第3話 魔人将軍
玉座の広間の中
「このルナエ王国も終わりだ……兵士はカス魔法しか使えない雑魚共ばかり!簡単に落とせて当然だわなあ!!ハハハハハ!!!」
漆黒の鎧に全身を包んだ男が笑う。
魔人将軍ケルビス。悪魔を率いる魔王軍幹部の一人で、その残忍さと栄光への執着は魔王軍の中でも随一だった。
「さぁてどう死にたい?ルナエ王よぉ!」
「…もう…手はないのか……」
「父上…まだ…まだ諦めてはいけません…!」
打つ手がなく諦めかける国王を姫アニスが諭す。
だが絶体絶命な状況は変わらない。側近の兵士たちはケルビスによって倒され、なすすべがない。
「悩ましいなら時間をくれてやるぜ?先に姫の方を殺す。いたぶって殺すから、じっくり考えるといいぜえ!」
次の瞬間、広間の扉が開く。
「残念だがそこまでだ」
「なんだてめえらは!?」
「SRGO副隊長、加賀美安彦だ」
「え、名乗るの!?えっとじゃあ…通りすがりのエスパー高校生、一条幸太郎だ!覚悟しろ!」
「わけのわからねえことを言いやがって…!しっかし馬鹿だなァ!わざわざ死にに来るとは…!だがオレは今忙しいんだ…。部下の悪魔の餌になるといい!」
ケルビスの後ろにいた4体の悪魔がこちらを向く。いまにも襲いかかってきそうだった。
「加賀美さん、コイツらは俺に任せてください」
「……わかった。信頼して、任せる」
加賀美の心配を無くそうと幸太郎は無言でサムズアップをしてみせる。
「来い化け物!」
戦いのゴングが鳴った。
加賀美は腰の剣を抜きケルビスに飛びかかるが、両手で持った巨大な剣に防がれる。
「剣でこの魔人将軍ケルビス様に挑むとは、そこで腰を抜かしてる王以上に愚かな野郎だ!はっ!望み通り魔剣グロリアの錆になるといい!!」
ケルビスの攻撃もまた、加賀美に弾かれる。
斬って弾き、斬って弾きの攻防が続く。
今この場での両者の実力は互角だった。
「どうやら、そこらの有象無象とは違うらしいな!」
「そちらこそ、剣さばきだけで上腕二頭筋、烏口腕筋が鍛えられいるのがよくわかる!だが、外腹斜筋あたりが少し甘いな。いい筋トレ方法教えようか?」
「ほざけッ!」
相手に隙を作りそこを狙うのが得策と判断した加賀美は、魔剣を弾きながらケルビスの周りを素早く動く。
「羽虫が…!ちょこまかと…!」
「踊るのは嫌いか?いいトレーニングになるんだが…もったいない」
加賀美の動きに苛立ったケルビスは魔剣を大きく振り下ろす。加賀美は素早く躱し、生まれた隙を逃さず全力で斬りつける。しかし鎧に傷がつくだけでケルビスにダメージを与えることはできない。
「その程度の剣でオレの鎧を破ろうなど、考えが甘いんだよ、マヌケがッ!」
今までよりも速く強力な一撃が繰り出される。咄嗟に加賀美は剣で受け、鍔迫り合いになる。
力は互角。しかし加賀美の剣にヒビが入り、次の瞬間折れる。魔剣と兵士用の剣では強度に明らかな差があった。
「なまくらで戦ったのがてめえの死因だ。まあ、よくやった方だがな!」
片膝をつく加賀美に、魔剣が振り下ろされる。
加賀美は目を閉じたりはせず、ただ集中していた。ある一瞬を狙って。
「死ねぇぇぇぇ!!」
魔剣は確かに振り下ろされた。しかし魔剣が加賀美を切り裂くことは無い。なぜならその刃は渾身の白刃取りによって止められていたのだから。
「な、なにぃ…!?」
「一か八か。意外と出来るもんだな」
そして次の瞬間、幸太郎がケルビスに飛びかかり、兜と鎧に触れる。すると、兜と鎧は一瞬で消えて無くなった。
「忘れてただろ、俺のこと」
触れた物体を別の場所に転移させるテレポートの応用能力。自身のテレポートとは違い、回数に制限がない、幸太郎の十八番だった。
ケルビスが幸太郎に気を取られて剣を握る力が弱まった瞬間、加賀美は魔剣を奪い取り後方に投げ捨てる。
「貴様ァ…!オレの部下はどうした…!」
「そこでぐっすり眠ってるよ。精神にちょっと干渉してやったのさ」
「そ、そなたは…!」
ケルビスの顔を見たルナエ王が驚愕の声をあげる。
「…間違いない!そなたは…栄光の騎士トレビスではないか!5年前に失踪して…まさか…魔王軍に…!」
「なんだ、今更気づいたのか。ハハハハハ!そうさ!オレは騎士の道を捨て、魔王様に忠誠を誓ったのだ!……本当に正しい選択だったよ。この国で騎士をしていた時から…いや、生まれた時からオレはッ!自分の中に邪心を抱えていた!己の本質を隠し騎士として剣を振るい続けていたなら、オレの心が晴れることは無かっただろうな!他人に掲げられた薄っぺらい正義のためでなく、自分のために力を振るう今のオレは、真の自由の下に生きることを知ったんだッ!!」
「そんな…昔のあなたには…栄光の騎士トレビスには、正義と信念があったはずよ!」
アニスは栄光の騎士がまだ生きていると信じ、叫ぶ。
魔人将軍はただ嗤う。
「正義?信念?笑わせるな!国の掲げた正義をただ復唱するだけの騎士共に、信念などありはしないんだよッ!!」
「何を言っても無駄なようだぞ」
「それにしても、人間の身でよく魔王軍に入れたな。土下座でもしたのかよ?」
「人間などとっくにやめているわ!魔王様に認められ、オレは魔族になったんだ!魔法も使えるようになった。騎士だった頃と違ってな!」
ケルビスの体を妖気が包む。
「闇魔法……ダークボム!!」
ケルビスは黒い気弾のようなものを放つ。魔法を放った方向にいるのは幸太郎。
(やばい…俺……死ぬ……!)
