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2.お食事

 



 とにかく、この混乱の極みにある場をどうにかしないと話は進まない。


 壊れた扉と全開の窓、泣き止んだばかりの女の子とそこから妙な距離で立ちすくむ俺。

 どこから突っ込んで良いかも分からないような状況なんだけど。



 「あの、驚かせてしまって、すみません。

 あなたが泣いてるようだったので……」



 何の言い訳にもなっていないことは分かっている。

 泣いている女の子の部屋の扉を蹴破るのはどう考えてもおかしい。



 「いえ、ありがとうございました。……ええと、お食事のお誘いでしたか?」



 ……一瞬、頭の悪い俺は話に付いて行けなくなったけど、つまり彼女は


 「この状況は何もおかしくないですよ?

 普通にお食事に誘ってくれただけですよね?」


 と言ってくれてるわけだ!


 さすが、王都で有名な才女!

 俺も全力でそれに乗っかるしかない!



 「ええ、ランチも食べていないと聞きましたので」



 俺、珍しく貴族っぽい対応が出来てる気がする!



 「あまり食欲が無いので遠慮させていただきます」


 「そう言わずに、ぜひ!」


 「そちらの方々にご迷惑をおかけしてもいけませんし」


 尚も断る彼女の手を少し強引にとる。


 「ここではちょっとアレですので、隣の部屋へ行きましょう!

 そこに食事を用意しますから、少しだけでも。ね?」



 「……ぇえ、わかりましたわ」



 俺の必死さが伝わったのか、ようやく頷いてくれた。




 彼女の手を引いて隣室へ行くと。



 「少しお時間いただいてもよろしいでしょうか?」



 そう言って、パウダールームに篭ってしまった。


 「別に、俺に気を使わなくても大丈夫ですよー?」



 そう声を掛けたけど返事はなし。

 うーん、俺にはよく分からんが、女の子的には色々準備があるんだろうか。


 ある程度のものは置かれているはずだし、ディナーの準備が出来るころには出てきてくれるかな。





 「申し訳ありません、お待たせしてしまいました」



 しばらくしてパウダールームから出てきた彼女は。



 「綺麗だ」



 呆けた俺が思わずそう言うことしか出来ないほどに、美しかった。

 まるで女神か妖精か、と思うほどに。


 美しくカールした深紅の髪、赤みが引いてより一層際立った翠玉の瞳。

 病的な青白さに見えた肌も、口元に紅をさすだけで超絶美肌に見える。



 「殿方に、お見せできるような顔ではありませんが……」



 「いや、そんなことは絶対ありません!

 めっちゃ綺麗です!」



 彼女は見せられるレベルじゃないとか言うけど、何が不満なんだろう?

 みるみるうちに真っ赤なりんごのように染まった頬も含めて、もう全部がこんなにも綺麗なのに!



 「あ、ありがとう……ございますわ」



 目を合わせられずにぽそぽそとお礼を言う姿は、さっきまでの神々しい女神さまと違った印象で、年相応のただの女の子みたいだし。




 二人とも、なんだかお互いに緊張してしまって無言でテーブルセットに座る。


 ダイニングテーブルよりは小さめな、客室に備え付けのテーブルだけど、二人で食事をするにはギリギリ使えるだろう。

 それより、彼女との距離が近いことの方が……嬉しい。




 ディナーが始まると、食欲が無いと言っていた割には食が進んでいる。

 もちろん俺より盛り付け量は少ないんだけど、普通の女の子としたら妥当な量は食べられてるんじゃないかな?

 よかったよかった。



 「リリアーナさん、パンはどれにしますか?

 プレーン、くるみ、ハーブ、オレンジがありますけど」



 まだパンには手をつけていなかったからお勧めしてみる。



 「いえ、パンは食べられそうにないので、結構ですわ」



 「ちょっとだけでも食べてみませんか?

 残しても全然大丈夫ですし。

 ちなみに俺のオススメはオレンジです」



 この国や、その周辺でのマナーでは、食事を残すことは基本的にマナー違反だ。

 残しても一口くらいか、どうしても嫌いなもの、程度。


 だから彼女はパンに手をつけなかったんだろうけど……



 「半分くらいなら食べれそうですか? 1/4くらい?」


 「えと、半分くらいなら……」



 「じゃあ、どれがいいですか?」


 「おすすめの、オレンジをいただけますか?」



 オレンジのパンを半分に割って渡すと、ちょっと嬉しそうに笑ってくれた。




 特に会話が無くても不思議と気詰まりではなく、なんとなく心地よい雰囲気のまま食事を終えて、食後のワインとデザートを楽しむ。



 「あの……本当に、本当にありがとうございました」



 絶世の美女、才媛の名を欲しいままにするほど綺麗で頭の良い彼女が、視線をうろうろとさ迷わせながら必死に言葉を選んでくれている。

 それだけでかなり嬉しいんだよなぁ。



 「ユリウスさまのおかげで、とっても……くぅ」



 「……ん?」



 あれ、寝ちゃった?

 言葉を選んでたんじゃなくて、眠気が限界だったのか。気づかなくて、悪いことしたな。



 確かに、彼女はずっと気を張って生きてきただろうし、ここ最近の心労でまともにご飯も食べられていないようだった。

 ちょっとは安心して、いっぱいご飯を食べて、いっぱい寝る。


 よしよし、これで元気になってくれるかなー?




 椅子の背もたれに身体を預けて眠ってしまった彼女の身体を抱き起こす。


 そっと抱き上げると、まだ眠りが浅いからだろうか、俺のシャツを、きゅっと、握りしめたんだ。



 ……あたまが、ばくはつした。




 そのままそっとベッドに寝かせて毛布を掛けて、部屋から出てきた俺の自制心と理性を誰か褒め称えてくれぇ!!



 リリアーナさん、可愛すぎますって!!!







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― 新着の感想 ―
[良い点] いや、確かに彼女も可愛いけどよ。 オメーもかわいいよ!www
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