第1話 連続殺人事件
暗い街を歩く。絶望が待つ世界を歩く。私は友達と共に眠るべき場所を歩く。
私は常に2人きり。ネオン街の喧騒をBGMにして周囲を気にせずにミヤコと話しながら絶望の水底を歩く。
「ねぇアヤ、この街はもう慣れた?」
「水無水市に来て3年経つけど…まだ慣れないわね、この街は」
「やっぱりね、だってアヤはわかりやすいんだもの、答えなくても見てわかるわ」
ミヤコは微笑みながらそう言った。
「ミヤコとは長い付き合いだものね。隠し事は出来ないし嘘も付けないか。まぁ嘘も隠し事もしたことないけどね」
苦笑いをしつつこんな他愛もない会話をしながらネオン街を歩く。
「あっそうだアヤ。たまにはこういう所とか通ってみようよ」
そう言いながら路地裏を指さす。
「珍しいね、ミヤコがそんなことを言うなんて」
「いつもならずっと大通りとか通ってるじゃない?たまには裏道を使ってみてもいいと思うの」
「確かにそれもそうね。どこか行きたいところとかもないし、行ってみましょう!」
そう言って、私はミヤコと共に街の割れ目のような路地裏を歩いていく。足音は2つ、何も問題は無い。
「へぇ…路地裏って予想以上に不気味な雰囲気があるわね。ここで色んな人と肝試しとかしたら面白そうだね」
「ダメだよ、近所迷惑やらになったら面倒だし…」
「もぅアヤはこういう時になると周りのことを気にするんだから。まぁたまにはこういう時も周りなんて気にしないでみてよね」
少し会話が止まる。私が話を切り出そうとした時、ミヤコが先に話を切り出す。
「そうだ、こんな噂知ってる?」
「言ってみなきゃどんな噂か分からないじゃない。どんな噂なの?」
「今話題の殺人鬼の噂よ」
「肝試しからなんで殺人鬼の話になるんだか…知ってるわよ。たしか聖女様だっけ?細長い何かで35人の心臓を一刺しで殺しているんだよね」
「そうね、それだけじゃないわ。死亡した35人全員が何かに拝むような姿で発見されているじゃない?しかも35人全員の関係性はなくて唯一の共通点といえば夜の街を歩いているってことぐらいかしらね」
「そこも知ってるわ。ミヤコがそんな話題を挙げるってことは何かを知ってるわよね。あなた、何を知っているのよ」
「実は共通点ではないんだけどもう1つ特徴があるのよ。夜の街を歩いている以外の特徴が」
そう言うとミヤコは不思議な顔をして夜空を見上げる。
その瞬間、一筋の白い線が私の上空を翔ける。
「アレよ」
そう言って上空を翔ける一筋の白い線を指差す
「アレって流れ星だよね。たしか流れ星って幸運の象徴だっけ?」
「幸運の象徴でもあって不幸の象徴でもあるとも言われてるわね。知っているでしょう?流れ星の時に願い事を3回言うと叶うっていうアレ」
「もちろん知っているわよ。実際に叶った人もいるからそういうのが知られたんだよね」
「叶うんだ、知らなかったわ」
ミヤコは少し驚いた顔をする。
「じゃあなんで流れ星は不幸の象徴と呼ばれているのかしら?」
そうミヤコに尋ねるとミヤコは如何にもお任せあれという顔をする。
「流れ星が不吉な象徴だと言う地域は今でも存在するのよ?確か空にはいろんな人の星があって、それが落ちる事は命を落とすっていう考え方があったみたい」
「言われてみればそんな考え方もあったわね。マッチ売りの話にもそんな考え方が出てきたっけ」
「そうね。つまり流れ星って誰かの命と引き換えに誰かの願いが叶うってことになるのかもね」
「天然の願望器だなんて面倒なモノね」
私は少しため息をつく。
「話を戻すわ。殺された35人の内、26人が流れ星が流れた夜に殺されているのよ」
「そうなると…人気のない路地裏にいる私たちは殺してくださいって言っているようなものじゃない」
「察しが早くて助かるわ。けれど流れ星の方はたまたまなのよ」
後ろから知らない女性の声がする。
振り向くとそこにはフランスの民族衣装を着た金髪の右目隠れで旗を持った糸目の若そうな女性が立っていた。
「あなたは…誰ですか?」
私は警戒して問いながら彼女を見据える。
「人の名前を聞く時は自分から名乗るのが筋じゃないかしら」
「確かにその通りね、私は綾川よ。さぁ名乗ったわ。あなたは誰なのかしら?」
