プロローグ
「あなたは しにました」
目が覚めて1番最初に聞いた言葉がそれだった。
「へ?」
「…まあ正確には死んでいないけれど、あのままなら死んでいたでしょうね」
目の前に立つシルクハットの男が小さな笑みを浮かべながら言う。
「…?一体ここは…っていうかあなた誰です?」
「案内人とでも名乗っておきましょう。轢かれて死にかけていたあなたを助けてあげたのは私ですよ。傷もバッチリ治してあげたんだから、感謝してください、なんてね」
「轢かれ……?」
目が覚めたばかりだからか、頭がボーッとしていて思考が鈍い。
「思い出せないのですか。では、少し前の記憶を振り返ってみましょう」
2020年○○月○○日土曜日、一条幸太郎はいつも通り目を覚ました。
幸太郎はある一点を除けば普通の高校生である。普通じゃない点とは、超能力が使えること。テレパシーやサイコキネシス…つまり人の心を覗いたり手で触れずに物体を動かすことなどができる特殊な力である。
ただいくらでも自由に使える訳ではなく、テレポートは消費が激しく1日1回しか使えない、とかサイコキネシスを使いすぎると頭の傷が開く、などといった制約もある。
幸太郎は基本的に超能力を人前で使わないようにしていた。もちろん、他の人間に話したことも無い。使えるようになったのは10年前からで、幸太郎はこの超能力とそれなりにうまくつきあいながら生活していた。
「今日のバイト…何時からだっけ…」
あくびをしながら一日のスケジュールを確認する。この日はバイトが三つ入っていた。
朝食は簡単にスクランブルエッグで済ませる。最初のバイトは8時からで現在7時10分。少し早いが幸太郎は出発することにした。
「行ってきます」
出かける挨拶をするも、誰もいないので当然返事は返ってこない。幸太郎は鍵を閉め、最初のバイト先に向かって歩き始めた。
「おお、一条じゃないか」
「よっ!幸太郎!ちょうどいいや!カラオケ行こうぜ!」
歩いていると、前方から自転車に乗って来た二人組に声をかけられる。黒木信二と鈴木民也。仲のいいクラスメイトで、民也の方は中学一年生のころから同じクラスだった。
「二人ともおはよう。俺はこれからバイトだよ」
「お前いっつもバイトじゃねーか!たまには休めよ!」
「大袈裟だなぁ。日曜日は休みにしてるっての」
「よーし、明日は遊ぶぞ!」
「おっけー!じゃあ後で連絡よろしく」
「じゃあ明日!絶対だぞ!」
そう言うと、民也は全力で自転車を疾走させた。
「じゃあな、バイトがんばれよ」
信二も民也を追いかけて自転車を走らせる。
二人が見えなくなるまで手を振る。級友と話したことで若干寝ぼけていた頭も冴えた幸太郎。またバイト先へ歩き出す。
この7時過ぎという時間は案外人がいるもので、子供も外に出てボール遊びをしていた。
朝から元気だなあと思いながらボールで遊ぶ少年を眺める。少年はボールを強く蹴りすぎてしまい、ボールが道路へ出てしまう。追いかけ道路へ飛び出す少年に、最悪のタイミングでトラックが迫る。
「危ないッ!!」
幸太郎は咄嗟に飛び出し、少年をつきとばす。しかしテレポートで自分の身を守る時間はなかった。
───あ、しくじった。
トラックに轢かれ、視界が暗転するのと同時に意識は途切れた。
「…とまあ、そういうことです」
「あー!思い出した思い出した!」
「未来ある少年を守った訳ですが、悔いとかあります?」
シルクハットの男がヘラヘラした態度で聞く。
「悔いはないけど、未練はあるよ!約束してすぐに死ぬとか我ながら信じらんねー!…いやでも、あんたさっき死んでないって言ったよね?じゃあ、俺は戻れるってわけ?」
期待を込め、尋ねる。
「いやーそれがね!君は別の世界へ行くのです」
「なんで?」
「その方が面白そうだから。君は第二の人生を謳歌し、私はそれを見て愉しむ。うん、最高のギブアンドテイクだ!」
「勝手に話を進めないで欲しいなー!」
「よくわかってないようだけど、君に選択権はないよ。じゃあ、楽しみにしてるよベイベー!さらば!」
「うわっ!なんだこれ!」
身体が白い光に包まれる。次の瞬間、幸太郎は蒸発するように消えた。
「…転移成功。さて、どんな物語が見られるのかな」
椅子に座り、シルクハットの男はほくそ笑む。
プロローグ、読んでいただきありがとうございます!
不慣れで拙い文章ですが、どうぞこれからもよろしくお願いします。
2話まで続けて投稿するので、そちらもぜひお願いしますm(_ _)m