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ヒレイスト物語  作者: 瑛
第4章 ”不変”と
106/176

29-2

朝食も食べ終わり俺とモルテはフロントにやってきていた。この時まではドイボさんは優しかった。俺はあの時部屋の掃除など宿の仕事をやるとドイボさんに言ったのだ。そして今は空き部屋の掃除をしている。モルテとは別行動なので、今ここにいるのは、俺とドイボさんだけだ。ただ、ドイボさんは今朝とは別人のようになっていた。



「おい、ビス。ここまだ埃付いてるぞ。」



「はい。すみません。今すぐ。」



俺はやっと気づくことができた。ドイボの”後悔しないでくださいね。”という言葉の意味に。早くも俺は後悔している。



「はあ、お前はダメだな。あっちの奴の方が見所あったぞ。」



そりゃそうだろう。小さい頃から親の手伝いをしてきたのだから。嫌でも覚えたんじゃないだろうか。



「すみません。」



俺はそういうしかなかった。



「はあ、まあいい。私はあっちの様子を見てくるけど、サボるんじゃないぞ‼」



そう言ってドイボさんはモルテの方へと向かっていった。俺は張り付けた笑顔で見送った。



「・・・やっと解放された。こんなに厳しいなんてな。」



あとでモルテの小言がすごそうだ。ただ、これは俺の招いたことだ。甘んじて受け入れよう。そう誓い、空き部屋の掃除を続ける。




「もうこれくらいでいいだろう。」



辺りを見回すとピカピカに輝いているようだ。まあ、感覚の問題なのだが。これでドイボさんに文句も言われないだろう。試しに隅っこを指でなぞってみる。



「・・・うん。見なかったことにしよう。」





空き部屋の掃除も終わり部屋を出るとちょうどそこにアシオンが通りがかった。



「ん?ここで何やってるんだ?お前の部屋ここじゃないだろ。」



なぜ人の部屋がどこなのか知っているのか気になったが、まあ気にしても仕方ないか。それよりも気になることがある。



「ドイボさんの手伝いを。それよりアシオンさんがどこに行かれるんですか?大剣なんか持って?」



アシオンは大剣を肩に担いでいたのだ。それを気にするなという方が無理だろう。



「これか?ちょっと体を動かそうと思ってな。ちょうどいい。お前付き合えよ。」



アシオンに俺は腕を掴まれ引きずられる。凄まじい力だ。振りほどこうにも振りほどけない。どうやら、あの筋肉は見掛け倒しではないらしい。



「ちょっと待ってくださいよ、アシオンさん。まだ仕事の途中なんです。」



「固いこと言うなよ。おっさんになんか言われたらオレがどうにかしてやるから、な。」



アシオンは何か勘違いをしているようだった。別にドイボさんが怖くて嫌がっていたわけではない。怪しい人物と二人きりになることを避けたかったのだ。だが、俺はアシオンの誘いに乗ることにした。実力を測るのにもいいと思ったからだ。まあ、一番の理由は現実逃避したかっただけなのだが。




「わ、わかりました。だから腕を離してください。アシオンさん。」



そう言うとアシオンはあっさりと腕を離してくれる。ただ、何か言いたげに顔をしかめていた。



「どうかしましたか?」



アシオンはその一言で合点がいったのか、喉のつまりが取れたかのように言葉を発した。



「お前。その敬語やめろ。お前に敬語を使われるとなんかこうむず痒いんだ。」



そう言いながら体を掻きむしっていた。敬語を使う度にこの行動をされたのでは溜まったものではないので、アシオンの言う通りにする。



「わ、わかった。アシオンさん。」



まだ、文句があるのか、アシオンは俺を指さし力強い視線を向けてくる。



「それと、さん付けも禁止だ、いいな。」



「わかった。アシオン。」



それでようやく満足したのか振り返り目的地へと足を向けた。だが、ここまで言われて俺も一言言ってやりたいことがあった。



「アシオン。”お前”ってやめてくれないか。俺は”ビス”だ。」



「・・・ははははっ。すまんすまん、そうだったな。ビス。」



笑うようなことか。それに笑う前に何か不思議な間があったような。まあ、名前をちゃんと呼んだので良しとしよう。


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