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引きこもりの彼と無職の私  作者: 梅丘泰芽
好きなものを好きという。
6/21

ほどほどにこだわって生きていきたい。

 幼稚園の頃、私はビデオにかじりついて、白雪姫を見ていた。一通り見終わると、私主催の舞台が始まる。曲もかかっていないのに、私は一人ですべてのセリフをしゃべり、歌のパートもすべて自分で歌った。掛け合いの部分もあったが、気にせず全部一人でやった。家族の中に私とやってくれる人はいなかったが、別にさみしいわけでもなかった。



久しぶりに午前中に起きたので、部屋の掃除をした。私は整理整頓は苦手だったが、掃除は好きだった。特に、汚れのこびりついたコンロなんかをきれいにするのは大好きだった。本日の目標は部屋に一つだけある窓をピカピカに仕上げることにした。さっしの溝の部分も、もちろんほこり一つ内容にこそげだし、いよいよガラス本体に取り掛かろうとすると、時間はもう昼過ぎにかかっていた。ガラスに取り掛かるには、今の私の部屋の装備では心もとない。私は、近くの薬局に装備を整えに向かう。幅広のダメージジーンズに母のおさがりのセーターを着て出かける。薬局に出かけるのに70年代ファッションはあまりにも不釣り合いであったが、私が最近気に入っているスタイルなので構わない。今度、ソバージュみたいにパーマを当ててみようかと考えている。


「チェンさん、80年スタイルですか?」

薬局の帰りに、公園でブリトーを食べているところだった。おお、今日はちゃんとジャッキーがいるじゃないか。

「70年代だよ。少年。」

「どっちでもよくないですか?」

「全然違う。アン・ルイスと松田聖子ぐらい違う。」

「それは全然違いますね。」

「おお、人のこだわりをしっかり受け止めるとは感心だな。」

「自分はこだわり、あんまり大切にされたことないんで。」

「例えば?」

「オオタキとヤマタツとか。」

「高校生にその違いを求めるのは酷だろう。」

「あと、中島あきなときょんきょんとか」

「ムズイ、ムズイよ。高校生には、難しいよ。」

「でも、全然違いますよ。」

「いや、私はわかるよ。わかるけどね。あきなさんの方がかっこよすぎるのわかるけどね。」

「あと、早見ゆうと松本いよとか。」

「いや、それは私もわかんないよ。」

「まぁ、僕もそこの違いは分かんないですけど。」

「おお、急にブレーキかけるね。」

「けど、うちの高校はひどくて。いちご白書がまさしの歌だとかいうんですよ。」

「あー、それはひどいね。」

「あれは、バンバンの唯一の歌なのに。」

「えっ?」

「えっ?」

「いや、あれはユーミンのでしょ。」

「いやいや、チェンさん。悪いとこ出てますよ。」

「いやいやいや、少年。それはいけない。いけないよー。」

「いやいやいやいや、それは歌手への尊敬が足りてませんよ。」

「いやいやいやいやいや、あの歌詞を見てそのセリフはいただけないよ。」

「いやいや――。」

「うん、やめよう。少年。」

「あれ、僕のターンなんですけど。」

「これはあれだ。けんかになる。」

「もう、なってるつもりだったんですけど。」

「いや、ここまでなら私はじゃれあいの範疇だ。」

「うん、そういうの言ってくれるのは、ありがたいですね。」

「普段はわざわざ言わないけどね。」

「僕だけ、特別扱いですか。」

「まぁね。」


私はジャッキーを軽くなでる。ジャッキーはえらく唸っていたので、すぐに手をひっこめた。ご主人を特別扱いしてあげたのに、なぜ唸るんだ。

「これ、いる?なんか買いすぎたっぽくて。あんまんのお礼。」

私は、薬局の袋から、重曹を取り出して少年に渡す。

「いただきます。」

「マジで?」

 半分冗談だったんだけど。少年は大事そうに重曹を受け取った。これは、だめだ。注意しよう。よくない、大人になっている気がする。思い出せ。私は無職だ。


 少年に軽くあいさつをして私は公園を出る。家に帰って、窓ガラスを磨かなければいけない。午前中はやる気に満ちていたが、なんだか気がそがれた。窓ふきはほどほどにしておこう。そんなにこだわったら、エンジンのかかりすぎで、反動が怖そうだ。ほどほどにしておこう。やりすぎは体と心によくないからね。


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