第6話 お買い物タイム
サフランの街
「すげ〜!!どデカい市場がある!!」
街に入ってすぐ、幸太郎は大きな声を上げる。勇者についての聞き込みや魔法の習得など、やらなくてはいけないことがあるのだが、観光したいという気持ちが幸太郎の心の半分を占めていた。
「ここの来るのは久しぶりじゃな。どれ、せっかくだから市場に寄っていくかのう」
「いいねいいね!レッツショッピング!」
ということで、市場へ直行する幸太郎とバジル。市場には、食べ物の他に武器や防具などの冒険者用の品を売る店もあるようだ。バジルと別れ、幸太郎は武器を見て回ることにした。
「これってミスリル製?うわぁ伝説のミスリルソードじゃん!かっけぇ!…って重っ!」
目についたミスリルソードを手に取るが、予想以上に重く、慌てて手を離す。ゲームの序盤から中盤にかけて活躍するミスリルソードは憧れだったのだが、今の幸太郎には扱えないもののようだった。
「昨日使った剣もちょっと重かったんだよな…うーん…どうしようか…」
「お客さん、うちには短剣や細剣もあるよ。ほら、そこのミスリルダガーなんてどうだい」
「おっ、リーチは短いけど重さと振りやすさはいい感じ。商人さん、これっていくらするの?」
「3000フェリルだよ」
「高いっ!」
ルナエ王から貰ったのは5000フェリル。ここで半分以上使ってしまうわけにはいかない。
「当然だよ。魔王軍のせいでミスリルが採れるナック鉱山からの輸入が途絶えちゃったんだから」
「うーん…じゃあ2000フェリル以下の短剣か細剣ってありますか?」
「じゃあ、これはどうだい!シルバーフルーレ。1500フェリルだよ」
商人が指さした所にあるのは銀色の細剣。シンプルなデザインで、装飾がほとんどない。とりあえず、握ってみる。
「おお!重さ、リーチともに問題なし!じゃあ、これ買います!」
「はいよ。…ああ、そうだ。最近、子供が誘拐される事件が立て続けに起こってるらしいから、気をつけなよ」
「子供の誘拐…穏やかじゃないなあ…」
そんなに心配される年齢だろうかと、心の中で首を傾げる幸太郎。しかしまだ16歳、誘拐の対象ではないだろうが、全然子供である。かくして1500フェリルのシルバーフルーレを購入した幸太郎は、先程別れたバジルを探す。
「バジルはどこかな…あ、いたいた!」
屋台の前にバジルの姿を見つけ、駆け寄る。
「何買ったの?」
「酒じゃ!20年もののぶどう酒が500フェリルで売っていたんでな」
「お酒かー。俺飲めないからなあ…」
ここの法律的には問題無いのだが、こないだまで日本で過ごしてきた幸太郎に未成年飲酒は抵抗感があった。
「いつ飲むか…あの子の魔法学校卒業祝いにするかのう」
「決めずに買ったのかよ。…そういや、この街で子供の誘拐事件が起きてるらしいけど、お孫さんは大丈夫かな」
「心配いらんわい!あの子にはわしが剣術をみっちり仕込んだからな!」
「剣と魔法のどっちもって敵わないな…いや、俺も出来るようになるかも…そうだ!俺にも剣技教えてくんない?」
「いいだろう!…だがわしの特訓は甘くないぞ?覚悟するんじゃな!」
「よーし!全力で食らいついてやらあ!」
華麗な剣技を放つ自分を想像し、はしゃぐ幸太郎。だが幸太郎はまだ修行の大変さを知らない。
浮かれているそのときだった。
後ろから女性の叫ぶ声が聞こえた。
「誰か、私の息子を見ませんでしたか!?緑色の帽子を被っている5歳の子供で…」
「!?」
いざ事件が起き、慌てる幸太郎。
「ああ、見たよ。茶色いローブの二人組と一緒にいたような…」
市場で買い物をしていた男性が答える。
「そんな、まさか誘拐されて…」
女性は両手で顔を覆いその場に泣き崩れる。
その姿を見て、幸太郎の覚悟が決まる。
「バジル」
