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扉を開けると、両隣に傭兵が何人かならんで立っていた。一糸乱れぬ動きで傭兵たちは構えていた槍で一斉に地面を押す。カンっと金属音が響く。
「おう、きたな。ディグニ。王様がお待ちだ。」
「お久しぶりです。クラフトさん。いつもいつも、騒々しい歓迎ですね。」
「まあ、そういうなよ。こういうしきたりなんだよ。」
クラフトと呼ばれた大男は、筋肉達磨みたいだ。ディグニとはそれなりの仲らしい。ただクラフトは僕を一瞥もしない。気付いているはずなのに。
「はははっ。クラフトさんは真面目すぎるんですよ。もうちょっと気楽でいいと思うですけどね。それよりいつ戻られたんですか。」
「んっ。ああ、昨日だ。任務でレーグル王国に行っていたんだ。」
一瞬空気が張り詰めた様に感じたが何事もなかったように話始める。
「そうでしたか。様子はどうでしたか。」
「ああ、平穏そのものだ。異様なまでにな。トップが変わったっていうのに、こういうもんなのか。」
「前の王様に嫌気がさして内心喜んでいるのか。それとも必死に怒りを堪えているか。どちらにせよ、今後の対応次第でいい方にも悪い方にも転ぶでしょう。まだ、様子見と言ったところだとは思いますけど・・・」
「そ、そうか。俺はあまり頭がいい方ではないからな。策をめぐらすのはお前や王様たちに任せるよ。体を使う方は俺に任せろ。はっはっは。」
「力仕事もそうですが、クラフトさんの判断力、勘のよさには恐れ入りますよ。」
クラフトとディグニはその後も何か話し続けていた。ただ、僕の耳には届かない。
「もうすぐ着くぞ。階段を登ったらすぐだ。」とディグニの声がかすかに聞こえた。
一歩一歩階段を上がる。後ろから傭兵の足音が聞こえてくる。そういえばルトさんはどこにいったのだろう。いつの間にかいなくなっている。まあ、そんなことはいいか。一体どこまで進んだんだろう。長く、長く感じる。階段の前に立った時は上の階の扉も見えていた。
クラフトが前にいるから前が見えない。目的地に近づいているかすらわからない。心臓が休まず血を送る。それも張り切って血を送り出す。周りの音がかすかに聞こえる。ドクン、ドクン。僕の出す音は周りに聞こえているのだろうか。逃げ出したい。ふっとそんな考えがよぎる。ダメだ。そんなこと考えちゃ。頑張るっていったんだ。長く感じた時間もそろそろ終わりを告げる。
「おい。着いたぞ。」
ディグニの声がする。目の前の扉は馬鹿でかく異様な雰囲気を放っているようだった。