プロローグ
「…うさま…魔王様!起きてください。」
寝室に少女のような甘ったるい声が聞こえた。
それに身体がゆすられていて若干気持ち悪く感じる。
そこには、ドワーフの女の子?が立っている。
「んっ。あー、なんだヴァイセか。」
ただ、顔を見てその考えを改める。
見た目は子どもで見ただけでは判別ができない。
この見た目でもヴァイセは成人を迎えている歴とした大人である。
寝ぼけていたのか間違ってしまった。た
だ、はっきりとした年齢がわかっているわけではない。
ヴァイセに聞くとはぐらかされる。
最後には「・・・秘密です。」と人差し指を口に当てて言ってくる。
大人の女性がいったら多少なりとも色気を感じそうなものだが、
ヴァイセがいうとそんなものは感じられなかった。
人差し指の先が鼻にあたっていて鼻でも痒いのかと思ってしまう。
「「なんだ。ヴァイセか。」じゃないですよ!緊急事態です。
敵が攻めてきてるんです!」
彼女は、精一杯凄んでいっているようだが、
声のせいで迫力もあったものではない。
「すまん、すまん。ちょっと居眠りしてしまったようだ。
それに最近お前が私の部屋にお飛び込んでくる時は
決まってくだらないことだったからな。」
「くだらないことじゃないですよ。
確かに今の状況よりはくだらないことかもしれませんが、
私にとっては大変なことなんです。」
このままこの話題を続けると長くなりそうなので無視して話を戻す。
「しかし、何度も懲りずにやってくるな。不法侵入は相変わらずか。
人間は礼儀知らずにも程がある。いつの時代も変わらないな。」
彼女は、訝しげな表情でこちらを見つめている。
「ここではなんだな。玉座で作戦を練ろう。おまえのことだ。
攻めてきているといっても、
早急にこの城まで辿り着くわけではなかろう。
その感じだと、デネメ洞窟あたりか。」
そういうと、彼女は矢継ぎ早に答えた。
「そ、そうです。よくわかりましたね。」
「なに、おまえとは長い付き合いだからな。
なんとなくわかってしまったんだ。お前のことは何でもお見通しだ。」
冗談めかしく言うと、彼女は顔を真っ赤にして目線を下にそらした。
「からかわないでくださいよ。それよりも魔王様なにかあったんですか。
なんだかいつもと何か違うような、うーん、うーん………」
額に人差し指をあて、必死に考え込んでいる。
「変です。」
彼女は、そう吐き捨てた。
聡明な彼女でも、私の言動は言語化できなかったようだ。
「はっはっは。変か。なに、懐かしい夢をみたんだ。
ちょっとその時のことを思い出してな。変なことを口走ってしまったようだ。」
自分がまだあのようなことを言葉にしてしまうとは
驚きとともに恥ずかしさもあった。
「魔王様の昔の体験ですか。すごく気になります。」
ヴァイセは、目を輝かせていた。こうなると面倒くさい。
こうなると長くなるので、策を打たねば。
「そのうちな。今はそんなこと話している暇はないんじゃないか」
少し皮肉を込めて言う。気になることがあると視野が狭くなってしまうことがる。彼女の悪い癖だ。まあ、さっきああ言ったが誰にも話すつもりはない。これでも、食いついてきたらどうはぐらかそうか考えていた。ただ、彼女はもうすでに問い詰める気はないようだ。
「も、申し訳ありません。」
彼女のシュンとした声は、こっちが申し訳ない気持ちになってしまうと同時に悪いと思っていてももっといじめてやりたいと思ってしまう。
「良い。それよりそろそろ移動するか。時間があるからといって話過ぎたかもしれない。
あー、その前にヴァイセ。確認だが、近くの仲間たちに連絡は済んでいるか。それに幹部たちにも話はついているのだろう。」
ヴァイセはさっきより少し声色を変えて答えた。
「はい。滞りなく情報は回っています。」
「さすが私のお付きだ。」
ゆっくり椅子から立ち上がる。
そして部屋から出てほの暗い廊下を進んでいく。