5-3
俺は、ハウにビスのことを話した。
魔力のこと以外は。別にハウが魔力を持っている者に対して差別的な意識があるわけでもないし、
それを言いふらすようなやつでもない。ただ、 言おうとしたら拒否された。
何かを察したのかそれ以上は聴けないと、一緒に抱えてやることはできないと。
「すまない。もう、そちら側には戻れない。それ以外だったら何でも聴いてやる。
助けてやる。ビスを普通の子どもとして接させてくれ。」
「いや、こっちこそすまない。」
俺は、いつもハウに甘えていたのかもしれない。
ハウは第一線を退いた。それにハウは今守るべきものが増えている。こっちの失態だ。
関わらせるべきではない。酔いと安心感が思考を鈍らせた。
「まあ、記憶喪失で森に寝ていたって聴いたあとで普通の子どもっていうのもおかしいけどな。」
「本当にすまない。」
「いいよ。それぐらい一緒に抱えてやる。ただ、何度もいうがそれ以上は・・・な。」
「ああ、わかってる。ありがとう。助かる。」
「お礼なんてやめろ。むず痒い。」
ハウはこめかみを掻いている。「水でも飲むかな。」とハウは台所に向かう。
それと「もう出てきてもいいぞ。」と階段の方を向いていった。
出てきたのはリベだった。気付かなかった。
「いやあ、出ていこうと思ったんだけどね。なんか出にくい雰囲気だったから。
でも、安心してさっき来たばっかりで、何も聞いてないから。」
早口でリベが言う。ただ、必死でニヤニヤを抑えようとしているのが分かる。
「いや、大丈夫。そんな大したこと話してないから。
ビスを部屋まで連れて行ってくれてありがとう。」
鎌を掛けてみる。
「どういたしまして。それこそ大したことじゃないわよ。」
どうやら、最初の方は聞いてないみたいだ。リベはすぐ顔に出るからな。
ビスのこと知ったら過剰に接しそうだ。リベ自身は隠しているつもりでも相手に伝わってしまう。
ハウもこちらを見て、なにか訴えかけてくる。わかってるよ。はあ。
「そうだ、出産おめでとう。体は大丈夫?」
「ありがとう。うん、生まれる前より元気よ!ベルももう可愛くて、可愛くて。」
リベの声はいつもの溌剌としたものだったが、奥底に申し訳なさが込められているようだった。
「モルテも手伝ってくれるし、それにハウも手伝ってくれるの。大変じゃないわよ。」
こんなに近くで聞いているのに、リベの声が遠くに聞こえた。
ハウが席に戻ってくる。一升瓶を片手に。
「今日はとことん飲むぞ!」
「私も飲もうかしら。」
俺はこめかみを掻く。
「あー。盛り上がっているとこ悪いんだが、もう寝るよ。
明日早いんだ。夫婦水入らずで楽しんでくれ。」
「なんだよ。付き合い悪いな。」
「まあまあ、私が付き合うから、ね。お休みディグニ。」
「ああ、お休み。リベ。ハウも。」
ハウは、声を出さずに片手を挙げていた。嫌な記憶を思い出させてしまっただろうか。
そんなことを考えながら部屋に向かっていく。
部屋に入ると、ビスはもうすでにベッドで寝ている。徐に近づいて頭を撫でていた。
「心配するな。なんとかなるさ。」