幸太郎は反応が遅れ、避けられない。
絶体絶命のその時、加賀美は咄嗟に幸太郎をかばおうと動いていた。そこに論理的思考は無い。
次の瞬間、黒い気弾が弾け、大きな爆発がおこる。
「加賀美さん!!」
血塗れの加賀美に駆け寄る。
「大丈夫……だ………この程度で……死に…は……しない………さ……」
加賀美は強がるが、どう見ても重傷である。
自分のせいで加賀美が重傷を負ったという事実を前にし、幸太郎に様々な感情が湧き上がる。
不甲斐なさからの自己嫌悪、加賀美を死なせてはいけないという焦り。そしてなによりも未熟な自分に対する怒りが、幸太郎の心を覆う。
相手が自分より圧倒的に強いことなど関係なく、幸太郎は奮い立った。
魔剣を拾ったケルビスが、幸太郎の方へゆっくりと歩き出す。
「てめえもすぐに送ってやるよ…!」
「…………」
幸太郎は仁王立ちしたまま動かない。
ケルビスが幸太郎の目の前に立ち、不機嫌そうな顔で魔剣を振り上げる。
「なんだ、諦めたのか?ますますもってつまらねえ。…終わりだ、死ね!」
魔剣が幸太郎を襲う。
幸太郎は目を見開き、腕で防御する。
魔剣は幸太郎の腕に深く食い込んだが、腕を切断することなく止まる。
「……加賀美さんみたいに白刃取りなんてできないけどな」
「…なに、止めただと!?てめえごときがどうやって!」
幸太郎はサイコキネシスで魔剣の動きを鈍くしていた。サイコキネシスだけで魔剣を止めるには至らなかったが、威力を殺すには充分だった。
「…傷は負ったが、“触れた”ぞ…たしかに…」
魔剣が消える。最初から幸太郎は魔剣を転移させることを狙っていた。
「この……小賢しい虫がッ!!」
ケルビスは怒りのままに幸太郎を蹴り飛ばす。吹き飛ばされた幸太郎は壁に激突する。
「忘れたのか、オレには魔法があるということをッ!!もう塵一つ残さん!死ねえ!」
目を開くと怒りに顔を染めるケルビスが視界に入る。幸太郎の顔には、少しだけ笑みが浮かんでいた。
「闇魔法……ダークボムッ!!」
黒い魔力が塊となり、幸太郎めがけて飛んでくる。それでも、顔に浮かべた笑みは消えない。
「ああ、それを待ってた」
───テレポート
1日1度しか使えない転移能力。あのとき使っていれば加賀美に重傷を負わせることはなかったであろう能力を使う。転移の座標は敵の頭上。
転移した幸太郎はすかさず両手をケルビスの眼前にかざす。
『真空波』
次の瞬間、ケルビスの顔が斬り刻まれる。
幸太郎は手をかざしたところに真空空間を作り、かまいたちを発生させた。通常、真空空間によって皮膚を裂くほどのかまいたちを発生させることはできない。幸太郎がサイコキネシスのエネルギーを加えることによってはじめてできる芸当だった。
「うぐあああああッ!!…おのれぇ!て、てめえのような虫ケラにッ!!その顔、覚えたぞ!次は殺す!必ずな!!」
両目を負傷したケルビスは、しばらく叫び暴れた後、窓から飛び降りる。
国王と姫は唖然としていた。
「撤退…させたのか……ああ、でも…ちょっと疲れたかな…」
緊張の糸がほどけ、バタリとその場に倒れる幸太郎。
頭と腕から血を流し、加賀美ほどではないが重傷だった。
「ご無事ですか陛下!隣国から援軍を……あれ?」
扉を開け入ってきた兵士は、広間の状況を見て困惑する。
「わしは無事じゃ。そこの…二人の若者のおかげでな。すぐに回復魔法の使える僧侶を連れて来るのだ!彼らは絶対に死なせてはいかん!」
「はっ!かしこまりました!」
何やら会話が聞こえるなあ、とだけ思い、幸太郎は目を瞑りそのまま意識は途絶えた。
第3話、読んでいただきありがとうございます!
良い点悪い点指摘して頂けるとありがたいです!
それと、3日に1回の更新になりそうです。
おまけ:幸太郎の現在ステータス
一条幸太郎
職業 :学生
レベル:10
ちから:23
すばやさ:70
たいりょく:45
かしこさ:63
うんのよさ:50
最大HP:92
最大MP:0
攻撃力:20
守備力:22
〈装備〉
E すで
E 大きめのパーカー
E バッシュ
〈魔法〉
なし
〈技〉
超能力