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ヒレイスト物語  作者: 瑛
第2章 ”別れ”と
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7-2

そこには、シェーンとペルが立っていた。僕たちは馬から降りる。


「遅かったわね。待ちくたびれたわよ。」


「なぜここに⁉それにその装備。」


「私も連れてって。」


「無理です。今すぐ城に戻ってください!ペルフェットがいながらなんで。」


ディグニはペルに視線を向ける。だが、ペルは口を噤んでいた。


「ペルは悪くないわ。私が勝手に着いてきたの。」


「そうでしたか。それではシェーン様今すぐ城に戻ってください。」


ディグニは、淡々と言う。


「嫌よ。私も連れてって。」


ディグニとシェーンは視線をぶつけ合う。

二人の時が止まっているかのようだった。



「なっ⁉」



沈黙を破ったのはディグニだった。急に声を出すものだから、シェーンとクラフトは驚いていた。

ただ、僕は驚かない。見ていたからだ。ペルがディグニに目では見えないくらいの小さな光を飛ばすのを。その光が頭に吸い込まれた瞬間ディグニは奇声を発した。


「どうかしたの?」


「いや、ちょっと虫がいたもので。」


「虫ぐらいで騒ぐなんて情けない。それよりわたしもついて行くからね。

ダメって言われても後ろに着いて行くから。」


しばらくディグニは下を向き、顎を触っていた。


「はあ、わかりました。ただ、これだけは覚えていてください。

レーグル王国に遊びに行くわけではありません。あなたを一人の傭兵として接します。

突然何者かに襲われる可能性があります。その時は自分の身は自分で守ってください。

絶対に誰かが助けてくれるなんて思いは捨ててください。いいですね。」


ドスの効いた声がシェーンに向かう。


「わ、わかったわよ。」


腰につけている剣に手をやっていた。


「クラフトさんもそれでいいですか?」


「ああ、この小隊のリーダーはお前だ。

王様にも今回はディグニの指示に従ってくれと言われてしまった。

お前を信じるよ。ただ、疑問に思ったことは言わせてもらう。」


「ありがとうございます。少し遅れました。急ぎましょう。」


シェーンが僕に近寄ってくる。


「挨拶していかないなんてひどいじゃない。」


僕を小突いてくる。


「ご、ごめんなさい。」


「ビス。あなたはわかりやすいのよ。あんなタイミングでプレゼント渡して来るなんて。

魔法の練習への力の入り具合から何かあるとは思っていたけれど。

ペルも休みが欲しいって言いだすし。怪しまない方がおかしいじゃない。

ペルを問い詰めたらあっさり話してくれたわ。

まあ、ペルがレーグル王国に行くってところだけだけどね。

それでペルの荷物に隠れてここまで来たの。

誰かを待つっていうから誰が来るかと思ったけど、予想通りだったわ。」


やっぱり僕はわかりやすいらしい。シェーンにはお見通しだったみたい。

隠すのがうまくならなくちゃと思うばかりである。


「まあ、いいわ。それに私も抜け出す準備をしていたし。

あいつに一言言ってやらないと気が済まないもの。」


目は僕を向いているのに、僕を見ていないような感覚。

それにいつもの雰囲気ではない。

今まで奥底に貯めていたいろんなものが混ざり合って

真っ黒くなった何かがシェーンからもれていた。


「おい、二人とも何している。早く行くぞ。」


ディグニに声をかけられていつものシェーンに戻った。

僕はセフォンに駆け寄ると、ディグニが引っ張りあげてくれる。

シェーンは白馬にペルと二人乗りをしていた。




馬を走らせる。あたる風が嘗め回すように僕の体にまとわりつく、そんな感覚がした。


「よし、ちょっとここで休憩しましょう。」


そこは見覚えのあるところだった。


「なるほどな。プロウバの森を抜けていくのか。」


「ええ、少し遠回りになりますが、ここを通ってレーグル王国に向かいます。

