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引きこもりの彼と無職の私  作者: 梅丘泰芽
好きなものを好きという。
8/21

過去を切っては生きられない。

 彼氏との旅行で、萩の反射炉を見に行ったことがある。そこは小さな公園のようになっており、正直残念観光スポットに見えた。しかし、彼の胸には、とても刺さったようだった。嬉しそうに反射炉を動画で撮影していたのを覚えている。彼は歴史が大好きな人だった。「こんな人物のこんなすごいエピソードがあるんだ!」っといったようなものではなく、昔の人がどのように生きていたのかを感じ、私に語ることもなく、一人でかみしめるように楽しんでいた。

当時、私は歴史にそこまで興味があったわけではなかった。そんなことより、道の駅でおいしいお刺身を食べたかったし、どちらかといえば美術館なんかを回って、売店でポストカードなんかを買うのが好きだった。私たち二人の旅行計画はそんな二人の要望をかなえるため、なかなかにバランスのいいプランになっていた。



 最近になって食器にこだわるようになった。やめていった職場の先輩から譲ってもらった萩ガラスで白湯を飲むようになってから、器によって味が変わることを覚えた。一度、素敵な食器で食事をすることを覚えてしまうと、今まで使っていた簡素な食器が邪魔に思えた。なので、断捨離もかねて、いくつかの食器をフリマアプリで売りに出した。コンビニで、後ろに並ぶほかのお客さんの目線が気になりながらも、手早く手続きを済ませて、申し訳程度にコーヒーを二つ買って、公園に向かった。


 公園では、少年が私のショッキングピンクの炊飯器をもって、待っていてくれた。今日のジャッキーは機嫌がよさそうで、少年の足元で目をつむって伏せていた。

「ありがとう。少年。助かったよ。

 一応これ、お礼ということで。」

 私が話しかけるとジャッキーは耳だけをこちらに向けたが、すぐに元に戻った。私は、少年にコーヒーを渡し、炊飯器を受け取る。

「どうも。ところで、なんで炊飯器もって歩いてたんですか?」

「ちょっと断捨離をしていてね。コンビニに配送をお願いしようともっていったんだけど、キャンセルの連絡が来ちゃって、困っていたんだ。」

「そういうときって、袋か何かに入れませんか普通。」

「段ボールから、炊飯器だけ出したんだよ。ほかのキッチン用品は欲しいっていうからさ。」

「それどんなフリマアプリ使ってます?

 モラルとかルールがガバガバじゃないですか。」

「確かに、そうだね。次からは気を付けるよ。」

「ていうか。なんでピンクなんですか?」

「女の子だからさ。」

「ハラスメントになりますよ。」

「冗談だよ。

昔はそういうのが好きだったんだよ。今でも別に嫌いというわけでもないけどね。」

「年齢のせいですか?」

「ハラスメントだよ。」

「冗談です。

 その頃は、どんな感じのものが好きだったんですか?」

「浜崎あゆみの曲はよく聞いてたよ。」

「ハラスメントですよ。」

「えー、何ハラスメント?」

「『昔はやんちゃしてたんですハラスメント』です。」

「エグザイルとか?」

「そうですね。湘南も場合によっては入ります。

 広くいえばWANIMAとか、イエローなんちゃらとか、なんちゃら達磨も入ります。」

「広すぎないかい?少年は嫌いなの?」

「いや、かっこいいと思いますよ。っていうか結構好きです。」

「けど、ハラスメントなのかい?」

「その可能性もあるって話です。」

「なるほど、また一つ賢くなったよ。」

「お粗末様です。」


 少年の顔が少しくらい。少年はコーヒーをごくごくと喉を鳴らしながら飲んだ。かなり熱かったと、思うんだけどすごいな。少年の空気を察したのか、ジャッキーがのっそりと立ち上がる。少年が私の横を通り、公園を出ようとする。


「幻滅したかい?」


私は少年に聞いた。おそらく少年は昔の私の趣味に、勝手に何かの気配を感じたのだろう。


「少しだけ。」

「それはよかった。」

「意地悪ですね。」


 少年が怒っているのか、恥ずかしがっていたのかはわからないが、後ろから見た少年の耳はものすごく赤く染まっていた。ジャッキーは嬉しそうにご主人についていく。

最後のはよかったのか、悪かったのかわからないな。そもそも、私は少年に嫌われたいのだろうか。それとも、好かれたいのだろうか。そんなことに迷っている時点で、私の中での少年の存在は大きくなっていることは確実だ。自分の考えを整理しなければならない。

私は鼻歌で『M』を歌いながら、ショッキングピンクの炊飯器を振り回し、家に帰った。


読んでいただき、ありがとうございます。

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