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ヒレイスト物語  作者: 瑛
第2章 ”別れ”と
36/176

8-5

 僕は両手一杯に袋を垂らしていた。

 両手の指一つ一つに袋の紐をくくりつけている。

 そのせいか全部の指が引きちぎれそうになった。


 シェーンとの買い物が終わって城に戻るとディグニたちと会う。

 シェーンはすたすたと先に言ってしまっている。

 少しは持って行ってくれたらいいのに。



「ディグニ、クラフト、助けて。一人じゃ大変なんだよ。」



 ディグニたちが駆け寄ってきてくれた。



「どこに行って来たんだ?それにその量、何をそんなに買ってきたんだ?」



「シェーンと町に買い物に行って来たんだ。半ば強引に。

 これは、シェーンの服とか本。」



 そういって改めて気付く。

 ぼくのモノはこの持っているモノの中にないと。一つを除いて。

 ディグニとクラフトの方を見ると苦笑いした。



「それはさぞ、大変だっただろうな。どれ俺も持って行こう。」



 そういってほとんどクラフトが持ってくれる。



 僕の手に残ったのは一袋だけだった。

 それでもクラフトは軽々持ち上げていた。





 シェーンの部屋に荷物を届けると、

「遅いわよ。」と言われてしまった。そりゃないよ。

 何か言い返したかったが疲れて声がでなかった。



 そのあとは、みんなで食堂に向かう。

 食堂に着いてしばらくすると頬を腫らしたツァールがやってきた。



「待たせて悪いな。さあ、みんな遠慮なく食べてくれ。」



 シェーンは気まずそうでツァールと目を合わせないようにした。



「ペルフェット、お前も座って一緒に食べよう。」



 ペルの方に目をやると、シェーンの後ろに控えていた。



「いえ、私は・・・」



「いいから、今日お前は使用人ではなく客人だ。

 それとも、私のおもてなしは受けてはくれないのか。」



 ペルは諦め、シェーンの隣の席に座る。



「わかりました。でも、今日だけです。それ以降は勘弁してください。」



「あははっ。わかった。わかった。」



 楽しい夕食の時間はあっという間に過ぎていった。




 夕食後はそれぞれ部屋に戻る。

 僕も戻ろうとした時、ツァールに呼び止められる。



「ビス君。ちょっといいかな。」



 僕は振り返った。



「話をしたいんだ。いいかな。」


 やることもなかったので僕は「うん。」と答えた。





 バルコニーに連れて来られる。



「今日はありがとう。シェーンの相手をしてくれて。」



 シェーンと出かけていたことを知っていたみたい。



「シェーンとの買い物は疲れただろう。

 傭兵から沢山荷物を持って戻ってきたと聞いたよ。」



 正直に答える。仕草も足して。



「うん。疲れたよ。」



「あははは。ビス君は正直だな。」



 ツァールは頬に手をやって話を始めた。



「これなぁ、シェーンにやられたんだよ。

 兄なのに情けないよな。妹にビンタされるなんて。」



 何だかうまく言えないが、僕に似ているなと思ってしまった。



「ああ、済まない。話したいことはこのことじゃないんだ。

 その、シェーンのことどう思う?」



「どう思うって・・・うーん、強いと思うよ。しっかりしているし。」



「そうか、君もそう思うか。」



 ツァールは僕を見ずに遠くに視線を送っていた。



「シェーンは確かに強いよ。おそらく私よりも強いだろう。

 それにしっかりしている。ただ、シェーンにも弱いところはある。

 うまく隠してはいるがな。私は優しい、優しいなんて周りに言われているが、

 本当に優しいのはシェーンの方だ。人一倍他人のことを考えている。


 だからこそ、弱い部分があるんだよ。

 今はまだ、ビス君には見せていないと思うけどね。あの子はうまく隠すから。」



 僕が何も言わないから、不安に思ったのかこちらを向いてくる。



「あー。何が言いたいかというと、ビス君、

 君が何かあった時はシェーンを守って欲しい。

 そばにいてやるだけでもいいから。」



 僕は疑問に思う。僕のほかにいるし、ペルの方がいいんじゃないかとも思う。



「なんで僕?ペルもいるし、ディグニ、クラフトもいる。

 それにツァール、様もいるじゃないか。」



 僕はツァールの名前をいうのに詰まってしまう。



「ははっ。ツァールでいいよ。なんでだろうね。

 私には君にしかできないと思ったんだよ。



 ほら、買い物に連れて行ったのも君だし、

 シェーンは君といるとなんだか小さい頃に戻っているようで、懐かしいんだ。

 年上にはさらけ出しにくいこともあるしね。」



 それの何が関係あるのだろうかさっぱりわからなかった。



「頼めるかな?」



 僕は自然と口を開いていた。



「うん。」



「よかった。ありがとう。頼んだよ。」



 僕たちはそのあと少しだけ空を見上げた。



「それにしても、シェーンは何であんなにガサツになっちゃったんだろうな。

 それに力も強くなって、怖いったらありゃしないよ。」



「そうなんだ。買い物を行く前だって部屋の扉を思いっきり開くし、

 しまいには、僕の腕を引っ張って引きずっていくんだ。

 腕に跡も付いちゃったし、もうとれたかな。」



 さすがに跡はついてないだろうと思って腕を見て見たがまだついていた。



「ははは。それはひどいな。」



「そうなんだよ。それに僕の頭をパシーンって叩くんだよ。

 痛くて痛くて仕方ないよ。」



 僕たちはしばらくシェーンへの愚痴をいい合っていた。

 ツァールもいろいろ溜まっていたようだ。

 モーヴェ王国にいた時にいろいろあったのだろう。




 シェーンへの愚痴を吐き切り、バルコニーでツァールと別れて部屋に戻る。



「ディグニ、ただいま。」



 返事がない。部屋を見渡すと、ディグニはすでにベッドで寝ていた。

 そんなことは初めてかもしれない。

 僕は音を立てないように移動してディグニを起こさないように気をつけた。

 いつも通りお風呂に入り、ベッドに潜り込む。




 僕はすぐに意識を手放した。

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