事前の遠征でも異常はなかったようですし、それに中立地域です。

よっぽどのことがない限り襲われないそう思いたいです。」


「そうだといいがな。」


「ちょっと。クラフト。あなたがいうと縁起が悪いわ。」


「そりゃ、申し訳ない。」


クラフトは自分の掌でおでこを小突いて、変な顔をしている。

何だかその姿が可笑しくて笑ってしまう。

ただ、笑っているのは、僕だけだった。急いで口に手をあて笑いを抑え込む。

クラフトはなんだか落ち込んでいた。「レイスは笑ってくれたのに。」と悲しそうにしている。


「んんっ。それに他の道は通れなくなっているようで・・・」


「どちらにせよこの森を抜けなくちゃいけないってことね。」


「そういうことです。とりあえずここで昼食しましょう。

ただ、念のため火は起こしませんので、携帯食を食べてください。」


何か棒状のものをシェーンとペルに渡していた。


「これか。前に一度興味本位でもらって食べたことあったけど、美味しくないのよね。」


「シェーン様。文句は言わず食べてください。体が持ちませんよ。」


「分かってるわよ。」といってしぶしぶ口にしていた。


僕もディグニに渡されて食べて見るが、シェーンの反応の通り美味しくない。


「うぇぇ。」


「ビス。ちゃんと食べるのよ。」


さっきまでしぶしぶ食べていた人に言われる。

頑張って最後まで食べる。水があっという間になくなった。


「そういえば、この前街でクラフトを見かけたよ。

一緒にいた人達は誰だったの?すごく仲良さそうだったね。」


クラフトは頭を掻いていた。


「そうか。妻のモルカと娘のレイスだよ。久々に家族で買い物していたんだ。

休みをもらってからは家族で色んな所に出かけたよ。しばらく会えなくなるからな。」


「レーグル王国に行くから?」


「まあ、そうなんだが、俺はもうレーグル王国に住むことになってな。」


「えっ。でも家族は?」


「今この状況だ。モーヴェ王国に残ってもらったよ。」


「さみしくない?」


「はははっ。心配するな。落ち着いたら家族もレーグル王国に来る予定だ。

そのために早く片付けられるよう頑張るつもりだ。」


シェーンが割り込んでくる。ものすごく申し訳なさそうに。


「兄様たちのせいで・・・ごめんなさい。」


「い、いや、シェーン様が謝るようなことじゃないですし、

それにツァール王子もフィロ王子も悪くはありません。それに元々決めていたことです。


レーグル王国も完全に安全かどうかわかりませんでしたから、

もう少し経ってからにしようと家族で決めました。

まあ、どちらにいても危険なら慣れ親しんだ土地の方がいいでしょう。」


クラフトが話している最中ディグニが

「クラフトさん、それ以上は・・・」と止めようとしていたが、

クラフトはそれに気づいていない。


「そう、クラフトありがとう。どうやら文句を言う相手が増えたみたい。

それにそういうことだったのね。ねぇペル。」


シェーンの表情はさっきとは一変して乾いたものになっていた。

本能的に怖いと思ってしまう。ディグニは「はあ」と溜息をついていた。


「は、はあ、恐れいります。」


クラフトは気付いていないらしい。

こういう時にディグニたちの言うクラフトの勘は働かないらしい。

まあ、かくいう僕もよくわかっていないのだが。

それでも、シェーンの恐ろしさが少しわかったような気がする。

敵に回したくない、そう思った。


そのあと、シェーンはクラフトの家族を褒めまくっていた。先ほどの出来事をなかったことにするように。クラフトはシェーンの言葉に気をよくしていた。ディグニは諦め、ペルは何も気にする様子はなかった。




「さあ、そろそろ向かいますか。日が暮れる前に森を抜けます。

それと気を引き締めてください。何があるかわからないですから。」



僕たちは森の中へと足を進めた。


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