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8.拳一発

 



 政変が起こってからしばらくの間、王都は騒がしかった。

 女王派の貴族も居なくなったわけじゃないし、女王の実家であるクロイツァー家は凋落の憂き目にあっている中でも立場を確保しようと躍起になっている。


 第二王子を即位させると言っても、王太子でもない王子をすぐに国王にはできずにいた。


 一旦、現王太子を廃嫡して、第二王子を新しく立太子させ、それから即位するらしい。


 それには色々な儀式が必要で、それまでの間に各家がより良い権利を得ようと画策しているせいで泥沼のようになっている。



 第二王子派自体が、元々第二王子を支持していた人たちと後になってから加わった人たちが合わさって出来ているからより一層難しくなっていて、それぞれに言い分があるから調整に時間がかかっているそうだ。





 そんなこんなで王都の政治がとても忙しく、父上とラファ兄上は家に帰って来られない日が続いた。


 その間にももちろん領内の政治があるわけで、それを裁くウォルター兄上とリリィさんもとても忙しい。

 ウォルター兄上は、リリィさんが居てくれて良かった、って心の底から言うほどだったからな。


 政治面はからっきしの俺でさえ、雑用に駆り出されるほどだ。

 まあ、呼ばれなくても自分で勝手にリリィさんのところへ行って雑用してたと思うけど。






 自分も苦労しながらも、王都の政変を対岸の火事のように思っていた。

 けれど、そうも言って居られない事態になってしまった。



「誰か出て来い!」



 王太子を名乗る少年が屋敷の前で大騒ぎしている、と言われて慌てて出て行く。



 王家の家紋を出されたから、警備兵たちは手が出せなくなってしまったようだ。



「何の御用ですか?」



 父上とラファ兄上が居ない今、この家のトップであるウォルター兄上が応対する。

 ただし、玄関ポーチだけど。


 しかし、元王太子はそんな失礼を指摘することもなく自分の言いたいことをまくし立て始めた。



「リリアーナを出せ! あいつが居なくなったから、俺はクラウスごときにこんな目に遭わされているんだ!

 あいつは第二王子で俺は王太子なのに!

 リリアーナが俺に嫌がらせしたせいだ!

 俺がティアリスに取られたのが嫌だったから、第二王子でしかないクラウスをけしかけて、無理やり王太子にしようとしてるんだろ!

 リリアーナを連れて来いよ!

 今なら、まだ、誠心誠意謝れば許してやるから!

 側妃にしてやる!

 前みたいに、普通に仕事してればいいだろ!

 リリアーナが居なくなってから、みんな俺に仕事を押し付けて来るんだ!」




「誰がリリィさんをお前なんかのところへ行かせるかよ!! リリィさんは俺の妻だ!」




 そう叫んで、俺は思いっきり殴りかかった。


 日頃から鍛えているとはいえ拳一発で吹き飛ぶとは貧弱過ぎないか、と思いつつ手際よく捕獲。

 魔物と比べることも出来ないほど弱いし、全く苦労もしなかった。


 一切抵抗出来ないように縛り上げて、猿轡を噛ませて無理やり大人しくさせる。

 そこまでしてもまだジタバタしていたけど一発軽く蹴り入れたら黙ったし。



 ウォルター兄上は何も言わずに見ているだけだったけど、止めなかったということはやっても大丈夫な範囲だったんだろう。

 たぶん、殺しそうになったらその前に止めに入ってたとは思う。



 玄関扉の横辺りに転がしてから、リリィさんのところへ行く。



「リリィさん、もう大丈夫。ちゃんと捕まえたから」


「ユーリさま、ありがとうございます」


「何かあいつに言いたいこととかある?

 あんまりおすすめはしないけど、一応会えるし話は聞こえると思うよ」


「何もありません。というか、絶対会いたくありません」


「それなら良かった。あいつ届けて来るから、ちょっと待っててね」



 荷物のように担いで騎士団へ連れて行き、所定の手続きをして王都へ送る。


 手続きの内容?

 犯罪者を捕まえた時と同じやつだよ。

 あんなの、犯罪者と同じだから!


 まあ実際にどういう対応をされるかは分からないけど、幽閉されてるのに逃がしたやつらが悪いしな。







 屋敷へ帰ると、リリィさんが待ってくれていた。


「ユーリさま、終わりましたか?」


「ああ、終わったよ」


「ありがとうございますっ!」


 珍しく、リリィさんの方から勢いよく抱きついて来てくれた。


「怖かった、怖かったですっ……」



「ごめん、あいつは他の人に任せて、リリィさんの隣りに居てあげればよかった」



「いいえ、ユーリさまが殴ってくださって、私はとってもスッキリしましたわ!

 それに、私のこと、妻だって言ってくれたから、嬉しかったです」



「それなら良かったけど」



 口ではスッキリしたなんて言いながらも、まだ俺にすがりついて泣いているのを見ると、本当に胸が痛い。



「リリィさんには先に逃げていて貰えば良かったね、ごめん」



「そんなことないです!

 私、とっても嬉しかったんですよ?

 普通なら、王家に直接逆らうなんて出来ません。

 私の父上さまでも、してくれないと思います。

 だけど、ユーリさまはエルンスト殿下をやっつけてくださったから」



「それは、俺もやりすぎたかもしれない。

 もしかしたら父上に怒られるかも」



「その時は、私も一緒に謝りますから大丈夫ですよ!」



「あはは、ありがとう。

 もうリリィさんに酷いことする人は居ないから、何も心配しなくて大丈夫。

 リリィさんは自由だよ」



「はい! ユーリさまのおかげです! ありがとうございました!」



 王都での虐めや王家からの縛りなど、諸々の悩みごとから完全に解放されたリリィさんの顔つきは晴れやかで、太陽のように輝いていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 全くなんの躊躇いもなく妻を守る夫。 確かに脳筋ってのもあるんでしょうが、正しく辺境伯位らしくて好きです。
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