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「ん。ああ、クラフトさんですか。ご苦労様です。残念ながら、シェーンは見ていませんね。
まあ、どこかで遊び惚けていると思いますが。どうかしたのですか。」
品のある淡々とした話し方だが、どこか毒を帯びている。
フィロ様は、第二王子でツァール様より八歳離れていて、シェーン様とは四歳離れている。
クラフトさんがいらないことを言わないかヒヤヒヤする。
ただ、俺がなにか行動を起こすと余計ややこしいことになりそうだ。
頼みますよ、本当に。
「いえ、たいしたことではないのですが、
任務より戻ってからご挨拶がまだでしたので、どこにおいでか探しておりました。」
「ほう。そうでしたか。」
どうやら、願いが通じたらしい。
それにすでにクラフトさんがすでにフィロ様に挨拶をされていて助かった。していなければ今頃言葉
の針でめった刺しであっただろう。まあ、クラフトさんは気にも留めないだろうが。
「で。ディグニさんあなたは、何用でシェーンに?クラフトさんとは別行動でしたよね。」
「シェーン様に頼み事をされましたのでそれをお伝えしようと。」
「さすがディグニさん。未来の国王。いや女王直々に頼み事をされるとは。
国の英雄は一味違いますね。ねぇ、クラフトさん。」
淡々と話す声。ルトさんと似ているようだが、似て非なるものだ。
じわじわと広がってくる。こびりついて離れない。
「ははははっ。そうですね。自慢の部下ですよ。」
屈託のない声。クラフトさんはそのままでいてくれと願うばかりである。
フィロ様の顔が一瞬歪む。
「そうだ。ディグニさん私の頼み事も聞いてくれないか。」
「はい。フィロ様の頼み事であれば。」
フィロ様はそっと顔を寄せてくる。
「シェーンに、身の程を弁えよ。と伝えてください。」
俺にだけ聞こえるように言う。おそらく、シェーン様にだけ言っているのではない。
それにあの場を見ていたということはもうすでに・・・。いや考えすぎだ。
知っていたら徹底的に情報を搾り取るはず。毒を置き土産に。
返事は求めていないようで、すぐにクラフトさんに話しかける。
ツァール様のことを聞いているようだった。
後ろにいたフィロ様の従者タド・ボルンと視線が合い、会釈し合う。
タドは大人しく無表情でちょっと暗い雰囲気が漂っている。
ただ、フィロ様の毒にやられてそうなったわけではない。
最初からそうであった。タドがきて三年経つだろうか。
そこからすぐにフィロ様に付けられ気の毒だなと思っていたが今日まで持っている。
それまでフィロ様のお付きは一年経たずにコロコロ変わっていた。
常人の精神では絶対にやってはいけないと断言できる。
フィロ様が我儘で振り回されるからという理由ではない。完璧を求めてくるのだ。
それについていけなくなり、毒が日に日に溜まっていき辞めていく。
それだけタドはよく仕事をこなすのか。それとも精神が尋常ではないのか。
おそらく、どっちもだろう。それが暗い雰囲気と相まって不気味さがある。
なにやら、タドのところに傭兵が一人近づき何か話している。訝しく思いつつも、異様な雰囲気が横から感じ、視線をそちらに向けると嬉しそうな顔をしているフィロ様がいた。
年相応の偽りのない笑顔。こんな笑顔を見るのは久しぶりだ。
ツァール様がレーグル王国に行って以来か。仲もそこそこ良かったが、
フィロ様が一方的にツァール様を尊敬している感じである。一種の崇拝である。
「フィロ様。そろそろ。」
「そうですね。もう少し兄様のことを聴きたかったですが、時間の様です。それでは、失礼します。」
フィロ様が俺の横を通りすぎる時「あなたが裏で何をしているか知ったらシェーンはどう思うでしょうね。楽しみです。」と呟いて去っていく。さっきとは打って変わって歪んだ笑顔がちらっと見えた。最後の最後まで嫌なお方だ。視線を元に戻すとタドが目の前にいた。
「クラフト様。ディグニ様。シェーン様達は屋上に行かれたみたいですよ。」
「あ、ありがとう。」
「いえ、お急ぎのようでしたので。それでは。」
そういうと、お辞儀をして去っていく。さっきの傭兵に聞いたのだろうか。
さすがというか、寒気がする。それに違和感が拭えない。ただ、判断材料が少なすぎる。考えても拉致があかない。気分を入れ替えて屋上に向かおう。
 




