくれたことから始まったと思う。それが無かったら、はなび先生とも繋がれていなかっただろうし。本当にあのまま死んじゃっていたかもしれない。

いつか、瑠璃にありがとうって言いたいな。

……今は皆がいるし、少しだけ恥ずかしくて言えないけど。

「はなびせんせーいっ、いーおりんっ。また明日ねー」

私は、先生と二人であいなと瑠璃を教室から見送った。

やっぱり私はまだ、みんなともあの二人とも掛け離れているように感じる。

色々な記憶を辿っても、やっぱり私は、あの頃のままだ。

不安も恐怖も、周りとの関係も。ずっとギクシャクしたまま。

傷は日々、増えていく一方な気もするし、過去のことを思い出すだけで震えが止まらない。

まだ、整理できていない。でも、塞ぎ込んでいた何かを口に出して話すことは出来た。それだけでも、良かっただろう。


空がだんだん暗くなってきて、帰る生徒の数も減ってきただろう。昨日はやらかしちゃったから、またあの虐めっ子に会うのではという恐怖が頭から離れなくて、今日はしっかりと暗くなるのを待っていた。ただ、生徒が居なくなったと思えば今度は教員らが会議やら校舎の点検やらで学校中を回っているから、担任に会えばそれはそれで厄介だ。……また進路の話になるだろう。

これからどうしようかな。公園。ゲーセン。ショッピングモール。行く宛てはいくらでもあるけど、今日も早く家に帰ろうかな。

……お母さんと話す気はない。けど、お弁当を食べてお母さんの味が恋しくなった。今日の夜ご飯は何を作っているんだろう。

「さてと。帰るわ」

先生の方を見て、私は言った。

先生は、静かにパソコンを開いて作業をしていた。多分、昼間にやる筈だったことを今やっているのだろう。

「今日は、ううん。今日もありがとう。じゃ」

スクールバッグを肩にかけ、教室から出ようとした時だ。

「本当に成長したね」

「え?」

私は、振り返った。先生は真っ直ぐに私を見ていた。そして近づいてくる。

「そうかー。感じられてないのかぁ」

「うん。強いて言えば、死にたい衝動が無くなっただけだよ」

本当に、それだけだ。先生や瑠璃に出会って救われたけど、私自身の傷が完全に癒えた訳じゃないし、歪んだ性格に変わりはないと思う。

「ずっと停滞してるよ。小学校の時から。まだまだ弱くて醜くて小さいよ」

私はいつも、ネガティブな発言をしてしまう。

震える体を必死に止めたくてなのか、無意識に肩や手に力が入った。やっぱりまだ昨日切った傷の辺りがズキズキしていた。

「私から見れば、凄く変わったと思うよ」

「どこが?」

自分ではわからない。けど、先生にはわかるんでしょ。

なら、教えて。

私は、先生の瞳を見つめた。

「初めは誰とも話そうとしなかったのに」

「そう、だっけ」

「今ではあいなちゃんや瑠璃ちゃんともお話出来るようになったじゃない」

「……別に大したことじゃないでしょ」

人とのコミュニケーションは、生きていく上で必ず必要なものだと、大人から散々言われてきた。だからやってると言うだけで、もし一人になれるのなら一人になりたいとは思う。それに、二人が何かと話しかけてくれる。それに答えないのは何となく気まづいし、申し訳なくなる。

「人と話すなんて、みんなできてる事だから」

「でも、イオリちゃんが思うその普通、初めは出来てなかったでしょう」

「……確かに」

だとしたら、成長、できてるのかな。自分ではよく分からないけど。

「イオリちゃんは気づいていないかもしれない。だけど、変わっていけているよ。大丈夫」

先生の言葉はやっぱりグッとくる。痛いとかじゃない。その逆……愛という文字がピッタリフィットする。私に合った愛だと思った。

私はこれまで人から偽物の”アイ”を与えられていた。担任も親も私のためにと自分が思うアイの形を上手く表現していたのだろう。だけどそれは、私にとってグサッと刺さる方の”哀”であり、私の心と体を凍らしているようだった。本当に私を思って言ってくれていた、行動してくれたんだろうけど。それを受け入れることは出来なかった。

これから先も、周りと上手くいかなくて、切って切って切りまくって、ぶつかっちゃって、また死にたくなって、どうなっちゃうかはわからない。

今よりももっと身も心も氷のように固くなっていくかもしれない。

けど、先生がそんな私を動かしてくれる……こうやって、私のことを見つけてくれる気がしたんだ。

……だから、大丈夫だって信じるしかない。

この場所がある限り、私はまだ歩いていける。

あの頃からじゃ考えられなかったけど。

可能性を、一ミリでも、見つけられたから。また明日も生きれたらいいな。

「先生。これからもよろしくね」

そう言って、私は、教室を出た。

ほんの小さな希望を持って、新たな希望を探しに行こう。そうしたら、少しだけ強くなれるかもしれない。

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