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「おっ。目が覚めたか。」
パチパチと木が弾ける心地いい音といい香りがお腹をくすぐる。ゆっくりと身体を起こす。
目の前には、三十代前半ぐらいの男が座っていた。
「………」
起きたばかりで声がうまく出ない。男は眉をひそめ、顎を撫でている。
「まあ、起きたばかりで声が出ないか。ゆっくりでいいぞ。焦らなくていい。」
ゆっくりと諭すような口調で男はそう言った。
「まずこれでも食って精をつけろ。まあ、ありもんで作ったから質素なもんだが。」
焚火でお粥をつくっていたらしい。恐る恐る口にした。
「………美味しい。」
か細く声が出た。いつの間にか空になったお椀を前に出していた。
「はっはっは。誰も盗ったりしないからゆっくり食べろ。」
彼はそういいながら、お粥をわけてくれた。顔の温度が上がるのを感じ、下を向く。
「ありがとう。」
「おう、どういたしまして。」
お粥も食べを終え、男は話を切り出した。僕は身を固くする。
「俺は、ディグニ・ダット。モーヴェ王国で傭兵をやってる。今日は仕事が休みだったからそこのプロウバの森で休息がてら訓練をしてたんだ。そしたら、君が倒れていた。なにがあったんだ?」
「………ごめんなさい。名前以外何も覚えていないんだ。」
ちらっと彼の方を見たが、表情はあまり変わっていなかった。表情が読めず息をのんだ。
一呼吸おいて彼は言葉を発した。
「まだ、混乱しているのかもしれないな。そのうち思い出すだろう。とりあえず名前だけでも教えてくれるか。」
どことなく上の空の様な感じがした。
「ビス」
「ビスか。いい名前だな。」
社交辞令とわかっていても悪い感じはしない。その後、ディグニが仕事の話を聞かせてくれた。自慢話じみていたが、聞いていて飽きなかったし、苦痛でもなかった。彼の話を聞いているうちに日が昇り始めている。
「もう朝か。少し横になったら、モーヴェ王国に向かおう。さすがに距離があるからな。」
そういうと彼は、寝袋を取り出し、横になる。辺りは静かになり、焚火の音さえもしなくなった。
なぜだろう。温かいはずなのに。明るいはずなのに。
洞窟の中、ポツンと一人立っているような感覚に襲われた。