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引きこもりの彼と無職の私  作者: 梅丘泰芽
好きなものを好きという。
4/21

生きていくのに必要なものは意外と少ない。

親戚に怖い叔父がいた。うちの家系は代々、女は酒に強く男は酒にめっぽう弱い。その中でも叔父は飛び切り酒に弱く、正月の親戚の集まりでは一人でキッチンを切り盛りしていた。


叔父は街のレストランで働いているらしく、うちの正月の料理の味は、素朴という文字からかけ離れたものだった。しかし、その品目に気取ったものはなく、つくだ煮や昆布巻きなど正月の気分を壊さない素晴らしいものだった。


叔父は料理の合間にたばこを吸った。幼いころに体に悪いよと母が言っている言葉をそのまま叔父に行ったことがあった。

「いいものばかり体に入れてたんじゃあ、バランスが悪くなっちゃうよ。

俺は酒が入れられないからね。」

叔父は幼い私に表情を変えずにそういった。幼い私にとって、表情を変えずに話す大人は見たことのない生き物であったので、私は叔父がとてつもなく怖い生き物に見えた。


叔父の料理は丁寧な味がした。自分で料理をするようになってから、気が付いたのだが、材料をただ煮込むと崩れるらしい。

六畳半のキッチンで、ボロボロでぐずぐずになった茄子の揚げびたしを眺めて、叔父を思い出した。夜中だが、食後にコーヒーが飲みたくなったので、コンビニに出かけた。


たばこを買ってしまった。吸ったことはなかったのだが、つい叔父の事を思い出した弾みで買ってしまった。そういえば、大学の時の彼氏が吸っていたような気もするが、彼は私の前では吸わないようにしていたらしいので、私にとってたばこのイメージは叔父である。特に罪悪感はないが、昼間にビールを買った時ほどの興奮はない。しかし、誰かに買ったことを話したくはあったので、夜中に公園に立ち寄ってみた。


少年はベンチに座っていた。夜中なので、さすがにジャッキーはいない。

そろそろ夜は肌寒くなってきたのだが、少年はTシャツを着ている。そういえば、なぜ彼は出会ったときにパーカーを着ていたんだろうか。


「やぁ、不良少年」

「どうも」


彼の隣に座る。


「どうしたんだい、こんな夜中に」

「チェンさんこそ危ないですよ。」

「大人はそれなりに対処法を心得ているから大丈夫なんだよ」

「ずるいですね」

「大人は悪いほうが若者は気分よく怒れるだろう」

「煙草もその一環ですか」

「ばれてたのか」

「レジ袋にパッケージが写ってますよ。」

「君はよくみてるね」

「吸うんですか」

「いや、ちょっと衝動的に買ってみただけさ」

「リストカットと同じやり口ですね」

「そうだね。そうかもしれない。私は血が苦手だしね。」

「元カレにでもあったんですか。」

「いいや、料理人の叔父が吸っていてね。

久しぶりに料理をして失敗してその人のことを思い出したんだ。」


「亡くなったんですか。」

「いや、バイクで事故しただけで、奇跡的に無事だったみたい。」

「よかったですね。」

「あの人の焼いたうなぎが食べられないのかと思ってヒヤッとしたよ。」

「ウナギまで焼けるんですか。」

「自前の七輪でお盆に焼いてくれたりしたんだ。」

「素敵な人なんですね。」


突然の素敵発言に驚いて会話を止めてしまった。私は叔父を素敵な人だと思っていたのだろうか。


「どうぞ。」


少年は私にライターを渡してふらふらと公園を出て行った。

私は茫然としたまま家に帰った。

私は別に素敵な叔父が事故をして心配していたのではない。

自分の知り合いがいつの間にか死ぬ可能性があることを認識して、自分が死ぬことにビビってしまったのだ。無職で、これから生きていくこともままならないのに、死ぬことをおそれてしまったことがショックだった。


家について、キッチンを素通りして、ベランダでたばこに少年からもらった100円ライターで火をつけてみた。1本目はせき込んで苦しくって仕方がなかった。2、3本続けて吸った。3本目を吸う頃には、普通に吸えるようになった。悪くない気分だった。

少年はなぜ、ライターを持っていたのだろうか。やっぱり不良少年なのだろうか。

湧き出た疑問を私は煙を深く吸ってごまかした。考えてはいけないことな気がした。


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