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ヒレイスト物語  作者: 瑛
第1部 第1章 ”出会い”と
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5-1 それぞれの夜

「おい。ビス。ちょっとこっち来い。」


足音の正体はディグニであった。ディグニに呼ばれて駆け寄る。


「ああ、すまない。何か話している途中だったか。」


「ううん。大丈夫。今移動するところだったから。」


そこにはもう一人クラフトがいる。ただ、一瞬誰かわからなかった。

なぜなら、何かもじもじしていて前に見た豪快さがなかったからだ。


「クラフトさんがビスに伝えたいことがあるらしいんだ。聞いてくれるか。」


なにか畏まった言い方に身が縮まるが「う、うん」と答える。

少しの沈黙のあと、クラフトが切り出した。


「ビス。そのなんだ。さっきはすまなかったな。」


拍子抜けした。というか驚きの方が強い。

ペルフェットさんの言う通りクラフトのほうから話かけてきた。預言者かと思ってしまう。


そっちの方が勝ってしまってクラフトの行動はどうでもよくなる。


「ううん。気にしてない。」


「そうか。よかった。これからよろしくな、ビス。仲直りの握手だ。」


クラフトが手を出してくる。よろしくの意味はよく分からなかったが、同じように手を出す。

クラフトの手はゴツゴツしていている。その手からは想像できない優しく包み込むような握手だった。


「よろしく。クラフト。」


「おい、おい。呼び捨ては・・・」


「ははははっ。いい、いい。部下だったら投げ飛ばしていたかもしれないがな。」


投げ飛ばされるのは嫌だなと思い敬語で言い直す。


「よろしくお願いします。クラフトさん。」


二人は目を見開いて、同時に「ぷははははっ」と笑い出す。

ひどい。僕は頬を膨らまして精一杯の訴えをする。


「わ、悪かった、悪かった。本当に呼び捨てでもいいし、俺には敬語を使わなくていいぞ。」


二人とも笑ってくるのだ。言われなくてもそうしてやる。

そんなやり取りをしているとシェーンがこっちにやってくる。


「何を話していたの?楽しそうだったわね。」


「ビスと仲直りしていたところです。」


「ああ、そういうこと。」と納得の表情をしている。


「それより、ディグニ。ペルが話したい事があるって。あっちでペルが待ってるわ。」


「あっ。はい。」


たぶん、あのことを話すのだと思う。ディグニがどんな反応をするか気になるが、

背中をこちらに向けて話しているため表情が見られない。

そんなことを他所にシェーンが何か呟いている。


「ディグニは今日城に泊まるのかしら。」


それにクラフトが反応する。


「ディグニは、今日城には泊まらず街に戻るみたいですよ。」


「えっ。そうなの。この後図書室へ行こうと思ったのに。

日も暮れてきているし、街に戻るなら図書室にいく暇がないわ。どうしようかしら。」


「明日も城に来ますよ。用事があるようでしたので。」


「それなら余計に城に泊まればいいのに。」


シェーンはちらっと僕の方を見て考え込む。


そしてシェーンは「ディグニに確認しなきゃダメね。」と呟く。

僕とクラフトを置いてけぼりにする。クラフトにいたっては頭にくえっションマークが浮かんでいる。


ディグニたちの方を見ると話しが終わったようでこちらに向かってくる。二人とも無表情で何を考えているかわからない。ディグニをじっとこっちを見ている。こっちに着くとディグニは何も言わず僕の頭をぐしゃぐしゃっと撫でる。なんだかわからないけど安心する。ただ、ちょっと力が強くて痛い。


「ディグニ。痛いよ。」


「あ、ああ、ごめんごめん。」


「うふふっ」とペルフェットさんが笑っている。よかった。元のペルフェットさんに戻っている。


「ディグニ。今日街に戻るって本当?」


「はい。ちょっと友人と約束がありまして。申し訳ありませんが、あの件は今度でもいいですか?」


一瞬シェーンは口をへの字にしていた。なんだか話がかみ合っていない。


「ああ、あの件ね。いつでもいいわよ。そんなことより明日も城に来るんでしょ。

クラフトに聞いたわ。ビスも連れてくるの?」


ディグニは驚きの表情をしながら答える。


「いえ、明日は友人のところに預けようかと思っていました。」


「別に問題がなければ明日ビスを連れてきてくれないかしら。図書室に連れて行きたいの。」


「別に構いませんが、ただ・・・」


ディグニがシェーンに顔を近づけて何か言っている。


「わかったわ。なるべくあいつには会わないようにするわ。

もし会っちゃった時はなんとかごまかすよう努力する。ペルもいるから大丈夫よ。」


ディグニの友人って誰だろうとか、シェーンはなんでそんなに僕を図書室に連れて行こうとするんだろうとか、あいつって誰とか疑問が多くて頭がパンクしそうだ。


「畏まりました。明日ビスも連れてきます。」


「ビスもいいわね?」


完全に事後確認な気がするが、なにもすることがないので「うん。」と答える。


「それでは、そろそろ行かないと街にたどり着かなくなってしまうので・・・。」


「そうね。私たちはまだここにいるわ。また明日。」


僕とディグニ、クラフトは階段を降りる。クラフトは城の入り口のところで傭兵に呼び止められていた。なんだか怒られているような。どうやら仕事をほっぽって僕のところにきていたらしい。

クラフトは苦笑いしながら「また明日な。ビス。ディグニ。」と告げる。

そこまでして僕のところに来ていたと思うと、あのことは本当にどうでもよくなっていた。


「うん。また明日。」


なぜか、クラフトの横にいた傭兵が驚いた表情をしていたが、

僕は気にせず振り返りディグニのあとを追った。


城門まできた。ディグニはなぜか安堵しているようだ。

そこにはルトさんと乗ってきた黒馬が一緒にいた。


「お疲れ様です。ディグニ様。ビス様。すぐ出発出来ますよ。」


準備をしていてくれたらしい。黒馬に近づくとまた頬擦りをされる。


「ありがとうございます。急いでいたので助かりました。」


そう言いながら黒馬に乗り僕を引っ張りあげる。


「そんなに逃げるように行かなくてもいいと思いますよ。あの方は今玉座で王とお話中ですし。」


「何でもお見通しですか。まあそれもありますが、約束の時間が迫っていまして、あいつあんななのに時間には厳しくて遅れると五月蠅いんですよ。」


ディグニは煩わしいそうな声をしているが、顔は嬉しそうだった。


「そうでしたか。止めてしまってすみません。それでは、また。」


そういうとルトさんは右腕を添えて深くお辞儀をする。

ディグニは振り返らずに手を振り、「今日はありがとうございました。今度稽古つけてくださいね。」と言う。僕は振り返って手を振るとまだルトさんは深くお辞儀をしていた。


街への道を黒馬が駆ける。


「ねぇ。ディグニ。」


「ん。なんだ。もうちょっと声を張ってくれ。うまく聴き取れない。」


風で声がかき消される。僕は精一杯の声で言う。


「この馬に名前をつけてもいい?」


「馬に名前を?別にいいが、何かつけたい名前でもあるのか。」


「ううん、まだ。でもつけてみたいんだ。」


「いいぞ。つけてあげてやれ。」


なんだかスピードが上がった気がする。それに後ろからパタパタ音がし、

「ははははっ。」とディグニの笑い声がする。


「着いたぞ。」


着く前までに名前は決まらなかった。


「まあ、ゆっくり考えればいいよ。」


目線を上にあげると目の前には素朴な建物があった。ただ、なんだか独特な匂いが漏れ出ている。


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