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もうすでに日は沈み視界が暗闇に支配され始めた頃やっと撒けた。いや撒けたというにはあまりにもおかしかった。徐々にいなくなったのではなく、音もなく忽然と姿を消したのだ。そのためいなくなったことに気付くのに時間を要した。それに気づいたのはある看板を見つけてからだ。その看板には”アイン村”と書かれていた。その看板を越したところでセフォンがスピードを落としたのだ。
「おい、セフォンどうしたんだ?どこか怪我でもしたか?」
それに答えたのはセフォンではなくモルテだった。
「ビスさん後ろを見てください。」
「そんな暇ない、今セフォンが大変なんだ。」
「いいから‼見てください。」
いきなりモルテは大きな声を出す。ここまで声を荒げているモルテは相当なことがない限りお目にかかれないだろう。何事かと思い振り向くとそこにはモルテ以外何もいなかった。
「どういうことだ?」
「消えたんですよ、魔物が。音もたてずに。」
そんなことを話していると進行方向から足音が聞こえてくる。
「何事ですか?」
よく見ると、ひとりの男性がそこに立っていた。おそらく俺たちの声が聞こえていたのだろう。それを怪しんでこの男性はここにやってきたのだと思う。
「大声を出してしまって申し訳ありません。今まで魔物たちに追われていまして、それが忽然と消えたものですから驚いてしまいまして。」
ここは正直に話した。特段隠すことでもないだろう。それにこのことを言ったところでこちらにデメリットなどない。逆に情報を手に入れるチャンスだと思った。
「ああ、そんなことでしたか。」
男性の力の籠った顔が一瞬で気の抜けた顔になった。それにいち早く反応したのはモルテだった。老人に向けたモルテの声は棘をはらんでいる。
「”そんなこと”ですか?」
男性はその言葉を聞いて何を思ったのか慌てだした。
「あ、いえ。実は魔物たちはなぜか村には入って来ないんですよ。一定の距離に達するといなくなるんです。私たちの間では当たり前のことになっていましたのでつい。それに先日似たようなことがありまして”そんなこと”と口走ってしまいました。すみません。」
「そう、なんですね。」
確かに王国にも魔物は近づかなかった。しかし、魔物が忽然と消えたということは記憶をたどってもただの一度もない。
「そ、そんなことより私たちの村に泊まって行きませんか?今日はもうこれ以上進むことは出来ないでしょう。」
モルテは俺だけに聞こえるような声で話しかけてきた。
「ビスさんどうしますか?・・・どう考えても怪しいですよ。」
確かに怪しい。俺たちは別にどこに向かっていると言ったわけでもないのに出てきたあの言葉。俺たちはここが目的地だったかもしれないのだ。ただ、無意識に出た言葉であるかもしれない。
「どうするも何もな。ここにずっといるわけには行かないだろう。この人の言っていることが本当かどうかもわからないし。ここは話に乗るしかないだろう。」
それが俺の出した結論だ。気が休まらない夜になるのは間違いなしだが、魔物のエサになるよりはマシだろう。それにあの時のように奥から異様な雰囲気は感じられなかった。最終的に俺の勘を信じたのだ。
「わかりました。ビスさんがそういうなら。」
モルテの表情は見て取れないが、その声から不満は感じられなかった。
「もしご迷惑でなければお願いします。」
「ご迷惑だなんて。私どもは大歓迎ですよ。さあ、こちらへどうぞ。」




