第2話 飯と覚悟
外で日が沈む頃、二人は城の地下牢にいた。
無言でスクワットをする加賀美をぼんやり眺めながら、幸太郎は今までの出来事を振り返る。
〜〜数時間前〜〜
「街に〜〜とうちゃーく!!」
ドラゴン撃破後、1時間程歩いて城下町に着いたわけだが、疲れからか幸太郎のテンションはおかしくなっていた。
「加賀美さん加賀美さん!!飯食べたいです!」
「まぁ…そうだな。腹が減ってはなんとやらだ。とりあえず店を探そう」
「…そういえば看板の文字、日本語じゃないのになぜか読めますね」
「…町の人々の会話の内容もききとれる。あの男に何かされたのかもしれないな」
「最悪テレパシーでなんとかできるかなーとか思ってたけど、その必要がなくてよかったですよ。人の頭を覗くのは、なるべくしたくないんで」
「…そうか。…おい、あのイフリートって店、飲食店っぽいぞ」
「なんか炎系っぽい名前してますね。料理が辛いのかな?」
二人ともかなり腹が減っていたので迷いなく店に入る。
「いらっしゃいませ〜」
元気のいい店員に迎え入れられる。店の中はかなり広く、客も結構いる。人気のある店のようだ。
「え〜と、なになに?羽根兎のシチューに虹羊の角煮…結構メニュー多いなぁ」
テーブルの上に置いてあった紙を見る。書いてある料理は店名から想像したものほど苛烈ではなかった。
「今まで日本で食べてきたものとは違うだろうに…あまり驚かないんだな」
「いやまぁ…想像の範疇というか。ま、骸骨の肉とか書かれてたら流石に驚きますけどね!」
冗談交じりに幸太郎が言う。
幸太郎は数分悩んで虹羊の角煮を選ぶ。
加賀美はオススメと書いてある三角牛のステーキにした。
運ばれてきた料理の見た目は普通だった。
腹ペコの幸太郎はいただきますと言ってすぐ料理を口にする。
「ん〜、美味しい!!…けどもうちょっと冒険してもよかったかな〜!」
刺激が足りなかったらしく、ぼやく幸太郎を横目に加賀美は自分の注文した料理を口にする。
そして次の瞬間、咳き込む。
今まで口にしてきたどんな食べ物より辛かったからだ。そう、幸太郎の予想は当たっていた。
「ゴホッ ゔっ゛…がら゛い゛」
三角牛のステーキはこの店の名物料理で、途中で失神する客が続出するほど辛いらしい。
三角牛の肉は調味料を使わなくても辛いのが特徴らしく、この店の名前も三角牛の異名からきているようだ。
一口貰おうとしていた幸太郎だったが、加賀美の無表情が一瞬で崩れるのを見てやめた。
「刺激が強すぎるのも考えものだよな…」
無難なチョイスにして良かった、と思い直す。
この世の終わりみたいな表情で水を一気飲みする加賀美の姿がおかしくて、幸太郎は吹き出す。
「笑゛う゛な゛ゴホッ ゴホッ...」
「ははは!いやーごめんなさい。なんか加賀美さんってもっとクールな感じの人だと思ってたから、おかしくって」
どんなに無表情な人間でもいきなりこれを食えばこうなるだろう、などと加賀美は思った。
元々辛いものは苦手でなくむしろ好きだったので、完食する加賀美。慣れれば意外といける、とのこと。
満腹になった二人は店員を呼ぶ。
「ご会計は、310フェリルになります!」
「あっ…」
「…………」
そう、この世界の金を持っていなかったのだ。
そのまま二人はその場に居合わせた兵士に連行された。
牢屋の中
「迂闊だった…」
「忘れてたなあ、完全に…。でも逃げたわけじゃないのにいきなり連行は酷いと思うなー」
「まずここの人間からしたら俺達は服装が怪しい。それも大きかったんじゃないか」
かたやパーカー、かたや出動服。怪しまれて当然である。
「じゃあ街でも変な服の人だと思われてたのかー!それはなんか恥ずかしいなー!」
そこか、と突っ込みたくなる加賀美。幸太郎が少しズレた人間だということをだんだん把握してきていた。
「加賀美さん」
「どうした?」
「超……暇じゃないですか?」
「無銭飲食の罰だと思うしかないだろう。大人しく裁かれようじゃないか。暇なら筋トレをするといい。時間が無駄にならないぞ」
「うーん…疲れたし…しばらく寝ようかな…」
転移による環境変化のストレスにドラゴンとの戦闘による疲労。幸太郎は色々限界だった。
目を瞑ると、床の硬さに関係なく心地よい眠りにいざなわれる…が
「うわああああああああああ!!!!」
「魔王軍が攻めてきた!!」
現実はそう優しくなかった。外から聞こえた兵士の叫び声により幸太郎の目は覚める。
「ええ!?魔王軍!?もう城まで攻めてきてんの!?」
「地下まで声が聞こえるということはそうだろうな」
「嘘だろオイ!!あちゃ〜どうしましょ」
「この牢を出よう」
「んじゃ任せてください!鍵穴弄れば脱出できるんで、ちょっと待ってくださいね〜!」
得意気になり超能力を発動しようとした瞬間、隣でギギギギギと鈍い音が聞こえた。
「開いたぞ」
「へ?…ええええ!!??」
隣を見ると、鉄格子がねじ曲げられていた。聞こえていた音は、加賀美が鉄格子をねじ曲げている音だったのだ。
加賀美に続いて牢を出る幸太郎。加賀美の怪力に若干引いていた。
牢に入れられるとき通った道を辿り、二人は地下を出る。階段を登った所にあったのは兵士の待機場だった。牢へ入るときに武器を取り上げられたことを思い出した加賀美は適当な剣を見つけ、腰に挿す。
幸太郎がテレパシーで辺りを探る。
すると、“助けて”という声が頭に届いた。
「反応あり。…玉座の広間の方です。国王と姫と敵5人ってところかな」
「よし、いくぞ」
心の声を頼りに玉座の広間へ向かう。途中で兵士の亡骸をいくつか目にするが、弔ってやりたい気持ちを抑えて走る。
そして広間の前に到着した。
「………っ!」
幸太郎の足が止まる。扉の向こうからする死の臭いに気圧され、足がすくんでしまっていた。自分の恐怖と向き合うと、逃げてしまいたいという本能が浮き出る。
「幸太郎、お前は先に逃げてもいい。この先は、命の保証ができない」
冷や汗を浮かべる幸太郎を見て加賀美が言う。
「………」
(…この扉の先には何がある?死か?…でも、逃げた先に何があるのかは考えなくてもわかるよな。そうだ、逃げた先にあるのは……後悔だけだろ!)
それでも。幸太郎は恐怖を振り切り足を踏み出す。
──関係ない。“助けて”と聞こえたんだ。逃げるわけにはいかない
勇気と呼べるかもしれないものが、幸太郎の体を動かした。
第2話、読んでいただきありがとうございます!
3話は明日投稿できそうです!
投稿ペースが不安定になるかもしれませんが、これからもよろしくお願いします!