少し警戒を強くしつつ改めて尋ねる。
「あなたに名乗る名前かぁ…なんて言おうかなぁ」
「勿体ぶってないで早く言いなさいよ」
私はこの先の言葉を予想し、少しずつ後退りながら更に警戒する。
「今、巷で噂の聖女様と言えば…分かるかしら?分からないはずがないでしょ、さっきまで話してたんだから」
予想通りすぎて私は少し困惑する。
「……いつから聞いていたの?」
「まさか気づいていなかったなんて。あなたが入る所からよ」
聖女様は呆れた顔をしながらため息をつく。
「ところで質問が1つあるんだけどいいかしら?返答によってはあなたを殺害することになるけど」
私は驚かずにはいられなかった。その未来は知らない。
「えぇ良いわよ。どんな質問なのかしら」
「何故、私があなたをつけたことに対して気づかなかったフリをしたのよ。普通は警戒すると思うんだけど」
こんなはずでは無い。こんな未来は私は知らない。ヤツは一体何者なんだ。
「無防備みたいな感じだったけど、私なりに警戒してたのよ?」
私は更に後退る。逃げなければ命はないと私は思った。
「ふぅん…なんでそんなにおかしな顔をしているのかしら?まるで自分の計画が終わる直前に関係の無い者によって全て水の泡になった時みたいな顔をしてるわよ」
「えっ…」
そう言われて携帯端末の内カメラを慌てて起動する。そこには彼女が言った通りの顔をした私が映っていた。
「うそ…でしょ…」
「その様子だとほんとに気づいてなかったみたいね。今まで殺した人達と比べて1番面白い顔をしているわ」
聖女様はそう言いながら薄ら笑いをする。
「ねぇそろそろ質問に答えてくれないかしら」
答えたくはない。ここから逃げよう。家に帰らなきゃ。私はそう思い、一心不乱に路地裏の先へと逃げ出した。
「鬼ごっこ?良いわね、存分に逃げなさいな。すぐに捕まえてあげる」
私は聖女様の声も無視して走り続ける。右に曲がり、左に曲がり、沢山曲がり続けて少しずつ逃げていく。
「はぁ…はぁ…なんでよ!なんでこんな時に限って視えないのよ!」
私は走り続ける。喉が焼けるように痛いが、それでも走り続ける。
しかし、これ以上逃げれなくなってしまった。
「ウソ、行き止まり?なん…で…」
絶望に浸る。私はアイツが来ないことを祈るしかない。
「アヤ、大丈夫?まずは落ち着いて…ね?」
「うるさい!私はもう助からないのよ!ミヤコは黙ってて!」
「私が黙ったら落ち着いてくれるの?」
「うるさいうるさいうるさい!!!今はあなたに構っている暇はないのよ!」
そう言うとミヤコは喋らなくなった。
上がった息を整える。喉は今も焼けるような痛みが走っており、足は棒のように動かない。
「あら?もう鬼ごっこは終わり?つまらないわね」
頭上から声がする。私は声がした方向を向くと、6メートル程上にある壁に設置された室外機の上に座り込んでいる聖女様がいた。私は死を確信した。
「鬼ごっこはあなたの負けね、お疲れ様」
そう言うと、聖女様は室外機から飛び降り、音もなく綺麗に着地した。
「さぁもう一度聞くわね?何故、私があなたをつけたことに対して気づかなかったフリをしたの」
「だから私なりに警戒していたって言ってるでしょ!」
「ふぅん…シラを切るのね。まぁいいわ、理由なんて予想はついているし」
「あなたに私の何がわかると言うのよ!人を殺す事しか知らない殺人鬼のクセに!」
そう言った瞬間、聖女様は驚きながら眉間にしわを寄せる。
私は地雷を踏んだのだ。踏んではいけない破滅のボタンを。
「…………」
聖女様は無言で私を睨みつける。例えるならば今の彼女は餌を見つけて睨む蛇で、私は捕食者に睨まれた蛙だ。いや、この表現は間違っているかもしれない。人に踏み潰される直前の働き蟻が正しいかもしれない。
「そう、踏み潰させるのがお望みのようね。なら、要望には答えてあげない。あなたは私を怒らせたんだもの、徹底的に破滅してあげないといけないわね」
そう言うと聖書様は糸目を開ける。血のように真っ赤な瞳が私を睨む。その瞬間、全身に悪寒が駆け巡る。
「救済開始よ」
そう言った途端、聖女の周り…いやここ周囲に存在する見えない力が渦巻く。 彼女は私に向かって魔術を行使する準備をする。
