第1話 未知なる大地
目を開くと、雲一つない青空があった。自分は草原で寝ていたのか、などととぼんやり思う。暖かいそよ風があまりにも気持ちいいものだから、眠気に従いまた目を閉じそうになる……が、それどころではないことに気づき、一気に目が覚める。
自分が死にかけたこと、案内人を名乗る人物と話したこと、否応なしに放り出されたことを思い出す。
「あー!なんなんだよあの人は!意味深なことだけ言って放り出しやがって!」
とりあえず状況を確認しようと、起き上がって辺りを見渡す。
見たことの無い生き物だらの、まるで異世界である。頭がフリーズして呆然と立ちつくす。
その時だった。
「おい、そこのお前」
急に声をかけられ、慌てて振り向く。
そこには、出動服を着た機動隊員のような男がいた。ファンタジーのようなこの光景と合わせると、なんとも異質だ。拳銃を持っていたので、下手に動かないようにする。
「質問する。ここはどこだ?」
「いや…俺も知らない…です。案内人を名乗る男に放り出されて気づいたらここにいたんですよ」
「…なんだ、俺と同じか。参ったな…現地人に話を聞ければと思ったんだが…」
「なんかすみません」
「謝る必要は無い。置かれている状況は同じだろう?」
「じゃあ迷い人同士、手を組むってのはどうですか。2人なら、困難も減るでしょ?」
「その通りだな。とりあえず歩いて人里を探そう」
「俺、一条幸太郎っていいます」
「加賀美安彦だ、よろしく頼む」
あっさりと話が進み、手を組むことが決まる。
そして、男二人の冒険がはじまった
「そういや加賀美さん、機動隊員か何かなんですか?その服装、普通じゃないですよね」
割と速い加賀美に合わせて歩きながら、幸太郎が問いかける。
「SRGO、超常現象特捜隊に所属していた。警察では対処しきれない怪事件を捜査する組織だったのだが…まさか自分が超常現象に巻き込まれるとはな…」
「そんな組織あるんですか!?知らなかった……俺、ちょっと興味あります」
自分が超能力者であることもあって全く疑わない幸太郎。むしろワクワクしていた。
「SRGOは2070年に設立された組織だ。俺が加入したのは設立5年後で…」
「ちょ!ちょっと待ってください!」
「どうした?」
「今、2070年って言いました!?」
「ああ、言ったが…?」
「俺がいたの、2020年なんですよ…!」
「?」
加賀美は首を傾げたが、すぐに幸太郎の言いたいことを理解した。
「…つまり俺達は違う時代から来たと?」
「多分…そういうことだと思います」
「驚いたな…だがここは別の時代とかそういうものではなさそうだぞ。あの男が言っていた通り、完全な異世界だ」
「まるでゲームや小説で見るようなファンタジー世界ですよねー。まあ正直ワクワクしてるんですけどね!」
「ファンタジー小説、か…。そのうちホビットやエルフなんかと遭遇するかもしれんな」
「50年後でもやっぱり有名なんですか、指輪物語」
「……!」
加賀美が足を止めた。
「どうしたんで……って、えッ!!??」
前を見ると、道を巨大な竜が塞いでいた。
「ドラゴン!?ドラゴンナンデ!?」
「Graaaaaaaaaaaaaaaa!!」
ドラゴンは2人に気づき襲いかかってきた。幸太郎はどうすればいいのか分からず動けない。
接近してきたドラゴンが腕を振り下ろす。
加賀美は腕を受け止め、左手で銃を抜きドラゴンに向け発砲するが、弾丸は鱗に無情に弾かれる。
「……効かないか………なら!」
疾風のような素早さで、加賀美はドラゴンの腹の下に潜り込む。力を溜め、くらわせるのは正拳突き。加賀美は腰を深く落とし、真っ直ぐに相手を突いた。
渾身の打撃を受け、ドラゴンは怯む。
「一応ダメージは入ったようだが…有効打とは言い難いな」
「じゃあ、どうすれば…」
「対超生物兵器、オメガブラスターを使う!」
「なんすかソレ!?」
「手の負えない怪物相手に使う、高出力レーザー銃だ!これなら確実に倒せ…なにっ!?」
横を見ると、ドラゴンが火炎を吐く準備に入っていた。
絶体絶命。炎をくらえばひとたまりもない。
(くそ…!何か俺にできることは…!)
幸太郎は考える。そして、閃く。
次の瞬間、幸太郎は加賀美の前に飛び出した。
「おい!何やってる!!」
「言い忘れてたけど俺、超能力者なんですよ!閃いたんでちょっと命預けてください!」
「!?」
両腕を前に出し、目を閉じ精神を集中させる。
(水だって操れるんだ…!炎だってできるはず…!)
そして溜めるに溜められた火炎が放たれ、幸太郎の手を燃やす。
────手が、熱い
焼けるような痛みが続く。激しい痛みによって精神まで焼き切れそうになる。
────一瞬でいい。歯を、食いしばれ…!
ただこらえ、精神を集中させる。
強く念じ、両腕を横に開く。
目を開くと炎は真っ二つに引き裂かれていた。
「は…はは…ほんとにできちゃったよ…」
「ナイスだ幸太郎!あとは任せろ…!」
加賀美は幸太郎の頭上を飛び越え、兵器を構える。
オメガブラスター。収束させたエネルギーを撃ち出し対象を消し去るレーザー銃。発射した瞬間、視界は激しい閃光に包まれた。
閃光がやみ、辺りを見渡せるようになる。
前方にあった木はほとんど消し飛び、まるで違う場所になっていた。
先程までドラゴンがいた場所にはボロボロの翼が落ちている。
「うへえ…すごい威力…2070年やばいな…」
「周囲への影響が大きすぎる上、死体の回収ができなくなるからあっちでも本当に最終手段だった。今回も森を破壊してしまったしな…」
「…っ!いって…」
手を軽く火傷していて、ヒリヒリする。もちろん、この程度で済んだだけマシである。
「包帯巻いとくか?」
「いや、ちょっと痛いだけなんで大丈夫です。あっ、加賀美さん!ちょっと遠くに街が見えますよ!」
「おお、これで一安心できるな」
「あー。お腹すいたなー!初の異世界飯は何にしようか!」
安堵と期待と疲労感を胸に、二人は再び歩き始める。
街でまた厄災に巻き込まれるとも知らずに。
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