「わかっておる。親子の間を裂くなど」
「許せるわけないよな!」
幸太郎は辺りをテレパシーで探り、ローブの二人組の向かった方向を突き止める。
大体の方向が分かった幸太郎はバジルと共に走り出す。
「向かったのは街の出口の方向だ!街を出られたらまずい!」
走るスピードを上げながら、テレパシーで前方を探る。そして、テレパシーの射程距離ギリギリに、誘拐犯らしき反応を得る。
「いた!このまま走れば追いつける…けど、アジトを突き止めないといけないよな」
「バレないように追うぞ!」
二人は、一定の距離を保ち誘拐犯の後を追う。街を出て森を抜けた先の小さな洞に、誘拐犯達は入っていった。洞窟の中からは子供のすすり泣く声が聞こえる。それも一人の声ではなく、多くの声が。
「フケケケケ…生贄はもう充分集まったな!」
ローブを着た男が笑う。
「よし…召喚の魔法陣を用意するぞ!」
召喚の準備に入ろうとしたそのとき、入口の方から聞こえてくる足音に気づく。
「!? 誰だっ!?」
「客人だよ。子供を招待してるんだろ?お前ら」
「さあ、子供達を返してもらおうか」
姿を現した二人の目は、落ち着いた声とは裏腹に敵意に満ちている。
「き、貴様らなど生贄にもならん!噛み殺せ、ブラッドウルフ!!」
ローブの二人の後方から三匹の狼が飛び出てきた。バジルは剣を抜き幸太郎の前に出る。
「見ておれ」
「VRGGGGGGG…」
昨日戦った魔獣達より強いことが見て取れる、血に飢えた狼。それに対し、剣を構えるバジルの姿は群れの先頭に立つ獅子のように幸太郎の目に映った。
「バジル流剣技…」
「VARUAAAAAAAAAAAAAA!!」
一匹の狼が襲いかかる。その後にバジルが踏み出す。
「…清流剣!」
バジルは流れるような動きで剣を横から前に振る。その動きにはまるで無駄がなく、昨日見た荒々しい剣さばきとは違う迫力があった。飛びかかった狼はバジルの目の前で崩れ落ちる。狼はなんと上下で綺麗にスライスされていた。
「そしてこれが…」
二匹の狼が続けて飛びかかってくる。バジルは先程と同じ動きで構え、踏み出す。
「激流斬!」
打撃にも、斬撃にも聞こえる重々しい音が洞窟内に響く。清流剣と同じ動きから転じて放たれる力強い斬撃によって、狼の首と胴は切断され、その場に転がり落ちた。
「続けて、奥義…」
バジルは剣を両手で持ち、仁王立ちをする。染み渡る覇気に怯まず、最後の狼が迫る。次の瞬間、バジルが剣を振り下ろす。
「ルナティック…ブレイド!!」
「─────A」
両断。狼はただ崩れ落ちる。光の斬撃は狼を真っ二つに斬り裂くだけでなく、洞窟の床と天井に溝を作るほど強力だった。幸太郎は、終始圧倒されていた。
「…清流剣は緩やかな川の流れ、激流斬は岩をも砕く激流といったところじゃ」
「奥義は?」
「………………奥義は……奥義は…………滝、とか…?………うん、滝じゃな!」
「おいおい」
考えてなかったのかよ、とツッコみたくなる幸太郎。バジルは話をそらすかのように空気を切り替えた。
「コウタロウ、残りの二人はお前が倒すんじゃ。とりあえず、見た通りやってみるといい」
「了解、バジル師匠!こっからは俺のターンだぜ!!」
肩を回しながら前に出る幸太郎。見た通りやってみろ、などというのはかなりの無茶振りなのだが、闘志沸き立つ幸太郎にとっては関係ないことだった。深呼吸をして、腰の剣を抜き、構える。
その瞳には、二人の敵が映り、脳裏には、目に焼き付けた光景が映っていた。
読んでいただきありがとうございます!
今回は中途半端なところで終わってしまいました。すみません。
ところで、戦闘中の描写って何描けばいいのか分からなくて大変ですね!!この先不安だ…(白目)
では、次回もよろしくお願いします!!