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玉座は暖かい光が優しく差し込んでいるように感じる。玉座奥、そこに一人の男性が座っている。
その横に一人の男性が控えていて、よく見るとルトさんであった。一人急いで先にきていたのだろう。
息を荒げたルトさんを想像すると笑いが込み上げてくる。まあ、ルトさんのことだ、そんなことはなく急いだところで息を切らすこともないのかもしれないが。そんなことを考えながら、一歩また一歩確実に進んでいく。
必死に他のことに意識を向けようとしていたが、座っている老人の顔がはっきり見えてきて、現実に戻される。威厳のある顔つきをしている。一番初めに目に入ったのは、服装。王様というので金色とか赤色とか目立つ服装を着ていると思ったがそれほど目立つ服装ではなかった。
とういうより地味と言った方が近い。ちょっと拍子ぬけしたが、そんな思いはすぐ打ち消される。髭は真っ白で肩近くで整えられており、顔も整っていて気品を感じる。そして目だ。優しさも感じられるが、力強い眼光。何かを見据えた眼。ただ、一瞬その奥に小さなブラックホールのようなものも感じられた。じっと見ていたら気圧されてしまうだろう。
王様はなにやら後ろの方に目配せをした。僕の後ろの方で足音、そして少し経って扉が閉まる音がし静かになる。どうやら傭兵たちが出ていったらしい。ただ、クラフトだけは残っている。
「よく来てくれたな。クラフト。ディグニ。そしてビスよ。」
身が引き締められる。とうとうこの時がきてしまう。固まっているとクラフトも、ディグニもお辞儀をしている。僕も慌てて二人の真似をしてお辞儀をする。ルトさんがクスッと笑っている気がする。
「クラフト。此度のレーグル王国での任務御苦労であった。長旅であっただろう。」
「はっ。有難きお言葉。恐悦至極に御座います。」
クラフトはディグニと軽口を交わしていた時と雰囲気が違う。
「来てすぐで申し訳ないが席を外してくれないか。別件があってな。」
王様は僕を一瞥したように感じた。
「畏まりました。」
クラフトはそういうと玉座から出ていく。
「さて、ディグニ。早速で悪いがビスのこと聞かせてくれ。」
「はっ。」
ディグニはプロウバの森で起こったことをすべて話した。フードを被った者に襲われたこと、僕を見つけたことを事細かに。僕を見つける前に誰かと戦闘になっていたこと初耳だった。
「そうか。大変であったな。それでフードの者の正体の予想はつくか。」
「申し訳ありません。相手が予想以上の手練れで手持ちの武器では歯が立たず、手がかりを掴む余裕がありませんでした。ただ、手の甲になにやら文様が掘られていました。」
「ディグニでも手こずる相手か。ふむ。そやつについてはこちらでも調べておこう。」
そういうと王様はルトさんに耳打ちをする。そのあと、ルトさんも何か言い返していた。
王様は一瞬不満そうな顔をしたが、すぐに元に戻る。
「ふむ。ではビスお主について聞かせてもらおう。」
「王様。実はこいつは・・・」
「私はビスに聞いている!」
王様はディグニを窘めるように言葉を発する。
「おや、ディグニ様。王には言わないのですか。」
ルトさんがディグニをからかう。ディグニはルトさんに何か言いかけたが「おい、止めぬか。」と王様がルトさんに向かっていうとその言葉を飲み込む。
そしてこちらに向き返り、王様はジッと僕を見つめる。小さかったブラックホールが大きくなったような気がした。僕は勇気を振り絞って王様の眼を見て答える。
「も、申し訳ありません。ビスという名前以外覚えていません。なぜあの場所にいたのかも、それ以前にどこにいたのかも。」
声が震えている。この場に相応しい言葉がわからず、なるべくディグニたちの言葉遣いを真似をする。また、ルトさんに笑われていると思って彼の方を見たが、ニコッとしてすぐに真顔に戻る。
いままでの笑い方とは違う。
「そうであったか。それはつらかったであろう。記憶が一日でも早く戻るようこちらも善処しよう。」
王様の眼に宿っているブラックホールは元の大きさに戻った。ほっとする。熱が少しずつ引いていく。いつの間にかルトさんは王様の横からいなくなっていて、耳元で「よくやりました。」と聴こえ、そのあとドアが開く音がした。「はあ、あの人はまったく。」小声でディグニが何か言ったあと僕の頭をポン、ポンと二回叩く。心臓が嬉しそうに小刻みに動く。自然と顔も緩んだ。
「では、この件は終わりだ。」
王様がそういった瞬間バンっと扉が開く音がした。