生きるのに必要ないものほど手元に残る。
大学で一人暮らしをしていたころ、山椒の木を育てていたことがあった。ゴールデンウィークのころになると、実家から大きなタケノコが送られてきていた。昔は下の弟と一緒に父に連れられてタケノコを掘りに行っていた。うちの持っていた雑木林は誰も整えていないので、歩くのもひと苦労だった。弟は、探検でもするかのように楽しそうにタケノコを探していたが私は早く帰りたかったのを、覚えている。
私は送られてきたタケノコを半日かけてあく抜きをした。わたしは料理が好きではないが、長時間かける作業は嫌いではなかった。巨大なタケノコを汗ばみながら、一口大に切り分け、みそと大量の山椒の葉を入れてあえる。
それは、春とも夏ともいえる素敵な香りが口いっぱいに広がる味であった。スウスケはそのタケノコでビールを飲むのが好きだった。
「どうしたんですか、チェンさん。真剣に肉まん見つめて。」
「いや、タケノコはいってるなーと思って。」
「タケノコ嫌いなんすか」
「嫌いというか、酢豚に入ってるパイナップルがいや、みたいな。」
「アイドルに公式お兄さんとか言われてる芸人がいや、みたいな感じですか。」
「なんかわかりづらくなってるよなそれ。私、結構わかりやすいたとえしたよね。」
「普段好きなアーティストが、テレビでアイドルとコラボしてるみたいな。」
「少年。それは君がアイドルを嫌いなだけだろう。」
「普段は大好きなんでよ。けど、いつもと違うことされるとさっと心が離れていくというか。ライブ言ったら、有名な名曲をめっちゃアレンジして歌ってるのとか、すごく残念な気持ちしませんか。」
「ああ、近所の中華屋でいつものチャーハン頼んだら、えらくごつくチャーシュー入ってたみたいな。」
「サービスじゃないですか。」
「いや、私が食べたかったのは、安っぽいチャーハンだったのにーみたいな」
「ギャグ漫画として、大好きだったのにバトル漫画に移行されたみたいな。」
「回転ずし来てるのに、相手がラーメンと揚げ物で腹膨らませてるみたいな。」
「ベスト盤かったのに、有名曲がアレンジされてるとか」
「少年、それは使いまわしだ。」
「にやにやしながら言わないでください。」
「いや、楽しいなと思って。」
「いい女ぶらないでください。」
「失礼な奴だな。」
「がっかりするときって、期待してるってことなんですかね。」
「まぁ、勝手だと思いつつも、うっかりね。」
「また一つ人が嫌いになりそうです。」
「まったくだ。」
少年は袋いっぱいのピザまんやあんまん、肉まんをもって、立ち上がった。袋がはち切れそうなぐらいのあの肉まん軍はどこで買ってきたんだろう。
「あんまんいりますか」
少年は袋から一つ取り出し私の前に差し出した。
「ありがとう。もらうよ。」
少年は公園から出て行った。そういえば今日はジャッキーがいなかったな。
私もあんまんをかじりながら、家に帰る。私は家に帰ったら、ベランダにほったらかしてある植木鉢を捨てることに決めた。