「魂は原初に還り、肉体は土に還る。故に汝に生きる世界はない」
魔術の詠唱を始める。彼女の旗に周辺の見えない力が異常なほど大量に収束する。
「この旗に2つの死は結ばれ、汝に転生をも許されぬ真なる死を与えん」
私に旗の先端を向ける。殺害態勢に入ったのだ。避けなければ、そう思っても身体は動かない。
「汝の真死は此処にあり、我は死を与える処刑者なり。これより汝を執行する」
彼女は旗で私の心臓を貫く。不思議と痛くはなかった。
心臓を貫かれたのにも関わらずだ、何故か痛みは感じなかった。
「万物の完全救済」
そう言って聖女様は旗を引き抜く。それと同時に周囲に見えないゴミが溢れかえる。そこで私はゆっくりと眠っていく。
「良かったわね、ちゃんと眠るべき場所に来れたじゃない」
そう言って聖女様は肌に付着した血を元々赤いスカートで拭う。
聖女様は周囲を見渡す。
「やっぱり初代さん直伝の魔術はゴミが多くて面倒だわ」
聖女様はため息をつく。
「ほら、ミストパレス。魔素逆行の時間よ」
そう言って聖女様は旗を掲げる。周囲に溢れかえったゴミは次第に元の形である魔力へと戻っていく。まるで、先程の出来事は何もなかったかのように元に戻していく。
全てのゴミが元の姿に逆行し終えると、綾川と名乗った人物の身体を懺悔する時の姿にする。
「うん、やっぱりこれよね。こうでなきゃ救済完了とは言えないわね」
そう言って聖女様は路地裏から立ち去る。
しばらくしてネオン街にパトカーのサイレンが響き渡る。殺人事件が起きたのだ。犯行現場は路地裏の奥にある袋小路だ。恐らく追い詰められたのだろう。犯行現場には既に調査が始まっていた。そこに1人の男性が入る。
「山都警部、お疲れ様です」
現場を調査する警官の1人が話しかける。
「山都と呼ぶのは止めてくれと何度も言ってるだろう」
「失礼しました、御影警部」
そう言って頭を下げて謝罪をする。
「まぁいいさ。死亡推定時刻は?」
「はい、最後の生存確認情報が路地裏に入る直前で確認されています。その時の時刻は23:32です。入口から死に物狂いで走ってもここにたどり着くのには5分程かかりますね。そして通報時の時刻が24:00です。更に死体の状況からして死亡推定時刻は23:42辺りになってくると思いますね」
今までは死亡推定時刻から1時間以上かかって発見されていた。それが死亡推定時刻から通報まで30分を切ったのは今回が初めてだ。
「なるほど、魔力が使われた痕跡は?」
「魔素は一切確認されませんでした。ここで魔術は使われていませんね」
「なるほどな…」
「警部、1つ確認をよろしいでしょうか?」
「手短に頼むぞ」
「はい。私達、科学捜査第一課は魔術についての知識は全くありません。事前に説明はされていましたが、念の為、魔力と魔素について改めて確認しておこうかなと…」
「なんだそんなことか。科警は魔術に対しての覚えは悪いからな。いくらでも説明してやる」
「ありがとうございます。御影警部」
そう言って科警の下っ端は敬礼をする。
「まず、魔力は一言で言えば目に見えない原子だ。原子は勿論分かるよな?スイヘイリーベーボクノフネってやつ」
「もちろん原子は分かっております。常識ですので」
「その見えない原子を使って行われる現象が魔術だ。その現象で使われた魔力は魔素に変わるんだ。簡単に言えばエンジンを動かす事が魔術で、ガソリンが魔力、排出物が魔素だ」
「なるほど。では、魔素から魔力に戻る事はあるのですか?」
「それは魔術では不可能だ。出来るなら魔術ではなく魔法の域になる」
「魔法と魔術の違いとは?」
「魔術と科学では説明のつかない現象だな」
「魔法を使えるのは極僅かな者だけで、そいつらは例外中の例外だ。魔法を扱える者ひとまず置いておくとしよう。今回は関係ないからな」
「なるほど!よく分かりました!ご教授ありがとうございます!」
「わからんことがあったらまた聞けよ」
そう言って私は下っ端から離れ、死体へと近づく。
「心臓を細長いもので一刺し、そして懺悔をする時のようなポーズ。聖女様で間違いないな?」
私は合掌した後に近くに居る鑑識に尋ねる。
「恐らく間違いないでしょう。しかし、今回は前例とは少し異なりますね」
「少し違う?どういう事だ」
