10-1 真実
「やっと終わったか。ペル、ツァール様の様態は?」
「今は眠っていますが、命に別状はありません。」
「よかった。とにかく安全なところに移そう。そしたら、俺は町に向かう。」
「わかりました。ただ、せめて傷を治させてください。それからです。」
僕はみんなのもとに向かう。
「ペル、僕がやるよ。魔力沢山使ったでしょう。」
僕は何でもいいから役に立ちたかった。
「そうですか。それではお願いします。ディグニ様もよろしいですか。」
「ああ、ビス。頼むよ。」
ディグニに魔法をかける。なかなかの重症だ。それに今回は頭。気を引き締めなきゃ。
「ヒール」
慎重に治していく。僕が治療している間シェーンはペルに抱き着いていた。
治すのに結構時間がかかってしまった。
「終わったよ。どう?」
「ああ、大丈夫だ。ありがとうな。」
そういうと、ディグニはツァールを抱え移動を始める。
「どこに連れて行くの?」
「ツァール様の部屋に連れて行く。」
部屋に向かう途中町の様子が見えた。
少しだけ火の勢いが強まっているように見える。
クラフトたちは無事だろうか。
「ビス。外を見てないで。はやく行くぞ。」
「う、うん。ごめん。」
僕はディグニたちを駆け足で追う。
部屋に着いてディグニがツァールをベッドに下ろした。
「じゃあ、ペル。後は頼んだ。」
「待って。僕もいく。役に立ちたいんだ。」
間髪入れずにディグニが答えた。
「ダメだ。はっきり言って足手まといだ。」
ディグニの言葉が突き刺さる。
「でも、僕は・・・」
「でもじゃない。諦めてくれ。ペルたちとツァール様を守ってくれ。な。
それに鎮圧が済んだら大勢怪我人が出ているはずだ。それまで力を温存して欲しい。」
ずるいよ。体よく理由をつけて僕を危ない場所に行かせないようにしている。
僕はまっすぐディグニを見る。
「わかったよ。絶対帰ってきてね。どんな怪我をしていようと僕が治すから。」
ディグニは柔らかい笑顔を浮かべていた。
「ああ、頼むよ。」
「いっちゃったわね。」
「僕はてっきりシェーンもいくって言いだすと思ってた。」
「私も行こうとは思ったわよ。でも、さっきの出来事を思い出しちゃって声が出なかったの。
情けないわ。まだ、震えが出てくる。ビスに偉そうなこと言ってたのに。
戦うことが怖くなっちゃった。身近にいた人がいなくなるのはこんなに来るものなのね。
それがどんなに嫌われていた相手でも。」
ツァールが言っていたことが徐々にわかってきた。
ああ、シェーンは優しいな。僕は、僕は、フィロの首が落ちた瞬間ざまあ見ろって思っちゃった。
「下向いてどうかしたの?」
「ううん。何でもないよ。」
「ペルも大丈夫?」
シェーンの言葉で僕はペルに視線を向ける。
「ええ、ただ、ちょっと、魔力を使いすぎてしまったみたいです。少し休めば大丈夫だと思います。」
「んんっ。」
「ツァール兄様⁉」
ツァールが起きたみたいだ。
「シェーンか。無事でよかった。」
ツァールが部屋をキョロキョロしている。
「ペルもビス君も無事か。ディグニはどうした?」
自分のことより他人を心配している。
「ディグニ様は町へ向かわれました。」
「そうか。ディグニも無事であったか。…フィロは?」
問いにくそうにツァールは声を出す。
「死にました。ディグニ様が首を落として。」
「そうか。」
喜びとも悲しみとも言えない声。
ただ、僕にはわからない感情だった。シェーンがベッドの近くにいく。
「ツァール兄様。ごめんなさい。私、私。フィロ兄様を説得しようとしたの。
でも、聞いてくれなくて。どうすればよかったのかな。わからなかった。
いつもなら、策が頭に浮かぶのに、フィロ兄様に改めて拒絶されて頭が真っ白になっちゃった。
私、ツァール兄様をぶったたく資格なかったみたい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
シェーンは壊れた様に謝っていた。それに後ろ姿でもわかるぐらい泣きじゃくっていた。
そんなシェーンをツァールは優しく抱きしめていた。
「シェーン。大丈夫。大丈夫だ。誰も責めたりしないよ。
それに私もフィロの説得をしたんだ。それでも、聞き入れなかった。
誰が何を言おうと同じことだったと思う。だから自分を責めるな。シェーンはよくやったよ。」
段々とシェーンが落ち着いてくる。僕はこの隙に抜け出そうとした。
「ビス君もシェーンを守ってくれてありがとう。」
振り返らずに答えた。
「ううん。僕は何もしてないよ。」
「行くんだね。」
「うん。止めても無駄だよ。決めたんだから。」
「そんなつもりはないよ。ただ言わせてくれ。
不甲斐ない王に代わって国民を助けてくれ。頼む。」
重い言葉。ひどいものを背負わされた。
いや、背負ったのはツァールも同じか。
そんなこと言わなければいいのに。僕なんかに頼んじゃって。
「うん。わかったよ。」
「ぐすっ。ちょっと待って。私もいく。」
「大丈夫?目腫れてるけど。」
「言ったわね。あとで覚えてなさいよ。」
いつものシェーンに戻っている。
「シェーンもいってくれるのか。二人とも頼んだぞ。」
「うん。」「ええ。」
僕たちはディグニたちのもとに向かう。
「いつから行くって決めてたの?」
「ディグニに行きたいっていってから変わってないよ。」
シェーンは口をあんぐり開けていた。」
「驚いたわ。」
「へへっ。僕隠すのうまくなったでしょ。」
パシーン‼
「調子に乗らないの。」
 




