30-1 アシオンという漢
今俺は驚いている。なぜかって?それは、宿のなかにトレーニングルームばりの設備が整っていたからだ。それに、立ち合いするのに十分な広さも持ち合わせていた。
「すごいな。」
「だろ。」
なぜか、わからないが、アシオンが俺を上から見下ろすように見ていた。まあ、背的にはそうなることは当たり前なのであまり気にしないが、この時ばかりは癪に障った。アシオンは俺がそんなことを思っているともつゆ知らずそのまま話を続ける。
「オレが最初にここに来た時は驚いた。だからおっさんに聞いたんだ。そしたら”ここは傭兵の方がよく使われてましてね。そのなかの一人の傭兵さんが独り言のように呟いたんですよ。トレーニングルームがあったら最高なのになって。だから私はここを作ったんです”だとよ。物好きもいたものだな。そいつとは気が合いそうだ。」
アシオンの言うその傭兵のことも気になるが、それを実行に移すドイボさんがすごいと思ってしまった。おもてなしの心と言っていいのかわからないがとにかく客を喜ばせることに全力なのだということがわかった。
そう思うと後ろめたい気持ちになってしまう。だが、ここまで来てアシオンが逃がしてくれるわけがない。こうなればさっさと終わらせて仕事に戻るしかない。
「それより早く手合わせしましょう。」
「おっ。やる気だね。ほらこれ使えよ。」
そう言うとアシオンは俺に向かって片手剣を投げてきた。俺は驚いた。
「ん?違かったか?フロントであった時そいつと同じものぶら下げてたと思ったんだがな。」
俺はまた驚いた。一回目は俺がいつも使っているものと同じものが投げられたことに驚いた。一瞬俺のものかと思ってしまった。今驚いているのはあの時、荷物で剣がほとんど隠れており、覗き込まなければそこまで細部までわからないのにも関わらず俺が使っているものを分かったということと、それ以上にそれを持っているということだ。
「いや、違くない。」
「だろ。驚かせやがって。」
驚いているのはこっちだ。俺の思惑は儚く散って行くだろう。そう確信した。
「おらおら。よそ見してると怪我するぜ。」
そう言ってアシオンはこっちに突進してきて、大剣を振りかぶる。俺はそれを無理矢理弾いた。
「おりゃあああ‼」
大剣は上に弾かれ、アシオンは後ろに一歩下がった。
「やるじゃねえか。」
「そっちこそ。」
俺は平静を装ってはいるが内心慌てていた。弾くという行為は間違いだった。手首が持って行かれてしまった。それに全体に痺れが伴っている。確かに大剣使いと手合わせしたことはあり、直接剣を合わせることは危険だということはわかっていた。
だから俺は相手の力を利用して流すつもりであったが、それを許さないパワーがあった。剣同士がぶつかり合った瞬間剣同士がくっついたのかと思うほど動かなかったのだ。パワーで勝負しようぜと言わんばかりにこちらを見てきた。それに乗るしか道はなかったのだ。