「はい。今までは心臓まで貫かれていましたが、今回は背中まで貫かれています」
「なるほど、今回は背中まで貫かなければならない事情があった。もしくは聖女様の機嫌が悪かったから…か…」
「私には分かりかねます。私は仕事に戻りますので、何かあったら声をおかけください」
鑑識はそう言って、仕事に戻る。
私は犯行現場をもう一度見渡す。
「前例とは少し異なる死体…しかし魔術は使われていない…細長いもので刺殺している…誰も犯行の瞬間どころか犯人の特徴すら知らない…私たち科警のエリート中のエリートである水無水市警察本部の刑事部科学捜査第一課でも追跡をするのも困難を極める厄介者…そいつを捕まえられず40人の犠牲者を出してしまう…これでは上の者への信頼も落ちて…上?」
ふと上を見上げる。そこには6メートル程上に壁に設置された室外機がある。
「誰か梯子を持ってきてくれないか?うんと長いのを、6メートル程のやつを頼む」
近くに居る警官にそう指示し、梯子を持ってこさせる。
しばらくすると、8メートルほどの長さの梯子を持ってきた。
「警部、持って参りました。して、この梯子をどこに設置すれば良いでしょうか?」
「あぁ、それはあそこに置いてくれ」
そう言って私は室外機を指差す。
「よくあんな物を見つけられましたね。あんな所に何かあるんでしょうかね」
「正直な話、俺も何があるか分からん。そこにあるからには調べておきたくてな」
そう言いながら梯子を登る。
室外機の真横までたどり着く。室外機の上には誰かが座っていた跡が残っている。
「これは…髪の毛?」
室外機の上には綺麗な金色の髪の毛が1本落ちていた。私は直ぐに写真を何枚か撮る。
「鑑識!登って来い!今すぐにだ!」
私は大声で下にいる鑑識に知らせる。
「今行きますので上に行ってくれませんかね!」
少ししてから鑑識が登り終える。
「これは…誰かがここに座った跡ですね。下から約6メートル上にあって、更に上にある足場はここから18メートル以上あります。ここに誰かが座るなんてありえませんね」
「それもそうだがよく見てみろ。風なんて吹いていなかったにも関わらずに髪の毛が落ちているのだぞ」
そう言いながら足で落ちている髪の毛を指す。
「割と新しめですね。ここに髪の毛が落ちているのも不自然ですね。一応DNA調べときますね」
そう言って鑑識は髪の毛を採取して降りてゆく。
「あぁ頼むよ。もしかするとこの髪の毛の持ち主が聖女様の可能性があるからな」
再び室外機の所に来る。ここの高さから周囲を眺める。
「しかし…梯子無しでやつはどうやって降りたのだ…飛び降りたにしてもここからの高さでは無傷では済まないし、魔素も検出されなかったから魔術も使っていない…受身をとるとしても中々キツイか?待てよ…聖女様は魔素を発生させずに魔術を扱えるとしたら…いやそれこそありえないか。それが出来たらやつは規格外の存在になるからな………いや、まさかな……」
「御影警部!いつまでそこに居るんです?そろそろ降りてきてください!」
下からの声で思考が阻害される。それも仕方がない。
「分かった!今降りる!ったく…邪魔しやがって…」
そう言って下まで降りる。
「上で何をされていたんです?」
「考え事だ。誰かさんのせいで真相まで辿り着けそうだったのに水の泡になったぞ」
そう言って鑑識を少し睨みつける。
「ははは…それはすみませんでした。反省します」
「とりあえず調べたいことは調べられたから俺は本部に帰る。引き続き調査を頼むぞ。それと髪の毛の検査結果は俺の所にも回しておくようにな」
私は軽く手を振って現場を去っていく。
路地裏を歩きながら私は月を見上げ口にする。
「聖女様め、いつか必ず捕まえて今までの罪を償わせてやる」
新参者のローレライターです。数多の作品の中から私の作品を見てくださり誠にありがとうございます。
小説を書くのは初めてなので読みにくいかと思われます。そこは初心者故見逃して欲しいです()
この作品は長期連載を前提としていますので続きは気長に待っていてください。
正直な話、前書きや後書きって何を書けばいいかわかんないです。
分からないことだらけですが、手探りで頑張っていこうと思います!