2-1 モーヴェ王
「おい、着いたぞ。」
どうやら寝ていたらしい。ディグニが乗ってきた馬に一緒に乗ってきていたが、心地よい風にのせられてうたた寝してしまった。
「うわー!」
目の前には、そそり立つ壁があった。僕は、馬から降りて門に近づいた。
「あぶない!止まれ!」
彼の声で足を止めた。下を向くと水堀があり、危なく落ちるところだった。それまでの道が
上り坂であるのと王国を覆う壁を見ているあまり気付かなかった。
「はあ。良かった。おーい。俺だ。開けてくれ。」
彼は、小さくなにか呟いた後に、壁の向こうに聞こえるような声で叫んだ。すると、壁の方から橋が降りてきて門までの道ができた。
駆け出したい気持ちがあったが、さっきのことを思い出し、ディグニのほうをちらっとみた。
「ふふっ。俺の後ろをついてこい。あまり離れるな。」
彼の声色は優しいが、どことなく緊張感がある。気持ちをぐっと抑え、ディグニに従った。
門に近づくと一人の男が立っていた。
「おう、英雄のディグニのお帰りか。」
彼は、おチャラけているように感じた。
金色の髪の毛がそれを助長している。
それに風が吹いているのに彼の髪は揺れてすらいなかった。
「ハウ、何度も言ってるだろ。その言い方はやめろ。」
いままで聞いたことのない彼ドスの効いた声だった。
「すまん、すまん。それより休めたか。
最近任務ばかりで休む暇もなかっただろう。
・・・無理だったか」
ハウ、ディグニに聞いたが、
僕の方を見てディグニの言葉を聞く前になにか悟ったらしい。
「いや、まあいろいろあってな。」
ぼくがいるからかディグニは、
差しさわりない言い方で言葉を濁し詳しい内容は言わない。
「ディグニは、引きが強いな。まあ、いいのか悪いかわからないがな。」
ハウは、そう言いながら大笑いしている。
「お前なぁ。他人事だと思って・・・」
このやりとりを見ているとディグニとハウの仲の良さが伺えるようだった。
見た目が真逆なのにとも思ってしまったが。
「ああそうだ。それより王様がお呼びだぜ。
どんな用なのかは知らされてないが
とにかく急いだ方がいいかもしれないぞ。あの王様のことだ。
もしかしたら、その坊主のことかもしれないからな。」
「それを早く言え!ビス馬に乗れ、急ぐぞ。」
ディグニは、あまり表情を変えないが、
この時は顔の血の気が引いているように見える。
こんなにディグニのいろいろな表情が見られるなんて。
「坊主またあとでな。」
ハウがそう耳打ちしてきた。
「ビス。何ニヤニヤしてるんだ。今から王様に会いに行く。気を引き締めろよ。」
「は、はい。」
ハウにいじられた鬱憤を僕の方に向けられた気がして何かモヤモヤする。
そんな気持ちも他所に城へと向かっていく。